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E  作者: いーちゃん
78/105

untitled

若干グロあり? そんなに大したことはないハズです。

part-d


『イアル・マクターレス。〈ツァイテリオン〉だ、出るぜ!』

『フィエリア・エルダ・ヴェルツェヘルム、〈ツァイテリオン〉F型でいきます!』

 二機は威勢よく甲板へ上がると、遠く渦巻く軍勢へ目をしばたかせた――信じられないことに、西の方角にある空は一帯が黒く染まっている。

 敵は数にして百数十かそれ以上――もしかするとそれを上回るかもしれない。いずれにせよ、澄み渡る空色を埋め尽くすような数である。

『あれ全部が、敵だというのですか……?』

『そーだろうな。撃ちゃ当たるってのは、オレとしては嬉しいが』

 レナは同僚たちのぼやきを耳にしていた。深紅の機体〈アクトラントクランツ〉の傍らでは、一般機である〈エーラント〉たちが矢継ぎ早に飛び出してゆく――キョウノミヤは、艦に搭載しているすべての戦力を投入する気なのだ。

 ――本気で、いく。

 レナは己の胸へ語りかけた。相手が無人機ならば容赦する必要などないし、むしろ暴れやすくて好都合である。

『艦主砲、用意――』

 キョウノミヤがオペレータたちに合図している。緊張感と焦りが入り混じって、レナの背すじを冷たいものが駆け抜けた――耳を澄ませば、彼らの鼓動まで拾えそうだ。

 敵をギリギリまで引きつけて――びり、とノイズがはしった。

『陽電子砲、てぇ――――っ!!』

 砲身の尖端に淡い円錐状の光子が集束して――次の瞬間、それは弾かれるような勢いで閃光を撃ちだした。黄色の光条は与えられた軌跡を真っ直ぐ描き、雲状の敵へと突っ込んでゆく。しかし敵たちはサッとドーナツ型にひろがり、陽電子砲による一撃を呆気なく回避した。

 それを合図としたように、

「〈アクトラントクランツ〉、レナ・アーウィン――行くわよっ!!」

 カタパルトが轟音の束を生み、金属レールが火花を噴いて軋む。深紅の機体は、右舷からまるで影のような速度で飛び出した。装甲が夕映えし、燦然とした輝きを返す――〈アクト〉は一瞬くるりと向きを反転させると、背面から生えた〈羽根の極兵装〉を強く羽ばたかせ、猛烈な速度で空を翔けた。

「でぇやぁぁぁ――――っ!!」

 接近してくる敵に対し斜めにサーベルを構え、擦れ違いざまに一閃。返しの手で、今度は別の敵を突き貫く――あっという間に二機の敵がほふられた。

 レナは腰部からエネルギーライフルを跳ね上げさせ、見つけられる限りの敵を照準。素早くトリガーを引き、狙ったそれを次々と撃墜させてゆく。

 いいペース、と安堵と油断が脳裏を余切った瞬間、死角から迫られる。接近警報。

「、っ!」

 〈アクトラントクランツ〉が振り向くより早く、敵は急所を撃ち抜かれて炎上――はるか下方であえなく爆散した。

「イアル、ありがと!」

 遠距離から砲の先を向けていたのは甲板上の〈ツァイテリオン〉――もちろん狙撃したのはイアルだ。相も変わらぬ装甲貫通弾は、直撃すれば致命的なダメージを与えられる。

 フィエリアの駆る近接型〈ツァイテリオン〉は刃から衝撃波を繰り出し、母艦を襲うミサイル群を次々と墜としてゆく。艦にうまく取りついた敵機には大太刀[マスラヲ壱式]を振り降ろし、上からの一刀両断。真っ二つだ。

『レナ、早く行ってください!』

『そーだ。オレらの仕事を減らしてくれねーと、こりゃあ結構キツいぜ……!?』

 同僚からの励みを大きく受け止めて、レナは強く頷いた。機体を翻し、無人機に追われている〈エーラント〉を援護しつつ後方へ飛び込み、ライフルを連射しながら新たな敵を求めて流星のように飛翔。

