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E  作者: いーちゃん
90/105

雷鳴アンプリファ

part-f


 統一連合が指定してきた時間まで三十分を切ると、艦内は泡を喰ったように忙しくなった――ミオはレナ、イアル、フィエリアたちとともにパイロットスーツへ着替え、艦橋に戻る。

 レゼアとクラナは早々から待機していたようで、二人は図面に目を走らせながら打ち合わせしていた。開いた扉から現れる四人を認めたクラナが、

「よく眠れたかね?」

「あぁ、問題ない。ってか……そんな仕事もやるようになったんだな、おまえ」

「まあな。これでも、なかなか悪くない額を貰っているのでね」

 適当に返事をあしらったあと、ミオは空いていたオペレータ席へ腰かける――タイミング良く入ってきた通信士の少女が複雑そうな表情をしたあと、もと来た道を戻っていったが。それを見ていたレナは壁際にフィエリアと並ぶ。

 レゼアは室内のメンバーを見回し、

「よし、全員集まったな。これより作戦会議に移るとしよう」

 パネルを素早く操作すると、空中にホログラムの蒼白映像が描写される――北米基地における、半径十数キロメートルに渡る海域だ。電波妨害が行われている場所はモザイク状の黒点となり、警戒や注意を促すマークが添えられている。それがおそらく、レゼアが怪しいと睨んだポイントなのだろう。

「今回の作戦には、重要な狙いがふたつある。ひとつはイアルの妹たるイリヤ・マクターレスの救出。次はこの機動艦(フィリテ・リエラ)を洋上まで突破させること、だ。これらふたつを完遂させるようにプランを組んだ」

「ってか……やっぱりこの艦、盗むつもりなんですね」

「『盗む』だなんて人聞き悪いこと言うな、せめて『奪う』と言ってくれ」

「……」

 レナが呆れたように言うと、レゼアは形のよい眉を寄せて口を尖らせた。

 ……どっちも似たようなもんだろ。

 ミオは特大の溜め息をして、話の続きを促した。

「で、具体的には?」

「イアルとフィエリア、クラナの三人で潜入・奪還班を組んでもらう。北米基地へ侵入して、イリヤを奪い返してこい」

「はぁ!? マジかよ、じゃあ着替えた意味ねーじゃん。侵入……ってかエリアは?」

「それは私の端末に組み込んである、問題ないさ。よろしく頼むぞ、少年」

 クラナは独特な口調で言うと、片手にした電子端末をコツコツ叩いてみせた。

 イアルは「大丈夫なのか?」と言いたげな表情をしたが、残念ながらイリヤを救うにはその方法しか考えられない。一歩でも踏み違えばその結末は……と考えると、おぞましく冷たい感覚が脊髄を駆け抜ける。

 レゼアは再び口をひらいて、

「そしてミオとレナ、私を含めた一般兵たちが戦闘班だ。進路を阻んでくる統一連合を迎撃し、〈フィリテ・リエラ〉を護る。もっとも、レナは待機なんだが」

「えぇっ、あたしが待機!? なんで!」

「忘れたのか? しょうのないヤツだ」

「あ、アンタに言われたくないわよっ!」

 〈フィリテ・リエラ〉は先の戦闘に連れだって便乗したヤガミ社に乗っ取られ、レナをはじめとする兵たつは捕虜になっている――という(無理矢理な)作り話を思い出して、レナは「あうがぁ――っ」と意味不明な苦悶を発した。

 そう、さらにいえばイアルの妹の件もある。ここでレナたちが堂々と裏切ってしまえば、すぐにでも人質をとられかねないのだ。

「わ、わかったわよ……あたしは待機ね」

「それでいい。と、そろそろ――」

『艦長、よろしいでしょうか?』

 モニターの隅に、少女の柔らかい表情が映し出される。別室に控えていた通信士(オペレーター)からのものである。予想が確信にかわったレゼアは、

「どうした?」

『敵の大型強襲艦より通信要求です』

「ありがとう。繋げてくれ」

 画面/反転。

 映像がうまく切り替わり、真っ黒な枠と白い文字[sound only]が表示される――唐突に響いたのは男性の低声だった。おそらく指揮官、あるいは司令官クラスの人間だろう。

『指定の時刻を迎えた。答えを聞こうか』

「人に物を訊ねるときは名乗ってから……と言いたいところだが、まぁいいさ。我々は本海域を強攻突破する」

『そうか……では』

「決まったな。我々が相容れあえんというのは、仕方のないことなのかも知れん」

 映像が途切れ、モニターは再び海域を映し出す。さっきまで静かだったそれは眠りから覚めるように急動し、熱源の点は徐々にひろがり始めた。


____________________________________________________________________________________


part-α

「しっかし生身で潜入だなんて……よくもやってくれるぜ」

「まぁ、仕方ないでしょう。それしか方法がないのですから」

 文句を垂れながら、イアルとフィエリア、クラナの三人は係留ブリッジから港へ降り立った――つい先日、艦を降りたキョウノミヤが通った道筋である。

 自動拳銃を携行したイアルはシャツの上に黄土色という地味なジャケットを羽織り、フィエリアは黒っぽい戦闘衣装――普段は下ろしているハズの黒髪を上げ、今日は後ろ髪をまとめている。腰には二本の小刀と、利き手には漆黒鞘に収められた太刀さえ見受けられる。本人に言わせれば「野太刀」ということらしいが、イアルには何のことだかわからなかったため、それ以上については言及しなかった。

