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E  作者: いーちゃん
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北極戦線⑬ :澪と零


part-t



 ミオが北極基地の上空へ辿り着いたとき、眼下には真っ白い煙が巻いていた。膨大な熱量によって沸点を越えた海水が水蒸気の渦となり、視界と電磁波を遮るのだ。

 ミオは煙が引くのを待って、すぐに反応できるようスロットルを厚く握った。

 手のひらがじっとりと汗ばむ。

 ――警告音。

 瞬間、白塵を貫いてビームの矢が撃ち放たれた――ミオは慌てて緊急回避、機体を横へ反転させながら霧の中心部へライフルを向け、連続でニ射を返す。

(やったか? いや――)

 〈イーサー・ヴァルチャ〉は射撃攻撃をを無効化するフィールドを備えている。そう易々と貫かせてもらえるハズがない。

 案の定、白霧が晴れて――そこから現れたのは無傷の姿。

 緑色の機体は、その大きさに比例して装甲が厚く、当然それによって発生するフィールドもまた強固である。ずんぐりとした巨体を氷盤へ置くところを見ると、少しの攻撃では微動だにしないだろう。フレームは二機の〈クランツ〉と似通う外見だったが、わずかには判断できない。

 矢先、〈イーサー・ヴァルチャ〉の背面に装備されたミサイルポッドが、まるで鰐が口を開くように広げられた。

 ミオは反射のように、再びフットペダルを蹴る。漆黒の機体が回避態勢を経ると同時に、計24発のミサイルが放たれた。

(くそっ、こんな至近距離で……!)

 ミオは機体を駆って上空へ飛び上がると急降下し、切り揉み運動をさせながら機関砲で対空ミサイルを迎撃。数基のそれらを爆発させるだけで、残りは誘導爆発に呑まれて消えてゆく。

(俺が逃げ切れない? そんなわけ……)