 ちぃっ、とレナは奥歯を噛んだ。うじゃうじゃ涌いてくる敵の数は底知れず、墜としても墜としてもキリがない――とちょうどそのとき、二度めの艦主砲が噴いた。黄色い極太の光条は敵を大きく飲み込んでいったが、それでもほんの一部である。残った敵機は蒸発した一帯に群がり、空いた穴を埋めてゆく。

『なんて数なの……!』

 キョウノミヤが毒づいた。同感だ。

 ――だけど、みんな頑張ってる。

 イアルもフィエリアも、当然キョウノミヤだって、みんなしっかりやってる。

 ――だから、あたしも諦めないで戦う。

 スロットルを握る手に力を込め、レナは瞳を閉じた。真っ暗な闇が張りつめて、深海のような静寂が心の最奥部にひろがってゆく。

(あたしは此処にいる。此処にいることを、感じる……)

 覚醒。全神経が鋭利な刃物のように研ぎ澄まされ、次の瞬間、〈アクトラントクランツ〉は凄まじい速度で動き回った――いくつもの透明な残像が軌跡の尾を追っていく。

 サーベルの光刃を袈裟に構え、敵機の隙間をすり抜ける間にも――幾多の敵の一部と残骸が宙を舞っていた。レナは轟速を維持しながらライフルを乱射して、さらに多くの敵を討った。逃げようとする敵に追い討ちをかけ、サーベルをXの字にクロスさせて二機を仕留め――再び死角から肉薄した敵には蹴りを喰わせる。

「ん、……はぁっ、はッ――ざっと、こんなもん?」

 十五機の敵を仕留めると、空いた域に味方の〈エーラント〉たちが飛び込んできた――ここぞとばかりに胸を張り、三機から成る小隊は勢いに乗って敵を撃ち抜いてゆく。

 ここは彼らに任せよう、とレナは内心で頷いて、別の方角へ敵を求めた。

『――何かおかしいと思わない?』

『あぁ。雲行きが怪しいぜ、こりゃ』

 キョウノミヤが問い、イアルが応じる。その隙にも〈ツァイテリオン〉砲撃を放ち、二機の敵を撃ち抜いた。

 レナはマイクへ向かって、

『どういうこと?』

『よく考えてみろよ。三つの基地が壊滅させられたんだ、俺たちがこんなに優勢でいられるハズがねぇ』

『――要するに、敵はまだジョーカーを切っていないと?』

 フィエリアが割り込み、イアルが投げやりな口調で「そういうこった」と返して通信を終えた。大太刀を従える〈ツァイテリオン〉は甲板から勢いよく飛びあがり、低空をゆく敵機を一閃――再び甲板の上へと着地。

「っ!」レナはモニターを睨んだ。

 接近警報。今度は8基のミサイルが〈アクト〉を照準、魚雷みたくうねる軌道を描き、こちらに接近しつつある。レナはエネルギーライフルの先端をそれらに向け、あえなく迎撃したところで機体の腰を落とした。

 純白の翼をはためかせ、深紅は光矢のごとき速度で虚を貫き――爆煙を掻き裂いて現れ、その向こうにいる敵機を逆袈裟斬り。両断された敵は爆発を起こすことなく、二手にわかれた残骸は海へと没していった。

(ん? 今の、やけにデカい……?)

 オペレータの上擦った声が飛び込んでくる。

『か、海底に高いエネルギー反応を確認! 凝集していきます――各機は警戒してください!』

『おいおい、まさか――』

 レナは見た。真っ暗な蒼海のさらに下に、巨大な生き物のような眼がふたつ、こちらを窺うように光っているのを。それは一瞬だけ強い光を発して、

「っ、逃げて――……!!」

 反応が間に合った深紅は機体を翻し、下からの一撃を免れたが――攻撃を予想していなかった〈エーラント〉が二機、強力なビームに呑まれて蒸発した。レナは隊員の名を叫んだが、返ってくるのはノイズだけである。

