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E  作者: いーちゃん
84/105

白亜の騎士、舞い降りる意志

part-u


 太刀を横に払うと、飛来した大型のミサイルが真っ二つにされた――装甲に爆風の圧力を感じながら、フィエリアは鍔を裏に返す。

「こ、れでも――喰らぇぇッ!!」

 左から、薙ぐような一閃。

 目の前にいた敵機が刃に呑まれて爆散し、斬撃が彗星のような尾を引いて奔る――その軌跡の延長上にいた敵機たちも、真空の刃に掻き消されて消滅した。

 残った敵たちが一斉砲火を仕掛けようとするが、別方向からの攻撃のほうが早かった。

『味方の増援か、こりゃありがてえ!』

 イアルは弾切れになった弾倉を排してリロード――敵からの至近距離で、砲の口が火を噴いた。装甲貫通弾(フルメタル)が敵の脳天を撃ち抜く。

 その間隙を縫うように友軍の〈エーラント〉たちが上空を駆け抜け、ライフルを撃ち鳴らしつつ飛び去ってゆく――まるで曲芸飛行のように旋回すると、今度は別の敵へ。

 増援は、おそらくレナのお陰で間に合ったのだろう。フィエリアは孤独と不安から解放されて安堵を覚えるのと同時に、友人に感謝の意を表したくなった。

(でも、これだけの数ではどうにもならない……!)

 敵機へ大太刀を突き刺すと、フィエリアは憎々しげに空の方向を見やった。地面のほうへ降りてきたのはまだ敵の一部で、全体の十数パーセントくらいだろう。大部分の敵は必死で戦う様をあざ笑うかのように、射程圏外からこちらを見下ろしている。

「そういうのが一番、腹が立つんです……ッ!!」

 沸々とわき上がる怒りを力に変え、銀の大太刀[マスラヲ壱式]の細孔から光の粒子が溢れだした――熱気のように纏わりつくそれを維持したまま、フィエリアは太刀を勢いよく振り上げる。斬撃――強い衝撃の波となったそれは虚空を一気に駆け上がり、遥か上空にいた敵を一刀両断。それを見たイアルが敬意を込めて口笛を吹く。

『スゲーじゃんか。その調子だぜ、フィエリア』

「ええ。ですが……」

『キリがねーのはわかってる。だけど、やらなきゃなんねぇんだろ? それとも何か? いまさらシッポ巻いて逃げ出したくなっちまったか?』

「いえ、そんなことはありません。イアルこそ」

 彼は苦笑して、砲の先端を飛来した敵機に向ける――しかしイアルが引き金を引く前に、緑の閃光が敵の機体を貫いた。別方向からの射撃だ。

 見れば、傷だらけの深紅が上空から飛来してくる。

「レナっ!」

 フィエリアが叫ぶ。

 颯爽とあらわれた深紅の機体(アクトラントクランツ)は空中を自在に飛び回りながらサーベルを抜き放ち、豪速で擦れ違いながら弱った敵を一閃。

『お疲れさん、ふたりとも!』

「レナ……」

『なーに感慨に耽っちゃってんの。まだ終わってないのよ?』

「は、はい。そうですよね」

 イアルが割り込んで、

『よっしゃ、じゃあ目障りな敵さん方をやっちまおうぜ』

『おっけー。敵の目を引くから、お願いするわね。あたしごと撃たないでよん?』

 レナはそう言うと、もういちど高く飛翔――一気に高度四百メートルの位置まで駆け上がる。生身ではかなりの高さであるが、全高二十メートルもある機体の縮尺を考えると、これでも低いほうだろう。空中戦闘では上下左右を含めて三次元の立体空間を把握しなければならないが、さいわいレナにはその自信も力量もあった。

羽根の極兵装(ヴァーミリオン)……ッ!!」

 深紅に彩られた機体の背面からあらわれる、その名に似合わぬ純白の翼。燦然と輝く羽根は、いまも光の粉を振り撒きつづける。

 〈アクトラントクランツ〉――戦闘モード。

 ゆっくりと、確かめるようにサーベルを抜き放つ。収められていた剣が、淡い緑色の光刃を出力した――その姿は、まるで舞い降りた異形の天使のよう。

 勝てなかったら、とは考えない。

 勝つ。ぜったいに――。

________________________________________________________________________


part-v


 戦闘時間が経過してゆくごとに、レナは自分の呼吸が荒くなっていくのがわかった。

 パイロットスーツの中はびっしょりだった――たび続く緊張が汗となって噴き出し、それは額の上にも浮かんでいる。

「は、……くっ!」

 レナは重力ごと振り切って、深紅の機体を左に反転させた――青空と地面、上下が逆さまになった視界のなかで、ビームの矢が深紅色の装甲をかすめてゆく。危機一髪という言葉の意味を噛みしめながら、〈アクト〉はそのままの姿勢でライフルを二射。

「うっとうしいのよ――当ったれぇッ!」

 ビームはレナが予想したとおりの軌跡を描いて、無人機を真っ正面から突き刺す。

 やった、と安堵する時間もなく、今度は別方向からの攻撃。対空のバルカンだ。レナは深紅の機体を切り揉みさせて弾幕をかいくぐり、逆手にサーベルを構えたまま敵機へ。

 虫型の敵が牙を剥くよりもはやくサーベルを捌いて一閃――横薙ぎ。敵機はやや反抗する様子をみせたが、すぐに沈黙して動かなくなった。

(まだ、こんなに……?)

