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E  作者: いーちゃん
89/105

TWIN SPiCa -HPT Re/ACT-

ミオが最新鋭機<ゼロフレーム>を受け取った経緯――。


part-e


「……と、いうのが俺の経緯だ」

 〈フィリテ・リエラ〉の艦長室――なかば半数の機能が失われた場所で、ミオは腕を組んで説明を終えた。5メートル四方のスペースには、取り囲むような配置でレナとフィエリア、イアルの三人が。さらに扉の近くには、面白そうなものをあれこれ物色するクラナの姿もある。

 Y・H(ヤガミハイテクニカル)社――その高速艦が作業員たちを引き連れて、レゼアが北米まで到着したのである。いまは総出で艦の補修、あるいは機体の改修に追われているであろう。クラナはその随伴で来たのだ。

「俺たちは、何としてもセレーネを止めなきゃならない。ヤツの目的は世界の改変――具体的にどんなものかは想像に及ばないが、思い通りにさせるわけにはいかないんだ」

「『ヤツ』っていうのは、アイツか?」

 イアルが意味不明な問いを発したが、ミオは黙ったままこくりと頷いて、

「レー。セレーネの核であり、俺の――いや、俺はアイツのクローンなんだ」

「っ!」クラナを除く3人が、驚きに表情を歪めた。

 レナはしばらく無言を保ったあと、

「マジ、なの?」

「――マジだ。って、おい頬をつね()んりゃな痛いいたい」

「ほんとだ。ほっぺたがクローンっぽい」

 ……どこがだ。

 ミオはひりひり痛む頬を押さえながら、一方レナは頬を掴んでいた指の感触を確かめる。おまえはクローンの意味を知らない子かっ!? と言ってやりたいのを我慢して、ミオは壁際へ背を預けた。前髪を掻く。

「んで、そんな話の深追いは要らない。話は変わるが今度はおまえたちのことについてだ。統一連合から離軍すれば、逃亡か脱走の罪状が課される。いまはレゼアのおかげで匿われているが……」

「あー、オレたちゃ捕虜扱いされてんのか?」

「表向きだけな。俺が〈フィリテ・リエラ〉を乗っ取った話になってる」

「そりゃ名誉すぎる話だぜ。本部はなんて言ってるんだ?」

高速機動艦(フィリテ・リエラ)を返せ、二十四時間後に要求が通らなければ攻撃を開始する――だそうだ。良かったじゃないか」

「良くはねーよ、良くは……。でもま、もう一択しかねぇよな」

 イアルは腕を組んでみせた――フィエリアが離れた位置から相槌をうって、

「わたしも同感です、腰抜けに身を捨てる覚悟など持ち合わせていません。レナは?」

 全員がレナを注視した。

 少女は形のよいあごに指先を乗せて思案、しばらくして――

「そーだね。いままでお世話になった人たちを裏切るのは気が引けるけど……、本部の対応を見ても仕方ないかな。この艦には、まだ納得してない人もいる。それに――」

「?」

 少女は一瞬だけミオの表情を窺い、顔を火照らせて目を伏せる。

 フィエリアが「あっ」と呟いた。

「でも、イアル……あの」

「だあぁっ! オレだってバカじゃねーんだ、ちゃんとわかってるから先を言うな!」

「そ、そうですか?」

「そーなんだよ、だからそのいかがわしげなモノでも見るような目はやめろって!」

 少女が突きたかったのはイアルの妹の件だったが、事情を知らない他のメンバーは揃って「?」の字を浮かべる。クラナは「女のことかね?」と小指を立ててみせ、レナに「それっぽいわよね」と同感されていた。

 ニヤ、と笑う二人は、おそらくこの世界で最も邪悪な部類にわけられるだろう。

「なるほどね、妹さんかぁ」

「……はい」

 結局――というか結果的に自白させられたイアルは、気づけば床に鎮座して肯定。

「うん、いいアニキじゃん」レナがウインクしてみせる。

「はい――じゃなくて、なんでオレは自白させられてるんだよぉっ!?」

「あー……それは気づかない行間とかで拷問とかが」

「ねぇよそんなもの、うわそんな怖い目でオレを見んなっ!」

 彼の打ち明けた話によれば、イアルの妹――二年前に十三歳だった少女は、原因不明の病により以来、ずっと昏睡状態が続いているのだとか。統一連合の本病棟に託されてはいるものの、イアルが軍から脱走してしまえば、人質に捕らえられるパターンだって考えられなくはない。

