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E  作者: いーちゃん
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第六話:奇麗事

開戦。

しかしレナは、それを他人事のように感じていた。

そんな中、新たな補充メンバーが加えられる。

 翌日。

 自室でニュース速報に耳を傾けていたときのことだ。

 開戦からまだ一日――そんな短期間でも、戦火は世界各地で広がっているらしい。そのほとんどはASEEが攻勢だということを言っていて、レナは似たような情報ばかりでうんざりしていた。

 そのときに招集がかかったのだった。

 呼ばれた通りの場所に行くと、すでに兵士の大半が集合していた。指定された部屋は、学校で見るような大講義室――階層構造の大きな部屋で、上にいくほど席が段々に高くなるそれに近い。ただ違うのは、前に巨大なスクリーンがあって、そこに軍章が映っていることだろう。

 レナは最後列の隅の席へ落ち着いた。

 部屋が暗くなり、兵士たちのざわめきが途絶える。

 前から入ってきたのはキョウノミヤだ。いつもの白衣、落ち着いた風貌だったが、少し疲れているのが遠目にもわかる。

「おはよう、みんな。よく眠れたかしら?

 早速で悪いとは思うけど、残念ながら我々には時間的余裕がありません。よって、手短に必要なことだけを話します」

 軍章がいちど回転して、モニターの隅へ消し飛ぶ。代わって現れたのは海域データで、六隻の護衛艦に取り囲まれた〈フィリテ・リエラ〉がそれぞれ青い点で、その遠くには一隻の艦が赤い点で示されている。それが敵艦だろう。

 これから向かう航路――その先はふたつの山の間をはしっていて、さらに向こうにはASEEの中継基地がある。

 逃げ切られれば、〈オルウェントクランツ〉を奪った敵艦は中継基地に収容される。

 そうなれば我々は手がだせない――と、キョウノミヤは説明を続けた。

「だから我々は、ここで敵艦を確実に沈める必要があるの。わかってもらえるわね?

 ちなみに護衛艦の六隻はカミカゼ仕様よ。つまり一隻でも特攻させたらこちらの勝ち。〈エーラント〉に乗る全員には、これらの守備をやってもらいます」

 彼女はスイッチを切って、モニターをスクロールさせた。次に現れたのは〈フィリテ・リエラ〉の全体像、艦首から船尾までの図面だ。

「そして我々には、もうひとつの切り札があります」

「アレン・ヒルズでもぶちかますのか?」

 声は最後列の隅――レナの位置と左右反対の場所から響いた。

 見ると、一人の男が机の上に足を組んで、ふんぞりかえっている。

 特徴的なのは、白銀の短髪を刈り上げたようなヘアスタイル、背は高めで態度は悪く、レナと同年代くらいの青年だった。

 キョウノミヤは一度うなずいて、

「たしかにそうよ、イアル・マクターレス。落下点が違うのよ、南極大陸じゃないの」

「そうかよ。続けてくれ」

 言われなくても、とキョウノミヤは鼻を鳴らして説明を続けた。

 切り札の内容は、こうだ。

 〈フィリテ・リエラ〉の頂の部分には、180度正反対の方向をむいた二門の陽電子砲が構えられている。

 陽電子砲は、機動兵器の持つビームエネルギーライフルとは違い、空気中における拡散率が抑えられていない。

 それを活かして、広範囲を攻めて相手の戦力を奪う――といったことだった。

「実際、このプランでは中継基地戦力の76%が奪えると、我々は考えています」

(……我々?)

 レナは疑問に思った。

 キョウノミヤは作戦概要の説明を締め括るときに、何人かを前のほうに呼び出して、それ以外は出ていくようにと告げた。呼ばれたのは実際には三人で、その中にはレナの名前も含まれている。

 一般兵士がぞろぞろ出ていくとき、擦れ違いざまに嫌味をぶつけてくる男もいたが、相手にしていたらキリがない。大抵はひがみで、とうに慣れたものである。

 同じように呼び出されたのは、黒いショートヘアの少女だった。背はレナと同じくらいの丈で、年齢も似たようなものだろう。表情は落ち着いていて、大人っぽさも兼ね備えている――スレンダーな体躯だが、細身の中にも力がありそうだ。

「前に言ってた、二人の補充のパイロットよ。紹介するわ」

 キョウノミヤが言った。

 ……どう見ても一人にしか見えないんだけど。

 レナはやや呆然として思った。

 ああ、たぶん後ろにもうひとり重なっているのだろう。ということは双子、あるいは姉妹か?

 なんだびっくりした、とレナは角度を変えて少女の後ろに目をやった。

 誰もいない。少女はやはり一人しかいなかった。

「……? どうされたのですか?」

 怪訝そうな表情で覗きこまれる。

「え? あ、ああ、二人っていうからね、あのっ、後ろにもう一人いるんじゃないかなぁなんてね、思ったりしたりしなかったり……」

「……」

「…………」

「………………」

「………………」

「バカですか」

 ぐはぁ。

 一言で断ち切られてしまった。

 考えてみれば当然じゃないか。こんな非常時にそんな遊び心を持つ少女に見えるのか?

「いや、見えるっ! 絶対みえる!」

 今度は、疑うような視線がこちらを睨んでいた。

 少女はいちど溜め息をついて、部屋の隅へ声を投げた。

「まったく。イアル、おまえのせいで彼女がバカに見えたぞ」

 フォローになってねー。っつかバカって言うな。

 部屋の隅でふんぞり返っていた青年はこちらに視線をやることなく、頭のうしろで手組しを枕みたくしたまま、

「済まねぇな、べつに俺のせいじゃねェんだが。イアル・マクターレスだ。よろしく頼むぜ、トップエースさん」

 やはり態度が悪いみたいだ。腕のほうは確かなのか、と疑問さえ浮かぶ矢先、少女がレナの手を握った。

「あなたのことは噂に聞いています。フィエリア・エルダ・ヴェルクヘイデです」

 フィエリアは、にこと笑って、

「よろしくお願いしますね、おバカさん」


ありがとうございました。

さっさと予告です。


予告

ミオとレゼアのもとに、上官が現れる。

男の名前はオーレグ・レベジンスキー。

彼は、ある問いをミオに投げ掛ける。

「世界が君を殺しにくる。そのとき、君はどうするのかね?」

ミオの出した答えとは……?

次話、第七話「轟音の束」


ここまでこれたのは、総300人の読者の方のおかげです。(いくらか自分でカウント回したけど。そんなに読者がいるとは思いませんでした。数字を見たときにビビッた)

まだまだ初盤の初盤です。まだ続くと思うので、お付き合いくださいませ。

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