 深海に潜む『それ』は、ぬらり、と動き――低空飛行していた〈エーラント〉を、ワニが獲物を喰らうような速さで海中に引きずり込んだ。

『う、うわあぁぁぁぁ――――っ!』

 悲鳴が聞こえた次には、バキバキと何かが砕ける音が。装甲が割られたのだ……と暗示をかけて、レナは吐き気をなんとか押さえ込んだ。そして雑音。

 レナは回線をひらいて、

『キョウノミヤ……何かいるわ。とてつもない怪物みたいな何かが、一機』

 キョウノミヤが応答するより早く、イアルが応える。口調には焦りが浮かぶ。

『いや、一機だけじゃねーぜ。コイツら……』

『ええ、熱源は徐々に上がってきてるわ』

 二秒、五秒――は、レナにとってまるで永遠のような長さだった。


 海中から姿を現したのは……つい三分前に撃墜したハズの、無数の敵たちだった。


part-e


「な、なんなのよコイツらはぁ……っ!」

 レナの操縦には焦りが伴っていた――機体の動きはキレを失ったままあちこち飛び回り、容赦なく襲いかかってくる猛攻から逃げるだけで精一杯である。

 倒した敵機が復活した……まるで亡霊かゾンビみたいに、没したハズの海底から戻ってきたのである。深紅の機体はライフルを乱れ撃ちしながら敵の一撃を回避、新たな目標を照準――素早くトリガーを引いて、爆散していった敵機の脇をすり抜けて飛翔する。

『回避――――っ!』

 ジ、と電磁波のようなノイズが走った。キョウノミヤの声が叫んだのである。

 母艦の方向を仰げば、ビームの光条を避けきれなかった〈フィリテ・リエラ〉が、艦体の横に大穴をブチ空けられていた。甲板から戦線に加わっていた二機の〈ツァイテリオン〉が大きく吹っ飛び、よろけてバランスを取り損ねる。

「キョウノミヤ、みんな――!」

 レナは仲間の名を叫んだ。その間にも敵の無人機は隙を突いて倒れた〈ツァイテリオン〉の背後に忍び寄り、蜘蛛のような丸い身体と八脚……そして顎についた鋭利なブレードで――。

「やらせて――」

 レナは背面からサーベルを引き抜いて構え、

「たまるかぁぁぁぁっ!!」

 強く投躑。緑色のエッジはブーメランのように回転しながら弧弦を描いていき、敵機の前面へと突き刺さる。蜘蛛みたいな敵機はのたうちまわりながら海へ沈んでいった。

「イアル、フィエリア……大丈夫?」

『あぁ、オレは大丈夫だぜ。心配かけてスマンかった』

『こちらも問題ありません。ですが――』

 フィエリアは顎をしゃくる代わりに、〈ツァイテリオン〉の手先を海面に上がってくる気泡へ向けた。見れば、いま沈めたハズの巨大蜘蛛が這い上がってくるところだった。無傷――というわけではなさそうだが、損傷した箇所には別のパーツが宛てがわれている。

「まさか、自力で修復したっていうの……」

『だろうよ。海底に整備工場があるってのか?』

『率直にいいます、海底に整備工場はありません。そんなものあるわけが――』

『フィエリア、おまえは話をややこしくするから黙ってろ』

 イアルは強引に回線を切った。マイクの向こうで、フィエリアがもごもご言っている――ような気がしたが。

『で、どーすんだ? ここで戦ってもキリがねぇぜ』

 すると、いままで黙っていたキョウノミヤが口をひらく。ずいぶん長く思案していたようで、その口調は静寂そのもの――波紋のない水面のようだった。

『そうね、ここは退きましょう』

『そうこなくちゃな……と、自信もてることじゃねーか』

 すると再び、キョウノミヤの落ち着いた声が響く。

『全機へ。本艦は全速をもって、この戦闘区域を離脱します。各機は連携を取りつつ、〈フィリテ・リエラ〉の退路を確保して頂戴。なお、艦はダメージを負っています――これ以上の損傷は許されないわ。だからみんな、』

 キョウノミヤは言葉を切った。一瞬、氷のような緊張がはしる。

『なんとしてでも生き延びて』

 それを合図としたかのように、戦場が一斉に動きはじめた――味方の〈エーラント〉は交互にライフルを放ち、敵は鋭利なアームをギラつかせて脅威となる。イアルは弾倉をリロード、巨大な盾を甲板に突き刺すとその陰に隠れて砲撃開始。フィエリアは大太刀と小太刀を器用に持ち替えながら、敵めがけて衝撃波を疾らせる。