 ミオが口をひらこうとしたところで、

「あー、全員ちょっといいか?」

 扉の入り口から、レゼアがひょっこりと顔を覗かせた。左手には手のひら大の電子端末、反対の腕にはクリップボードと手書き資料書を抱えている。

「いくつか報告なんだ。まず艦の損壊率は27パーセントで、推進部とエンジン部さえ改修できれば、明日にはなんとか使えないこともない。ただ問題は操艦技術と、誰がやるかだな」

「レゼアさんはどうなの?」レナが訊ねる。

「私か? と、さん付けはやめてくれ、照死するじゃないか。出来ないことはないんだが……さっき、この艦のOSS(オペレーティング・サポート・システム)にアクセスしたところ、」

 話によると12台あるCPUのうち3台がすでに死亡、残り9台のうち8台はレゼアを認識したが、あと1台だけは反抗を続けているという。

「……ってか、もしかしてこの艦をパクる気なんですか」

「ん、当然だろう」

「はぁ!? あ、アンタって目の前に自転車が放置されてたらパクっちゃう人?」

「妙に生活感の滲む喩えだな。そんなの置いてるヤツが悪いし、私が常に正しいのは世界の定理だろう。そういう意味だと、自転車も戦艦も似たようなものではないのか?」

 ……どんだけ唯我独尊なんだコイツと言ってやりたいのを必死で堪え、レナは割れそうに痛む頭を抱えた。

 統一連合を抜けるなら、どのみち旗艦は必要となるのだろう――それが〈フィリテ・リエラ〉となるのにはレナは納得いかないが、この唯我独尊女ならやってのけそうだ。

 レゼアは資料書を整頓させて、

「各機の状態はまとめて個人ごとに連絡する。今日中に確認しておくこと――それと、」

「……まだ何かあるのか?」

 イアルがうんざりした口調で言った。ひとつ頷きかえすと、

「明日は統一連合と戦うことになる。迷いのある者は、すぐにでも艦を降りてくれ」

 ミオとフィエリアがイアルを注視したが、主は「なんでもねーよ」と軽く手を振ってみせた。

「異議なし……だな。明日のこともある、しっかり休んでくれ。それと、イアルの妹――イリヤに関しては別から奪還プランを立てよう」

「お。サンキュ……って、なんでそれを知ってるんだ?」

「私を誰だと思っている? 天下無敵のレゼア・レクラムだぞ。知らないことはない」

 彼女はいたずらっぽく笑むと艦長室をあとにした。廊下の向こう側から高笑いが聞こえた気がして、その場にいた全員が頭を抱えたが。

______________________________________________________________________


 夜になると、艦内は異様なまでに静かになった――統一連合という敵が目と鼻の先にいるのに、この静けさでは警戒態勢なのかどうかもわからない。

(いや、警戒態勢だからこそ……か)

 両軍がピリピリ睨み合っているなかで銃声でも噴けば、その緊張は一気に崩壊されかねない。

 ミオはベッドから起き出してシャツを羽織ると、自身に割り当てられた部屋を出る。廊下もやはり静かなものだったが、どこか遠く――おそらく格納庫のあたりから届く作業工具の音は、懐かしさにも似た趣きがあった。

