表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
E  作者: いーちゃん
55/105

北極戦線⑯ :dilEmma

part-w



 ミオは慌ただしい動きでフットペダルを蹴り、数値に応えながら素早くスロットルを切り替えていた。機体を大きく旋回させて7つの射線を避け、ライフルからビームを疾らせる。しかし、その隙にも新たな弾丸は〈オルウェントクランツ〉を捉えているのだ。

「くっ……、」

 ミオは奥歯を噛んだまま声を絞った。

 地面――もとい氷の上へしゃがんだ〈ツァイテリオン〉は、いちいち正確無比な射撃を放ってくる。こちらが動き続けなければ、これまでの弾はすべて命中していただろう。

「こっちは戦ってる余裕なんか無いのに……!」

 本体である自分を見ただけで、ミオの精神は極限まですり減らされて疲弊していた。ただでさえ泣きたい状況なのに、これでは本当に――と思っていると、さらに射線が増えた。二本のビームの矢だ。

 その元を辿ると、〈アクト〉が遠距離からライフルを連射させながら突っ込んでくるのがわかる。

「くそっ、このバカ女……! いい加減――」

 〈アクト〉は漆黒の機体と擦れ違う寸前でライフルを捨て、背面からサーベルを抜き放つ。しかし、ミオはそれを上回る速度で二本のサーベルを逆手に払い、〈アクト〉の腕を斬った。

 バランスを失った深紅の機体が、分解した腕とともに落下してゆく。

「もう出てくるな、おまえは!」

 ミオは追い討ちをかけるように、〈アクト〉の肩部を蹴る。重力加速度を得た深紅の機体を見届けて、ピピ、と軽快な音が鳴った。

(通信? オーレグか……)

 ミオは怪訝な表情のまま「なんだ?」と答えた。

 オーレグの声は威圧的な口調で、

『聞こえるかね? これからデータを送らせてもらう、指定する七つの場所を撃ち抜いてくれ。迅速に、だ』

「……なんだと?」

『以上』

 オーレグは強引に通信を終えた。

 数秒して、モニターの中に索敵――ロックオンできる対象が現れた。増えたのは合計7つ、すべて北極基地の氷盤の上だ。

(氷? なにかあるのか……?)

 拡大映像で見ても、指定場所には何も見当たらない。ただ厚みのある氷があるだけだ。

 ミオはゆっくりと、ライフルを直下へ向け、一射。黒いビームの矢が氷塊へ吸い込まれてゆき――撃ち抜いた点が、特大の爆発を起こした。それも通常では考えられない規模の爆発である。熱によって融解した厚い氷盤が一瞬にして崩れさり、北極基地の中心部にぽっかりと穴を開けている。

 ミオが相手していた三機もあっけにとられたようで、その一撃に言葉を呑んでいた。

「! お、オーレグ……これは……!!」

『ハハ、ちょっとした工作だよ。気にせんでくれ』

「ふざけんな! あれだけの爆薬を埋めたっていうのか、7ヶ所も!」

『そういうことになる。スパイという言葉を知っているな? まぁ、貴様も経験しただろうが。敵基地へ内密なスパイを送り、弾薬その他爆発物を各コンテナ、滑走路、氷のなかへ閉じ込めるのは容易かったよ』

「いい加減にしろ! それじゃこの北極基地にいるヤツが、みんな死ぬぞ!」

『構わんよ? 敵は死に絶えてこそ価値がある。それに、数えきれない屍を踏み越えたのは貴様も同じだろう?』

「ぐっ……!」

 ミオは言い返せなくなって、続けようとした言葉を呑む。

 ――そんなんじゃない、俺は……っ!!

 という言葉も、殺さざるをえない。

 オーレグは続けて、

『さぁ、敵も続々と登場だ。切り抜けねば――死ぬぞ』

 モニターを見れば、遅れていた〈エーラント〉部隊27機が各配置へついている。氷盤・滑走路・コンテナ・格納庫など、オーレグが指定した場所ばかりだ。それぞれには四機の量産型〈エーラント〉がつき、ライフルを片手に防衛姿勢を構えていた。

 ――俺が残り6ヶ所を撃ち抜けば、北極基地にいる敵は間違いなく全滅する……。

 ――でも、やらなければ俺が死ぬ。たぶん、トモカも死ぬだろう……。

(俺は……)

 ――どうすればいい?

 ミオは苦悩にもがいた。

『それと』オーレグは続けて、『貴様の処分は、この選択によって決まる』

 注意するんだなと言い置いて、通信は切られた。トモカとも連絡が取れなくなったのをみると、回線は完全に閉鎖されてしまったらしい。

 ミオのなかで、何か黒いものが鎌首をもたげた。

「……あぁ。やってやるよ、やればいいんだろ?」

 それが弱い自分だと知りつつ、

「捨てられのは怖いんだ」

 廃棄処分ハ、コワイ。

 薬漬ケニサレテ、マタ寂シイ場所ニ戻サレル。死ンデモ、イヤ。

 無意識の海――深層心理が、そう告げる。

「皆殺しだ」

 ミオは、わらっていた。

 手は、自分の意思とは反対方向へ――。

 次の瞬間――はね上げたライフルの尖端から迸ったのは、容赦ないビームの矢だった。


 作者です。ですよ?

 まずは手短にー。

『「小説家になろう」勝手にランキング』に、実はこの作品が参加してます。嘘じゃなく。

 んで、どうやらこの作品がSFジャンルで2位くらいにいるかも。いないかも?

 詳しくは目次ページへ戻っていただいて、一番下あたりのボタンをぴこっと押してくれると助かります。(PCご利用の方)

いや、実は前回が949作品中11位でしたからね。1ページに載るのが10位までだから、実は落ちた。あー。

 というワケで、ご確認をばー。

 それと、キャラ投票があんまり進んでないかも?

 ……忘れてたんですけどね。

PC⇒http://enq-maker.com/41XpKfV

 です。まだ97票も余裕があるので、是非ともやっちゃてくださいませー(無料)。

 あと、設定資料2も更新です。ご確認くださいね。

 予告。

 ミオの放った強烈な一撃によって、沈んでゆく北極基地。

 それは多くの命を巻き込む、最悪の結末となった……。

「ねぇ、なんでこんなに酷いことばっかり――」

 レナは問いかける。漆黒の機体――去りゆくその背中へ。

 相手のパイロットが自分と同様、泣いていることも知らずに。

 次話、「noise」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