北極戦線⑮ :閃光
part-v
「やっべー、またチキっちまったぜ」
騒動が収まったのを見計らって、イアルの〈ツァイテリオン〉は格納庫から這い出た。
フィエリアの機体が銀灰色であるのに対して、イアルのそれは少し黒めに塗装されているようだ。全高16メートルちかく――背部には特大の砲をマウントしている。
〈VSEPR〉――〈ヴュズィパー〉と呼ばれる対艦砲だ。弾種としては装甲貫通弾を用い、戦艦を一撃で沈めることを目標としている。
(まぁ、実際はそんな上手くいかねーけどな)
開発局の人間は、実戦を経験したことのないものが大半だ。だから事が上手く運ぶと思っていやがる。
イアルは辺りを見回して、
「それにしても……何だ何だ? この状況はよォ」
はコックピットのなかでぼやく。
モニターへ映る氷の大地には、動かなくなった〈エーラント〉たちがごろごろ転がっていた。ぜんぶ数えて20機――か、その程度。なかには敵機である〈ヴィーア〉も混じっている。
『イアル! 無事だったの!?』
回線へ声が飛び込む。レナだ。空の切れ端から、深紅の機体が降下してくる。羽根が開いていないのをみると、どうやら〈ヴァーミリオン〉を閉じたらしい。さらにその下からは、もう一機の〈ツァイテリオン〉が流氷を足場として跳躍。フィエリアだ。
イアルは褪めた口調のまま、
「どーもこーもねーよ。何が何だか知らねーが、来てみりゃざまねーぜ」
『また現れたのよ。あの緑色のヤツが!』
「〈イーサー・ヴァルチャ〉ってのか? くそっ、人の初出撃を邪魔しやがって」
あの機体――所属不明の機体への憎い思いはそれだけではない。かつてのロシュランテ島で、イアルはあいつのせいで病院送りになった。
レナの話によれば、〈イーサー・ヴァルチャ〉は空間転移を行い、戦域からすでに離脱しているという。〈オルウェント〉が押さえていたものの――圧倒的な力の差があったとか。
「まぁ、問題ねーんだろ? そろそろ本番といこうぜ」
イアル上空に漂う漆黒の機体を睨んだ。
「おい、そこの。聞こえっか? あー、マイクテスマイクテス」
フィエリアが「バカですか」と言いたげな顔をしていたが、イアルはそれを無視して続けた。
「お前さんがその機体を奪取してから、俺たちは苦労続きなんでね。そろそろ墜ちてもらえないかよゲスが」
『……なんだ、今度はお前たちか。悪いが今の俺は機嫌が悪い。来るというなら、2対1でも3対1でも容赦はしない』
「オーライ、レナ!」
〔はいはい、こちらはオーケイなんだけど?〕
「フィエリア!」
〔問題ありません、これまでの呵責――今日こそ断ち切らせてもらいます〕
イアルは長い息を吐いた。
〈オルウェントクランツ〉は盾を全面に押し出すようにして、武装を変形――レーザー刃を出力させる。
どうやらヤル気満々なのはこちらだけではないらしい。
回線へ声が届いて、
『今回は〈システムE〉が無い。殺されても怨むなよ』
それを合図としたかのように、イアルは〈ヴュズィパー〉のロックを解除――腰にマウントしていた長い砲身を漆黒の機影へ向けた。一方のレナは〈アクト〉を制限解放して<羽根の極兵装>を展開、異形の天使は影のごとき疾さで空を駆ける。
『さぁ、俺を殺してみろ。おまえたちを殺してやる』
深紅の機体〈アクトラントクランツ〉は猛然としたスピードで漆黒の機体へ追いすがり、逆手にした2本のサーベルを交互に振るう――合図とともに背後へまわったフィエリアが大太刀で袈裟斬りの姿勢をとるが、〈オルウェントクランツ〉は機体を後ろへ空中ステップ、次の瞬間には空間を飛び越えて高度300メートルの位置へ飛翔。
二機がかりの攻撃でも捉えきれない、圧倒的な機動力。
イアルの〈ツァイテリオン〉は盾を厚い氷へ突き立ててしゃがみ、砲を八十度の角度へ傾けた。むろん狙うは――。
鋼鉄製の筒から、特殊火薬と全金属の装甲貫通弾が7発連続で狙撃。命中すれば艦も沈む破壊力である。
〈オルウェントクランツ〉は身を切り揉みさせて射線を避け、ライフルをはね上げると直下へ一射――黒いビームの矢が、突き立てられているシールドを穿った。
今度はレナの〈アクトラントクランツ〉が飛翔――背面から漆黒の機体を追う。
「これで、終わりなさいっ!」
『……甘いな。脇が見えてない』
〈オルウェントクランツ〉は前方へ宙返り、踵が小手を打ち、深紅の機体はサーベルを取り落とした。
――え?