 空を見上げれば、敵機は天蓋を埋め尽くすくらいにひろがっていた。数えることなんてできないが、二百かそれ以上の敵がウヨウヨしている――まるで獲物を狙うジャッカルかハイエナ、もしくは死体を漁るハエみたいに沸き返っているのだ。

 レナの視界のなかで、不意に何かが爆発を遂げた。見れば、小隊を組んでいた〈エーラント〉の二機が胸部に被弾、エンジン部ごと大穴を空けている。

「レン、ショコラ!」

 同僚の名を叫ぶ間もなく二度目の爆発――衝撃と炎がバックフラッシュとなり、白い閃光がモニターを覆った。

「あ、あんたたち……よくもッ!」

 憎悪を込めて敵を睨む。無人機はたったいま相手を撃墜させたことに歓喜しているのか、口の横についた牙をギチギチさせながら空へ咆吼している。

 レナの中で、何かがフッ切れた。

 深紅の機体は向かってくる弾幕など意にも介さず、光刃を突きの姿勢に構えたまま突撃――

「お、……おぉぉぉっ!!」

 鬼神のごとき振る舞いで敵機へ肉薄、緑の刃を無人機の正面から突き立てる。サーベルの柄までがズブりと埋まって、青黒いオイルが一斉に噴き出した。

 〈アクトラントクランツ〉はまるで返り血でも浴びたように、てらてらと妖しい深紅色を光らせる。サーベルを引き抜くと、オイルの残滓がしたたり落ちた。

「は……はっ、ざまあ――」

 言い切るよりもはやく、背後で再び爆発が起きる。

「――ッ!? 味方機がっ!」

 レナが振り返る間もなく、今度は右から白い光と地面を鳴らすような響きが。仲間の〈エーラント〉が敵にやられたのである。その爆発は連鎖反応のように島のあちこちで起こり、やがて十二機の信号が沈黙を示すノイズに変わった。

「くそっ! いったい何なのよ――。イアル、フィエリアッ!」

 叫びながらライフルを乱射させようとして、レナの手がはたと停止。あるべきはずの返答が戻ってこなかったのだ。無人機はうまく隙を突いてビームを放ち、〈アクト〉の右腕からライフルをもぎ取った。

「ふ、ふたりとも……? 返事をしてよ!」

 淡い閃光が一瞬、モニターを焼く。

 まるで氷のナイフで心臓をえぐられたような――鋭利な感覚が全身の神経を駆け抜け、冷や汗と情けなくも渇いた声が唇から洩れる。やはり返答はなかった。

 深紅(アクト)は頼るべき友軍のいる方角へとゆっくり向き直り、

「……っ!?」

 レナは目を見開いた――海岸線で奮闘していたハズの二機の〈ツァイテリオン〉は、いまや沈黙のみを言葉として砂地へ埋もれるような姿勢で転がっている。惨めとしか言い表せない光景を目にして、レナはえもいわれぬ感情に駆られそうになった。

 その間にも、友軍の信号が次々と消えてゆく――5機、8機、15機……苦労してせっかくかき集めた仲間たちが、抵抗ままならぬまま撃墜されていった。

「そんな……」

 レナは両手で顔を覆った。

 せっかく敵に立ち向かおうというこの瞬間に、レナたちは敗北の背に立たされたのだ。

 虚空を貫くビームの矢が、〈アクト〉の肩部装甲を撃ち抜いた――レナは身じろぎもせず、為されるがままを受け入れる。肩が勢いよく弾け飛んだ。

 ――敗北。

 あと一歩というところで、あたしたちは敗けたんだ――。

「こんなハズじゃ、なかった……のに……」

 無人機の一機が鋭利な刃を振りかざす――終わった、という無念と後悔を抱き、レナは静かに目を閉じた。


『……もう諦めたのかよ?』


 ――え?

 レナは我が耳を疑った。回線を通じて届いた揶喩するような声は、イアルのものでも小隊長のものでもない。低く、痛みを押し殺すような強い声。

 刹那、二本の青白い閃光がレナの視力を根こそぎ奪った――左から右に奔ったビームの矢は無人機の頭部を撃ち抜き、とどめの一撃を胴部へ突き刺す。

 それよりはやく、目の前を横切って飛翔する白い影があった。

(――)

 たったの一瞬だが、レナは思わず見とれてしまう。

 燦然と輝く純白の機体だ。大きく翼を広げた天使――あるいは騎士のような白亜は、圧倒的な威圧感と気迫に溢れていた。機体は宙返りして腰部からレール砲を放ち、次の瞬間にはライフルの先端から迸ったビームが別の敵を撃ち抜いている。

 純白の機体は驚異的な速さで振り返るなり遠くにいた敵を照準。精確なビーム射撃が相手の戦闘力をみるみる奪ってゆく。

(増援!? この機体……ケタが違いすぎる! いや、それだけじゃない――)

 レナは全神経が逆立つのを感じた。いかなる敵をも寄せつけぬ圧倒的な力量、精確さ、微塵の容赦も与えない戦い方――。

 たしか、どこかで――。

 ライフルを高く投げた白亜はなおも急転し、慣性を活かしたままサーベルを抜き放つと猛烈な速度で敵の懐へ。横薙ぎの斬撃が無人機の戦闘力を奪い、今度は銃身を空中キャッチ/別の敵を瞬く間に撃ち抜いている……かと思えば再び腰部のレールガンが跳ね上がり、尖端から迸る火線が捉えた敵を呑み込んでいた。

『……全機、俺の声が聞こえるか? こちらは元ASEE特務班所属――』

 ちょうど9機目の敵を討ち終えた白亜の機体は、静かに空中へと舞い降りる。

『ミオ・ヒスィだ。――これより援護する』

 ついに現れた白亜の機体〈ゼロフレーム〉。

 果たしてその力は……?


 ↓キャラ投票/好評実施中。よかったらどうぞー。

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