Rize
ミオは自室のベッドへ横になっていた。身体を縮めるように小さく折り、凍えるような孤独を抱くように。
薄暗い部屋のなかは荒れていた――えんじ色の毛布は床へ投げ捨てられ、事務机の上には赤色の錠剤が散乱、破られた報告書は丸められて一部はごみ箱に、残りはドアの前に放られっぱなし。コップに注がれた水は、もう二日前のものである。
(……)
北極戦線から14日間が経過した。2週間である。
(俺が、殺した……)
彼は虚ろになった瞳で、右手をぼんやりと眺めた。
この手が、指が――引き金を、トリガーを引いたのである。
基地における惨劇は大きく報道され、嫌が応でもミオの耳へ飛び込んだ。
死者数700名超、行方不明者1000名超。
2000人規模の巨大な北極基地のなかで、生存が確認されたのは400人前後。残りは傭兵や作業員、外部からの援軍が計上される。だから、実質の死者は1000人以上だ。
(なんで……俺だって……)
――好きで殺したわけじゃないのに。
敵の基地へ爆薬が埋められていたなんて知らなかった。ましてやスパイがいたことさえも知らなかった。
しかしミオの放った一射は、その数よりも多くの生命を奪ったのである。
(くそっ……俺は、なんてバカをしたんだ……)
ミオはシーツを強く握った。泣きたいと思ったが、涙などはすでに渇いている。
いま、銃を渡されたなら――俺は誰を殺すだろう?
たくさんの命を奪った、自分か?
それとも……こんな自分を造らせた、オリジナルのミオ・ヒスィか?
(……)
赤い瞳の少年は、こう言っていた。
『君は世界の中心にある――その中心を、君という存在から僕という存在へすげかえるだけだよ』
彼はまるですべてを知っているような口調で、平然とそう言ったのだ。
――どういう、意味だ……? 俺が、世界の中心だと?
ふざけてるなと、ミオは内心で首を横に振った。
そんなワケがない。自分がそんな中心にいるのなら、こんな悲劇を起こすハズがない。
(俺はクローン……複製物なんだ、人じゃない。誰かを殺すほどの価値なんて……)
――ないだろ?
ミオはむくりと起き上がった。平衡感覚が欠けてしまったみたいに、頭がくらくらする。彼は再び右手を眺めて、
(俺は……生きていて良いのか?)
答えは返ってこなかった。
ちょうどその時、青白いモニターからピピ、という軽快音。メッセージを受信したのだろう。フォルダを開いてみると、どうやら発信者はレゼアらしかった。そのタイトルには[Last Massage]という語が振られている。
文面には、
Date :Today
Time :1500
Place :Xmas
「……」
ミオは二秒のあいだ思案した。
本日1500――つまり午後3時に、クリスマスの場所へ来い。おそらく、メッセージの文面はこういう意味だろう。
彼はハンガーから上着を奪って、自室を後にした。
原稿が進まないかも? なので、また一話あたりを少なくしていきます(泣
予告。
一方のレナも、北極戦線から2週間の経過を迎えていた――。
2000人規模の基地から、生き残ったのは400人程度。つまり、5人に1人が死んだ。
「……なんか、あたしが殺したみたい」
無気力のまま、ぼんやりと右手を眺めた。
次話、『Life』