heart attack
part-e
私服姿のミオは茶色の大地へ降り立った。ASEEの人間だと悟られないための選択だったが、
(い、いいのか? こんな服……着たことなんてないのに)
目の前には整髪店がある――その窓に映る自分の姿をしげしげと眺めて、ミオは思わず戸惑った。
Tシャツの上に黒いジャケット、下は濃いめのジーンズ、靴はスニーカー。普段は軍服とアンダーシャツしか着たことがなかったから、自分が変人なんじゃないかと不安になる。
荷物はほとんど持ち合わせていない――ポケットにカードケース、さらにその中には偽造の身分証明書が入っている。それくらいで、飲み物ひとつ持ってきていない。
腕時計の針をみると、レゼアとの約束までは30分ちかく残っているようだ。
(……仕方ないな。どこか見てまわるか)
ミオは歩きだした。
ロシュランテは、クリスマスの惨劇から復興が遅れているようだった――街のなかは崩れた塀がいくつも見つかり、アスファルトは大穴が穿たれたまま舗装されておらず、立ち入り禁止を示す赤いコーンが並んでいた。
街の人間はみんな修理や補強にかりだされているようで、何人かが工具や廃材を担いですれちがってゆく。
(……街のほうも、結構やられてるみたいだな)
この被害が、たった一機によってもたらされたのかと思うと――ミオは信じられない気持ちになった。
商店街のアーケードをくぐると、崩れた棟でも半数近くの店は営業していることがわかる。といっても、生活必需である食料品店、さきほど見かけた理髪店、さらにレストラン――は、現地調査に赴く政府高官を接待するためだろう。もう少し奥には電機屋がある。
ミオはふと立ち止まった。
電機屋の店頭に設置されたテレビへ、小さな人だかりができていたからだ。ぜんぶで15人くらい――中には子供もいる。
ちょうどニュース放送が流されていて、彼らはそれを観ていたのだ――まるで、初めてテレビを見る人間のように。人垣は歩道ひとつぶんの幅でおさまっている。
画面には北極戦線での映像が流されていた。それと世界各地でASEEへの対抗運動が起こっていること、さらに統一連合の反応。
最後に映ったのは――
(……、)ミオは目を背けた。
――漆黒の機体が、北極基地を撃ち抜く瞬間だった。
映像が止まり、今度はニュースキャスターが死者数・負傷者数を淡々と告げて、今度は専門家とコメンテーターの話。一人がテレビから離れると、何人かがつられて各々へと戻っていった。
偉そうに主観を語る専門家の前に、ミオだけが立ち尽くしていた。
悔しそうに、ぐ、と拳に力を溜めて。
あの漆黒の機体に乗ってたのは俺だ、と叫んでやったら、どれくらいの人だかりができるだろう?
北極で、あれだけの死者を出したのは俺のせいだと叫んだら、どれくらいの人間が俺を殺しにくるだろう?
(あぁ、わかってるつもりさ。好きで殺したわけじゃないって、それでも……)
やるしかなかったんだ。
歯を喰い縛る――顎が砕けるかと思うくらい、強く。
でも。
ミオは力が抜けたみたいに肩を落とした。こんなところで悔やんでいても仕方ないし、ただの無駄と徒労にすぎない。
コツ、と脚に何かを感じて、ミオは思わず振り返った。ふくらはぎに当たったのは車椅子のスティール製タイヤだ。
そこには、レゼア・レクラムがいた。
予告してる時間がないかも?
次は3月15日に更新です。