 いまや全機が持ちえるすべての弾薬、エネルギーが消費されようとしていた。懸命な努力に応えるように、敵は徐々に包囲網を弱めつつある。

 〈フィリテ・リエラ〉は徐々にその速度を上げ、右にゆるりと方向転換しながらエンジンを強く噴かした。

『左舷、砲門ひらいて1から5まで装填開始。てぇ――っ!』

 爆煙をあげて墜落するのが敵か味方か、そんな見分けもつかない混戦。レナは〈アクトラントクランツ〉の機体をめまぐるしく操りながら、ライフルを四方めがけて乱射した。


part-f


「戦況はひっくり返ると思う?」

 暗い艦長室。部屋の中には二人の男しかおらず、映像をうつし出すモニターが蒼白く照っている。

 座席に腰かけているのは少年だ。年齢は十代後半だろう――切れ長の目には赤色の瞳が宿り、画面を恍惚とした表情で眺めている。その口元は薄っぺらい笑みに歪んでいた。

「敵は逃亡するでしょうな」

 答えたのはオーレグ・レベジンスキーだ。ごつい体つきで身長は百八十センチを超える、見るからに大男である。彼は額に皺を寄せて、画面を無表情に見つめていた。

 無人機と〈フィリテ・リエラ〉の戦い。リアルタイムで送られてくる映像は、少しノイズを共にしている――だが、それも気にならぬ許容範囲だ。

 深紅の機体が大きく映し出されると、少年は目を見開いた。身体を前へ乗り出したが、しかし次の瞬間あらわれる砂嵐は、カメラごと機体が散った、という意味を示している。少年は残念そうに、再びシートへ身を委ねた。

 画面が十六に分割され、今度は視点がバラバラになる。

 少年は落ち着き払った声で、

「戦狂と死喰(しぐらい)を呼べるかい?」

「傭兵、でありますか。呼ぶこと自体は可能ですが……」

「大丈夫。欲しいものさえ与えれば、彼らはきっと来てくれる――、と。これは?」

 大型モニターにノイズが走ったかと思うと、それはすぐに肥大化――膨らんで砂嵐となり、映像を片っ端から掻き消した。トモカがメイン・コンピュータへ侵入し、プログラムと処理機能を妨害したのだろう。彼女を解放してからというもの、毎度のことである。

 オーレグは机を思いきり殴りつけて「あの女狐、今度こそ……!」と肩をいからせて部屋を出ようとしたが、少年はポケットに手を突っ込んだまま男を呼び止める。

「おいおい、やめなよ。殴ったところできっと何も解決しないさ。あぁ見えて、彼女は芯の強い子だからね――たぶん同じことを繰り返すよ」

 トモカには最低限の自由が与えられ、艦内の一室が彼女に明け渡されている。そこのPCから侵入したとすれば、決して考えられないことではない――逆に、その程度のスペックで出来ることなど何もありはしない。ゾウの行進に石を投げる程度のようなものだ。

 せいぜい頑張るがいいさ――と復旧した大型モニターを睨んで、少年は鼻でせせら笑った。


part-g


 艦内はすでにボロボロだった――レナは出撃したうちの六割が帰還した格納庫へと降り立った。残りの二割のパイロットは回収され、その半数以上が医務室で応急処置を施されている。手当てが間に合う者もいるだろうし、間に合わない者もいるだろう。

(……どの機体もボロボロだな)

 レナはバイザー付きのヘルメットをぶら下げてキャットウォークを歩きながら、まどろみに似た思考のなかでそう思った。

 ちょうどここは二階部分にあたるから、下階の様子が明るく見渡せる。回収された〈エーラント〉たちはそれぞれ装甲を剥げさせ、腕や脚の一部を失っていた。整備兵たちは担架や医療班が行き交うなかを走りまわり、急ピッチで作業を推し進めている。

「……?」

 そのなかに見慣れた影を感じて、レナは思わず首をかしげそうになった。

 イアルとフィエリアだ。二人は兵士たちに紛れ、救急の手伝いと修復作業の両方をこなしていた。レナはヘルメットを隅のほうへ投げ出してパイロットスーツの上半身だけを露にすると、急いで階段を降りていった。