 〈オルウェントクランツ〉は異常なほどの機動力をみせて複雑な軌跡を描いてゆく――が、ミサイルはそれを上回る速度で漆黒の機体へ喰らいつこうとした。

『ミオさん、右です!』

 回線から少女の声が飛び込んだ――むろんトモカのそれである。

 ミオは機体を宙返りさせて指示された方向から逃げた。言われたとおりの方角から迫ったそれらは装甲をかすめて流れ、北極基地にある建物へ突っ込んでいった。

『次、上方向から3! 迎撃してください、……あ、いえ』

 マイクから矢継ばやに飛ばされる指示を飲み込んで、ミオは〈オルウェントクランツ〉のライフルをはね上げた。

 だが――。

 上方向から迫ったミサイルは漆黒の機体へ衝突するまえに爆発した。

「――ッ。なんだ?」

 ミオは怪訝な表情をした。

 誰かに撃ち落とされたわけでも、もちろんミオが撃墜させたわけでもない。トモカはそれを理解して、途中で言葉を停めたのだろう。

 ミサイルは自動的に爆発したのだ――まるで〈オルウェントクランツ〉を傷つけたくなかったみたいに。

『そう……、そうか。君が、そうなんだね』

 立て続けのように、回線から別の声が飛び込んだ。まだ声変わり前のように半高い少年の声は、しかし唱うような口調である。

 ミオは、

「誰だ? 誰がその機体に乗っている。答えろ!」

『わからないのかい? 僕は君と同じ人間だよ』

「おまえ……?」ミオはハッと息を呑んで、「! まさか――」

 嫌な予感がした。

 今日ここに来てから、誰かが自分を見ているような気がしていた――という理由だけではなかったが、いずれにしても今の〈イーサー・ヴァルチャ〉には充分たる理由がある。

 声は小さく笑って、

『そう、君とおんなじミオ・ヒスィ。久しぶりだね――といっても、会うのは初めてかな?』

「ま、待てよ! そう簡単に信じるわけにはいかない。俺は信じないからな!」

『そうかい?』

 モニターの隅へ、強制的にウィンドウが広げられた。

 あらわれたのは、自分と瓜二つな少年の顔。瞳の色さえ違っているものの、鼻筋、肌、目元や少し笑んだ口元――


 ――そこには、完全な自分がいた。


「ッ!」

 ミオは後頭部をおもいきり殴られたような衝撃を覚えて、言葉を呑んだ。

 複製ではない、オリジナルの自分がそこにいる。

 自分とはちがい薬物に頼らず、テロメアという寿命に縛られることもなく、完全な一個の人間として大切にされる――羨ましいとさえ思えていた自分。

 紅い瞳の少年は、ゆっくりと口をひらいた。

『お役目ご苦労さまだね、そろそろ交代してもらおうかな。悪いけど、君には此処で滅びてもらうよ。何か言い残しておくことはあるかい?』

 ミオは打ちのめされて、全身から力が抜けてゆく感覚を味わっていた。身体から芯が抜かれたみたいに。

 自分は、用済み――役に立たなくなったから殺される。

 捨てられるのが怖くて、それをずっと恐れて、ミオは数々の危険な任務をクリアしてきたのだ。どれだけ怖い目にあっても、『ある一つのこと』だけを決めて。

(――だけど、俺は殺される。ここで……。オリジナルの自分に)

 スロットルを握る手に、じっとりと汗が滲む。心臓が鉛のかたまりでも詰められたみたいに重く、身体を内側から圧迫してくる。正直なところ吐き気を覚えて、ミオは握力を強く込めた。

 ――俺は生まれてから今まで十七年間、利用されることだけで生きてきた。

 ミオはトモカへと繋がる回線を切り、マイクをオフへ切り替えた。

「なんでおまえが、こんなところに……!」

『君には知る必要がないよ』

 ミオの疑問を、少年はピシャリとはねつけた。

「じゃあ、教えろよ! どうして俺を造ったのか……なんで――」

『やれやれ、まったく物わかりの悪い複製物だな。君は世界の中心にある――その中心を、君という存在から僕という存在へすげかえるだけだよ。わかるかい?』

 少年はまるで、子供をあやすような口調で続ける。

 くそ、と毒づいたミオは力なくうなだれた。

 ――こんな簡単に、俺が殺されるのか?

『必要ないんだよ、君は』

 少年は複製物へトドメを刺すように、冷徹な言葉をつむいだ。それと同時に、ミオのなかで何かが途切れる音が――

「殺してやる……おまえは……っ! おまえだけはっ!」

 〈オルウェントクランツ〉の関節部――ありとあらゆる隙間から、翠色の粉が吹き出した。それは機体によって制御・処理しきれないエネルギーが溢れだしたものである。

「殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる! おまえはっ!

 おまえさえ居なければ、俺はこんなに苦しくなかった! おまえさえ居なければ俺は……。俺は――ッ!!」

 スロットル全開。

 〈オルウェントクランツ〉へ備えられた足枷が音を立てて外れ、システムEがミオの感情と共振を起こして粉砕される。モニターに映る数値、計器類すべてが異常値を示し、理解不能の文字を羅列。

 ミオは涙で滲む視界のなか、モニターへ映る敵機を睨んだ。

 自分にとって一番憎むべき敵が、目の前に。

 漆黒の機体はシールドを剣へ変形させたあとビーム刃を出力させ、〈イーサー・ヴァルチャ〉へと躍りかかる。

 ――瞬間。

 〈オルウェントクランツ〉は光となった。真っ黒な闇のような残像が浮かびあがり、翠光の粉を散らしながら一瞬で敵との距離を詰める。

 上段からの振り降ろし――しかしビーム刃は、厚い装甲が発する視えない壁に阻まれる。

「くそっ、なんでだよ! どうして俺は、生まれなきゃならなかったんだよッ!?」

 こうやって戦って、苦しい思いをして――こんなことなら生まれてこなければ良かったと思ったこともある。

「俺はな、死ぬこととかお前なんてちっとも怖くねーんだよ!! 生きるとか殺されるとか……だけど俺には、そんなモンよりもっと怖いことがあるんだからな!」

 ミオは刃を振り上げ、袈裟斬り、蹴りを混じえてゼロ距離射撃を放つ――だが、強力なフィールドにはいずれも無意味でしかなかった。

「おまえを、殺す! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺してやるッ!!」

 ミオは視界が滲んでいることにも気づかずに、血走った眼で緑色の敵機を睨んだ。

 どうすればフィールドを破れるか――という普段の冷静思考をかなぐり捨て、漆黒の機体は無闇にサーベルを疾らせる。だが、それらは〈イーサー・ヴァルチャ〉へろくなダメージを与えられずに弾き返された。

