北極戦線⑦ :影
part-m
レナは遠ざかってゆく敵機――その後ろ姿を茫然と見送っていた。
本日二度めの出撃だったが、〈オルウェントクランツ〉は五分を経たずに母艦へと帰還。
何か罠があるのでは? と疑っていたレナは〈アクト〉のライフルを構えたまま待機させていたが、その心配がないとわかると武器を収め、ついでに〈ヴァーミリオン形態〉によって広がった羽根も収納した。純白の翼が折りたたまれて、最後に鳥類みたいな骨格が綴じられる。
レナも機体を翻らせ、母艦である〈フィリテ・リエラ〉を目指した。
格納庫へ辿りつくと、そこにはイアルとフィエリアが待っていた。レナはむさ苦しくなったヘルメットを外してパイロットスーツのファスナーをおろし、熱を持った身体へ空気を送る。さすが北極だけあって、冷気は十秒をたたずに体温を奪った。
「お疲れさまです」
「まーね。今日はたぶん、もう終わりかな」
近寄ってきたフィエリアにヘルメットを預けて、レナはそう答えた。フィエリアは「なぜですか?」と言いたげに、怪訝そうな表情を浮かべている。
レナは続けて、
「んー、なんとなく。もうアイツの出番はないだろうから、あとは〈エーラント〉隊に任せちゃっていいよ」
「『なんとなく』って……それでいいのでしょうか」
まぁそーゆーモンでしょ、と軽く答えたレナはスーツをはだけさせてアンダーシャツ姿になり、タオルで汗を拭っていた。そのついでに隅で「うほっ、いい身体だな」とほざいていたイアルを蹴っ飛ばす。
現在、〈エーラント〉は百機近くが出撃しているハズだ。予備待機のものを含めて、この北極基地にはニ百機以上の〈エーラント〉がいる。レナからみれば敵であるASEEも、量産型の〈ヴィーア〉を百五十機近く投入している。傭兵たちも含めると、総勢四百機ちかくの人型兵器が戦闘を繰り広げているのだ。正直、激戦といっても過言ではない。
レナは真っ赤になったカオに青筋を浮かべたまま、
「――で、〈ツァイテリオン〉の進行は?」
「明日には出撃可能と思われます。今は武装パックの形状を合わせています。ですが……」
「どうしたの?」
「あ、いえ……ただ、イアルの機体は間に合うかわからないんです」
フィエリアの話では、長砲身のライフルを組み立て、それを実戦用にするのには相当の精度が必要で、もしかしたら一日では終わらないかもしれない、ということだった。
「それなら、それでいいんじゃない?」あんなヤツとレナは続けて、床の上に這いつくばっているイアルを一蔑した。
「まぁ、ウデはいいからね――戦力は欲しいところだけど、仕方ないか。技術班には『なるべく急いで作れ』って頼むしかないわね」
遅くなりましたー。
字数減らしすぎですね、今回は。
次回は結構長めに投稿できるかもですー。
続きは12月27日に更新予定です。