レナは何が起こったのかと戸惑っていると、〈オルウェントクランツ〉はレナのいるコックピットへ――ライフルの先を突きつけた。こちらを狙っているのは、秒速4000メートルを越える高エネルギー粒子。
『……、…げろ。…まえ、は』
「え?」
〔レナっ!〕
続けて聞こえたのはフィエリアの声だ。
〈ツァイテリオン〉は落下中のサーベルを拾って、距離を睨んでから一気に投擲。ビーム刃が円のような軌道で弧を描き、〈アクト〉をかすめる位置を通過してゆく。
漆黒の機体は危機を悟ったのか、殺せるはずだったレナを無視して空間を離脱。
フィエリアは黒太刀[マスラヲ壱式]を居合いに構えて振り抜かせる――小さな孔から噴き出したエネルギー纏わり、斬撃が虚空を薙いだ。
〈オルウェントクランツ〉はそれをシールドで受け流してみせると、ライフルをニ射。〈ツァイテリオン〉が立っていた足場を見事撃ち抜き、流氷が跡形もなく粉砕する。
「危なっ、……」
『弱いな、おまえたちは弱い。殺してやる価値もないな。――』
「なんだと……。、?」
少年の声は冷笑して、わずかだがその後に沈黙が生まれた。
フィエリアは怪訝がちな表情でモニターを見回してみる。
(――誰かいるのか?)
と思ったが、どうやらその様子はない。
自分の近くにあるのは北極基地だけ――否、守るべき北極基地があった。
フィエリアの背筋に寒気がはしる――と同時に、彼女は敵の目的を理解した。
「イアル!! ヤツを撃ち落とせ、なんでも構わない!」
そう、ASEEの〈ヴィーア〉隊は北極基地まで侵入できていない。しかし、現に基地上空まで辿り着いたのが1機いるではないか。
〈オルウェントクランツ〉が。
つまるところASEEは、〈ヴィーア〉200機を囮として漆黒の機体1機を侵入させたのだ。
大掛かりだ。大掛かりすぎる――と、フィエリアは焦っていた。同様のことに気づいたイアルが、慌てて装甲貫通弾を連射。8発の弾丸はきれいな放物弧を飛翔しながら〈オルウェントクランツ〉へ――。
だが。それらが届く寸前に漆黒の機体は空間転移、弾丸は虚空を貫いただけだった。うまく回避した〈オルウェントクランツ〉は、ライフルを北極基地の氷盤へと向けていた。
フィエリアには、その機影がまるで――最強の悪魔のように見えた。
次の瞬間、彼女の瞳へ映ったのは、尖端から迸るビームの閃光だった。
作者です。アトガキを終わります。
……もちろん嘘ですよ? もうちょっと書くかも。書かないかも?
さて実は、読者様の数がなんと50000を越えました。欲しいですねぇ、そんな金額。びんぼー学生な作者はそんな大金はおろか「ゆっきー」も財布に入ってません。
1000 :ぐっちーorひでっち
5000 :ひぐっちorいっちー
10000:ゆっきーorふくざわさん
って呼んでます。だからお金が溜まらないのか、そうなのか!?
まぁ、いつまでも『アトガキ』でこんな馬鹿話をできたらなと思います。この作品を続けられているのは間違いなく「画面の前にいるアナタのおかげ」ですし……って、何度も言い過ぎてますね。今度は言い回しを変えますから。変えますからねっ!?
でも、事実なんですよ?
読む人がいて、書く人がいて、コメント送ってくれる人がいて、作者を踏みつけてくれる人がいて――と真面目なセリフを、実はチキンナゲットをくわえながら片手間に書いてるわけですよ。バイト帰りに買いました。
それでは謝辞をばー。
まずは毎度のごとくメッセージをくれるぶっさん様。まだまだこの作品は続くかもです――最初にもらった感想「あると思います!!」からのお付き合いですねー。これからもよろしくです&メッセージのお返事に代えさせていただきますねー。
そして浪人生のほーらい様、とにかく一年間お疲れ様でした。執筆はそれからでいいんだよorz
「それがわたしのツンだから」とナイスな突っ込みを発揮してくれるみい猫様、デレになるまで僕は戦います。
感想くださった『神坂 保温』様……あれ? 最近はあんまり貰えないなぁ感想。ありがとうございました!
……なんか最終話みたい。あ、ナゲット食べ終わりました。