『この力……いや、そうか。まだ、刻が満ちていないのかな』

 その隙にも〈オルウェントクランツ〉は無意味な猛攻を続ける――が、緑の機体へかすり傷ひとつ与えられない。

『この時に来たのは、僕の失敗だね。じゃ、ここで失礼するよ』

「待てッ!! おまえは俺が――」

 コックピットのなかで、ミオはまるで獣のように吼え叫んだ。

 ヴン、という音がして〈イーサー・ヴァルチャ〉が空間転移――わずか一瞬でその巨体は姿を眩ませ、レーダーで捉えきれない距離へ逃げていた。

 ミオがそれを追うようにスロットルを倒すと、

『ミオさんっ!』回線へ少女の声が飛び込んだ。『しっかりしてください! あの距離では、その機体では追いつけません!!』

「うるさいッ!」

『ミオさん! いい加減――』

「おまえに何がわかる!?

 おまえに、クローンである俺の気持ちがわかるのか!? 複製物と蔑まれる痛みが!

 代わりならいくらでもいると――

 役に立たなければ廃棄されると――

 そんな脅しを受けるヤツの気持ちが!

 利用されて利用されるヤツの気持ちが!

 おまえにはわからないだろうッ!!」

 だから、だから俺は――と続けようとして、ミオはその言葉を飲み込んだ。

 身体へこもった熱が冷めてゆく。脳天へ昇りつめた血が失せて引いてゆき、つかえていたものが噴き出していった――ミオは重くなった身体をゆっくりとシートへ沈み込ませて、

「……トモカ」

『はい』

「……俺、なにかひどいこと、言ったか」

『いいえ』

「ごめんな」

 オペレータの少女は下を向いたまま、薄朱色の唇を噛んで沈黙した。

 胸にこらえていた想いが、まるで堰を切ったように溢れだしてくる。

「トモカ……ごめん。少し、泣いてていいか」

 ミオが言うと、少女は小さく頷いてから回線を閉ざした。

 もう誰にも繋がっていない状態――完全な孤独へ陥ってから、ミオは喉を震わせてしゃくり上げながら、まるで子供のように――かつてレゼアがそうしていたように――泣きじゃくりはじめた。


 実は執筆が遅れてます。すこし反省してるかも。してないかも?

 さて、次で最終話ですね。

 ……もちろんウソですよ?

 いやいや、二十話くらいのところで「そろそろ折り返し」とか言っていた気がしますが、実はまだまだ終わらない予定ですよ残念ながら。

 残念ながらっ!

 さて何を話そう。あ、続編は書くかもです。確定で――とプロットを打っていたら、なかなかいいのが書けそうなので。

 〈20000文字も書けるので宣伝しますよ? 続編ver.〉

 戦争が終結してから一年後の世界――。

 海の見えるその丘には、戦死者の名前が刻まれている塚が立っていた。幾本かの黒色をしたそれらは小さな塔のように立ち、言葉無きまま、静寂の海を眺めている。名前の横に記されているのは、一年前の年号と数字だ。

 キィと、金属の軋む音がひとつ――発せられたのは車椅子のスティール・タイヤからである。座っているのは女性だ。

 淡い緑色のロングヘア、凛とした表情と眼――を小さく瞑目させ、車輪を数回漕いで塚へ寄ると、彼女は手にしていた花束をそっと捧げた。

 黒い塚の下――最後の部分には、忘れかけられた名前がある。

 〈ミオ・ヒスィ〉、と。

 その名へむかって小さく笑むと、レゼア・レクラムはその場をあとにした――。

 果たしてミオは死んだのか?

 北極基地で使用されなかった〈ツァイテリオン〉――残りの一機とそのパイロットは?

 新たな敵――[sevEnth]、その目的とは?

「もうすこし、あと少しだけ……俺の世界を、殺さないでくれッ!!」

 世界が破滅に導かれる寸前――「死んだはず」とされていた少年が立ち上がる。

〈予告終了。※内容が若干変更される場合があります〉

 こんな感じで。いやいや、大したモンじゃないですよ。

 やっぱり[設定を練る]のが得意分野だし、「読んでもらう」からにはそれだけの覚悟がないと。

 さて、予告するのが面倒でうから寝ます。あ、噛んだ。

 次話、レゼア(久々に)登場。

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