 いくら病み上がって一日目とはいえ、そのあいだ五日間も休んでいてはベッドに転がっていても眠れない。

 無理もないだろうと思いながら、ミオは歩き出した。廊下をまっすぐ直進して階段を上がり、目についた防水圧扉をひらく。

「星……?」

 扉を閉めることも忘れて甲板に上がり、ミオは天蓋に瞬く輝きたちを見上げた――それらはまるで息づいた欠片のように、あるいは呼吸するように瞬いている。

「どれがどの星とか、わかる?」

「レナ……」

「あたしも寝れないのよね。ちょっと座ってていい?」

「あ、あぁ……」

 言うとレナは平坦な場所を探し、膝を抱えるような格好は体育座り――隣をぽんぽん叩く仕草は、並んで座ってくれという意味があるらしい。

 三十センチ程度の距離を広げて着座すると、レナはむっとした表情で腰を詰めた。

 ふたりは暫く沈黙したあと、

「ありがとね、いろいろと」

 唐突に放たれた言葉に、ミオはどう対応すればよいのかわからなかった――気まずい間断を絶つために首を横へ振ると、ミオは浮かんだ文句を口にする。

「そんなこと、あんまり気にするな。重要なのは『これから』だろ?」

「……うん。そだね、過去のことばっかりうだうだ言うのは趣味じゃないし。じゃ、あたしたちの『今後』でも考えてむる?」

「む、むる…? ……って、おい腕を取るなっ!!」

 掴まれた右腕を乱暴に振り払って、ミオは絡められたレナの腕をほどいた。少女は目を白黒させながら、

「ご、ごめん。そんなにイヤだった?」

「あー、嫌ではないんだが……その、少し恥ずかしくてな」

 ほれ、とミオは目を伏せたまま右手を差し出した。漆黒な夜空の下でも、その顔が真っ赤になっているのがわかる。

「……手だったら許す」

「やったぁー!」

「そんなに嬉しいのか?」

「うん、まぁね。オンナノコってのは複雑で、意外となかなか単純な生き物なのよ」

「……どういう意味だよ、それ」

 やれやれと溜め息をついているとやがてレナの手のひらが重なって、ひんやりと冷たい床に押し宛てられる。手の甲が温かくて、手のひらが冷たい――不思議な感覚だ。

 いざ手が触れてみると恥ずかしくなったのか、レナは黙ったまま下を向いてしまった。ミオも目のやり場をなくして天蓋を見上げ、

「俺の手……イヤじゃないか?」

「う、ううん。そんなことないよ」

「そっか。それは良かった」

「なんでそんなこと?」

「……いや、なんでもない」

 ミオは空いた左手で前髪を掻きむしると、ぼんやりと地平の先を眺めた。

 ――クローン。

 その忌々しい単語を思い出すたび、ミオの胸には、ずきりと痛みが走るのだ。自分が生きている限り逃れられない、永遠の呪縛だからかもしれない。現にミオの右手は年寄りのそれみたく醜くなっていたし、服を脱げば似たような兆候は身体全体に見られる。

 ……あんまり永くないんだろうな、とは口が裂けても言えなかったが。

「あ――っ!!」

 すっとんきょうな叫び声を耳にして、二人は勢いよく振り返る。戸口のところに立っていたレゼアは「むすっ」と頬を張らせ、ずんずんと勇み進んできた。

 腰に手を宛てたままの真表情で、

「ミオ、ずいぶん探したんだぞ。おまえの部屋へ夜這いに行ったら、ベッドがもぬけのからだったのでな」

「は、……はぁ!? あんたたち――」

 レナは跳躍のごとく立ち上がってミオのおっかなびっくりを見、次にレゼアを見て、

「夜這うって……あ、あんたホントに意味わかってんの!?」

「む。真夜中、性欲を持て余した男女が相手の身体を貪りに就寝中を襲うこと、だ」

「も、持て余す――? じゃなくて、そんな正確に答えるとは思ってなかったわよっ!」

「……」

「……」

「……動詞なんだぞ?」

 要らねーよそんな情報、とレナは本気で頭を抱えたくなった。

 初めて会った時からそうなのだが、この女はミオとどういう関係なのだろう?

 嫉妬――というような純粋な気持ちではないが、レナはレゼアを「ミオに近づく不純なモノ」とさえ認識していた。まったく汚らわしいっ!