「遅れてごめん。何か手伝える?」

「レナ。あ……キョウノミヤが呼んでいましたが。急いで来いと」

 フィエリアは兵士の腕へ包帯を巻きつけながら、

「ここは大丈夫です。なんとかしますから、行ってください」

「わかった、ありがとね」

 艦内の廊下は、格納庫よりもメチャクチャな状態にあった。歩いていると壁が撃ち抜かれて大穴の空いている部分、さらには廊下の先が焼失して引き返さなければならない――なんてこともあった。

 割れた蛍光灯を見上げて「ここも修復が必要だな」と思いつつ、レナは無意識に急ぎ足となっていた。キョウノミヤは自分に「渡すものがある」と呼び出していたハズだ。

「うぉ……、っと」

 バランスを奪われそうになって、レナはその場でたたらを踏んだ。艦長室から出てくる女の子と正面からぶつかりそうになったのだ。ふと視線を感じて、レナは少女を見た。

 自分よりも頭一個ぶん背の低い少女は書類の入った段ボールをもろ手に抱え、じぃっと上目遣いでこちらを見つめている。童顔で薄緑色のショートヘア、柔らかそうな唇はきゅっと結ばれ、明るい瞳は恨めしいほどレナを捉えていた。

 ……オペレータの子?

 真っ先にそう思ったが、どうやらそれは違うらしい――小柄な少女は、あからさまな学生服を装備していたからだ。

「えーと、誰?」

「……」

 問いかけには答えず、少女はじぃっとこちらを見つめてくる。マジで穴が空きそうだからやめてくれないか、と思いながら、

「えと……、会ったことあるっけ?」

「……」

 少女はふるふると首を横に振り、ポケットから何かを取り出した。

 分度器だ。

「は、はぁ……お気遣いありがと」

 レナは差し出されたそれを受け取り、半月形のそれを構えてみた。少女は再び反対のポケットをまさぐる。どうやらまた何かくれるみたいだ――と、ポケットから出てきたのは。

 分度器だ。

「……ど、どうも」

 なんだか押しつけられた気がしないでもないが、レナは仕方なくそれを受け取った――両手に分度器、という無様な格好になってしまった。なんだこれ。

 こんな様子だれにも見られたくないなぁ……と思っていると、少女は

「また出ましたからね!?」

 と叫ぶなり、廊下の奥へ消えていった。

 ……マジで誰だったんだ、アイツ。

 レナは五分きっかり立ち尽くしたあと、気を取り直して艦長室へ。

 キョウノミヤは慌ただしく動きまわっているところだった。衝撃で動いたモニターや機器、それらを元の位置に戻しているらしい。破損用品は少ないみたいだが、それでも被害があったのは確実である。

「あぁ、悪いわね。忙しいときに呼び出してしまって」

「いえ、そんなことは。キョウノミヤこそ」

「あなたに渡しておきたかったのは……これよ」

 彼女が指の腹でつまみ上げたのは、カードサイズの身分証明書だった。誰の物かわからないが。キョウノミヤは指を器用に操り、カードをくるくると弄んでいる。

「えっと、それは……どこで?」

「〈オルウェントクランツ〉のパイロット――彼と最後に戦ったとき、付近の海域から回収されたわ。機体の残骸と一緒にね」

「最後……、もしかして〈ヴィーア〉と戦ったときですか?」

「そうよ。あなたは――」

 キョウノミヤはカードを指で弾いた。

「彼に――」

 言葉を短く句切る。

「――会ったことがあるはず」

 カードは、まるで蝶のようにレナの手のなかに舞い込んだ。取り落としそうになったそれを裏返して、思わず絶句。鋭利な冷たさが神経を逆撫でする。

「こ、この子……――!」

「この子――」

 いなくなってから知る真実。聖夜に出会ったはずの少年は、まさか……?

 一方、ミオの死を受け容れられずにいるレゼア。両者は対極に位置するのか?

 世界は複雑化する――傭兵、ASEE残党、そしてセレーネ。蔓延するチート・ウィルスとは?

 次話、「心残り」

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