「お、準備はいい様子だねぇ」

 最後に降りてきたのはクラナだった――焦茶色の外套をまとい、ガンマンのような帽子を目深にかぶっている。

 イアルは靴紐を結び込んで、

「んで。潜入……って、一体どこからやりゃいいんだ?」

「基地の南西部に破壊されたゲートがある――ちょうど配備の薄いエリアだよ。そこから侵入すれば、地下へ潜ると収容施設へ辿り着ける。レゼアが言うんだ、間違いない」

「ホントに信用できんのかよ、アイツ」

 アイツ――とイアルが投げやりに言ったのは、他でもないレゼア・レクラムのことである。軽い身のこなしや態度、物事を深く考えたこともなさそうな――と言ったら失礼だろうか。

 ふむ、と思案したクラナは、

「たしかにバカっぽくはあるな」

「……肯定すんのかよ?」

「だが、彼女は白楽明晰だ。それに神のごとく運がいい」


part-β


「へくしゅんっ!」

 漆黒色の〈ヴィーア〉――そのコックピットのなかで、レゼアは思わず鼻白んだ。隣に立つ白亜の機体から「……くしゃみ可愛いなおまえ」と痛いところを突いてきたミオに「う、うっさいぞバカ」と返したところで会話を終える。

『ゼロフレームだ。先、行ってるからな』

『はいはい、どーせあたしは待機ですよー』

 軽くご立腹したレナが返答。

 言い終えるか否かのところで、リニアカタパルトが火を噴いた――鋼鉄のレール上から火花が弾け、白亜の体重を一気に空へ。重力から解放されたゼロフレームはくるりと身を半回転させて敵陣へ飛翔した。

「さて、そろそろ私も行くか」

 レゼアの〈ヴィーア〉は、一見すると無装備にさえ見えた――それはライフルやミサイル類の射撃武器を積載しない、拳のみを武器とした、ある意味で究極の戦闘スタイル。潔いというかバカというか……とはミオの意見だが、レゼアは快く受け入れていた。

「……」

 陽光の下に躍り出る――最初に目で追ったのはやはり〈ゼロフレーム〉で、勇ましく空を舞う姿を見て安堵の吐息。ミオのことだ、問題ないだろう――。

 思う刹那、上空を飛来していく三機の敵。チッ、と憎々しげに舌打ち、漆黒の〈ヴィーア〉は腰を落として高く跳躍。左右からの弾幕をかいくぐると膝をクッション代わりにして高台に着地し、次の攻撃に身構える。

 半年ぶりの操縦だが、元エースとしての腕は堕ちていないようだった――そのことがレゼアの気持ちをまんべんなく昂らせてくれる。

「悪いが、恨んでくれるなよ。この拳を止められるものか……!」

 ブースター点火/バーニア全開。

 〈ヴィーア〉は滑空するように斜面を駆け下り、勢いよく右拳を振り上げる!

 光刃を出力したサーベルを振り回す敵機(エーラント)の懐――しゃがみ込むような姿勢でもぐり込み、わずかな隙を突いてアッパーを突き刺す。

 全高二十メートルはあろう機体が、まるで紙吹雪のように吹っ飛んだ。

「――まだだっ!」

 今度は〈ヴィーア〉が跳ね上がり、右脚を横へ薙ぐ――ふくらはぎ/ブースト展開。

 ジェットの噴出力を与えられ、強烈な回し蹴りがヒット。烈脚を叩きつけられた〈エーラント〉はバランスを失って吹っ飛び、海のなかへと没した。

「……むぅ、やりすぎたか。仕方あるまい」

 茫然自失している敵のうち一機を捉え、レゼアは一気に距離を詰めて肉薄――腕部を掴むと、まるで背負い投げの要領で再び海に投げ込む。

『む、無茶苦茶な戦い方だ……』

「なんだと? よく聞こえんな」

 三機目も同様にして、顔を洗って出直してこいと言われんばかりに海へ。

 レゼアはフン、と鼻を鳴らして回線をひらいた。

「〈フィリテ・リエラ〉。防御システム稼働率は?」

『現在7.96パーセントです。数値的評価は低いですが、この状況なら期待できるかと』

「良好だ、付近の敵は私とミオが排斥する。昨日のこともあるから敵の数は多くないだろう――が、念のため警戒しておけ」

『了解ですっ!』

 威勢のよいオペレータ女子の返事を聞き流して、レゼアは通信を終えた――統一連合の戦力は、昨日の襲撃によって半減したと言っていい。しかし、その抜け穴を埋めるために傭兵がなだれ込んだ、というのもまた認めがたい事実である。

「――ッ!?」

 接近警告。

 反射的に機体の踵を弾いて、自身からみて左へ回避。60度にひん曲がったそれは〈ヴィーア〉がもといたハズの場所を貫き、再び狙いを定めてブーメランのような動きで往復してくる――レゼアは舌打ちすると右拳を腹に引き、弾丸の如き疾さで繰り出した。

 ジェット圧を喰った轟速拳が唸り、ブーメランのビーム刃ごと貫く。

「傭兵、か……」

 レゼアの口調が、ふと冷酷な感情を漂わせる。

 小高い丘の向こう側――そこに立っている、夜闇色の機体。

 大鎌を従え、背中に同じ色のマントを背負う死神は……死喰〈リヒャルテ〉だった。

おはようございます。

テスト週間ですね。学生のみなさん頑張りましょう…orz

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