「あー……レナ、誤解はしないでくれ。な?」

 頼み込むような表情で、ミオはレナの双眸を見た――そして当の本人には決して気づかれないように「レゼアは頭がおかしいから」とジェスチャー。

 レナは妙に納得した様子で溜め息を吐息に替え、

「じゃあ、いいわよ……せいぜい夜の生活――もとい性活を楽しんできなさい」

「え、おい! 待つんだレナ、だから俺は性活なんてしないしそれは誤解ぃ――」

「よし、持ち帰り決定だな」

「レゼア、お前が喋ると話がこじれるから黙ってろ! 一生っ!!」

 連れ去られる間際の抵抗もむなしく、ミオはレゼアに腕を引っ張られてゆく――

「待って」

 満天が咲く夜空の足下に、凛とした声が響き渡った。レナが呼び止め、レゼアが背後を振り返る。

「あたし、負けないから。アンタなんかに」

 レナの表情は真剣だった。き、と眉根を寄せ、目の前の相手に果たし状を叩きつけるように。レゼアはすっぽけた表情で唸ると自分の胸元を見、次にレナのそれを確認――

「……胸の話か? それならレナ、おまえのは二戦二敗――」

「ち、ちがうわよっ! しかも二戦二敗とか左右べつで計算すんなっ!!」

「? では何――」

「あー…もうっ、ミオの話! あたしだってアイツが好きなの! だからアンタには、絶対に負けないんだからっ!!」

 少女はキッパリと、自身の持てる限り強く言い放った――まるで咆吼のごときそれは、夜空という天蓋を突き抜けてゆく。

 思い当たる節でも見つけたのか、レゼアはきょろきょろと周囲を見回した――だが、そこにミオの姿はない。これ以上巻き込まれてなるものかということで、彼は脱兎のごとき速さで逃げ出したあとである。

 ふむ、と思案したあと、

「私に勝負を売るということは、どういう意味かわかっているな?」

「え……?」

「人が他人を好きになるということは、そいつのあるがままを受け容れてやらねばならん。レナ・アーウィン――おまえにその覚悟が出来るのか、私が見届けてやろう」

「……」

「私はな、アイツを護るためならば世界を敵に回しても一向に構わないと思ってる。冗談と思われるかも知れんが、私は常に本気だ。だが、とりあえずは目の前に集中しよう」

 彼女はふと笑んで、

「明日は早い。恋路に耽る乙女というのも構わんが、ちゃんと備えておけよ?」

「う……、うん。おやすみ」

「あぁ。おやすみ」

 レゼアは笑みをともして軽く手を振ると、甲板から姿を消していった。

 すべてを見透かされたような不思議なだるさを抱えて、星空の下――レナは暫く立ち尽くしていた。

 漆黒に瞬く空は、ただ綺麗だった。

__________________________________________________________________________________


 同時刻。

 イズミ・トモカは中東にあるASEE基地――もとい、本来ならば本部であったはずの場所へ来ていた。戦争によって組織全体が瓦解したあとは動くことさえしなかった、と耳にした覚えがある。

「……」

 それもそのハズだなと思いながら、トモカは瓦礫の中心に踏み立った。施設があったであろう建物は、いまは破棄された城か文化財のように荒れ果てているのだ。壁という壁に大穴が穿たれ、火薬と戦闘の激しさを匂わせる――。建物の中身がひっくり返されているのは、おそらく傭兵たちが盗賊行為を起こしたからだろう。形跡が真新しいため、容易に推測できる。

 レーはポケットに手を突っ込んだまま「さきに行くよ」と声を掛けて先行を切った。

 おおよそ、建物の構造はこうだ。

 地上には幅二百メートル四方、高さ四十メートル程度の平べったい建物がある。その周囲四キロメートルが「立ち入り禁止」区域となり、防衛ラインの敷かれたその先には海岸線さえ望むことができる。港には倉庫などが立ち並んでいて、艦の改修や補給が行われている――。

 これが過去の状態だ。現在ではそのいずれもが根元から倒壊し、惨めな姿を月下に晒している。

(でも、どうしてこんなところに……?)

 不安げな表情を浮かべると、レーはいつものように皮肉っぽく笑んで、

「君が思い出した基地の構造は、本部のデータベースに刻まれていたものだよね?」

 振り向いて、

「だったら、データに刻まれていない部分もあるじゃないか。僕やミオ・ヒスィ、それと一部の人間のみが知る、禁断の領域(テリトリー)が。そうだろ?」

 紅い瞳の少年は疑問を投げたが、それはトモカへのものではなかった。残っていた鉄柱の背後に、人影が動いたからだ。

こんちゃです。更新完了です。

 あ、まずはここで再三の謝辞をば。まずは本作品[E]の評価、まことにありがとうございました。でも僕のカン違いで、上位200位が総合評価600点以上だったんですよねー…

 がんばります。上位200に入ると、なんと「なろう」のアレにアレされます! 今後とも、よっろしくだじぇー!(決めポーズ

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