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E  作者: いーちゃん
43/105

北極戦線④ :フレンズ

part-j



 レナはぼんやりしたまま、宙を眺めていた。場所は〈フィリテ・リエラ〉の艦内廊下――にある休憩用のベンチ。長く続く廊下の横にはガラスが十枚くらい張られていて、その向こうは格納庫である。ここからだと、ちょうど修復中の〈アクトラントクランツ〉が見える。

 コーヒーカップへ唇をつけ、喉の奥へ流し込む。ブラックのそれは熱さとほろ苦さが混ざって、なんともいえぬ味わいだった。

「……」

 レナはまだ余韻に浸っていた。

 強すぎる〈オルウェントクランツ〉。

 繰り返す空間転移。容赦ない戦闘力と、

(――あたしとの差、か)

 歴然とした違いを見せつけられたようで、その黒々としたものが、レナの心から離れなかった。

 これだけの違いがあるのか、と。

 そして、あんな化物を相手にしているという不安。

「……」

 正直、押し潰されそうだった。

 突如――廊下の奥から声が。

「あーあ。ビビってんぜ、あれ」

 と、同時に蹴飛ばされる音がした。

 背面から蹴り上げを喰らったイアルは大きく吹っ飛び、天井にぶつかって床に跳ね、なにか砕けるような音を立てて――こちらまで滑り込んできた。

 その向こうに立っていたフィエリアが、

「ふむ、イアルはでりかしーがなさすぎですね。傷心ならば放っておくのも手段なのに」

 レナは驚いて立ち上がり、

「フィエリア! ……ついでに死体、どうして――」

 イアルがむくり、と起き上がって、

「さっきの戦闘を見てたら、いろいろ考えるトコロがあると思ってな」

 そういうことか、と息をついて、レナは再び腰を落ち着けた。

 イアルは腕を組んだまま壁際に背を預け、

「わかっただろ? 俺たちが相手にしてる敵ってヤツが。あれは戦争の道具じゃねー、それを超えてるバケモンだ」

「……わかってる。わかってるわよ。だから勝つんでしょ、あたしが」

「本気でそう思ってんのかよ。じゃ、何もわかってねーな。おまえは勝てねぇよ」

「……うっさい。アンタなんかにわからないでしょ?」

「心の底から憎んじゃいねーんだ」

「そんなことないわよ……」

「どこかで、ヤツを敵と思えてないトコロがある。それはなぜだ?」

 イアルは粘っこく続ける。

 フィエリアが制止しようと声を荒げたが、イアルはそれを撥ねのけて、

「それはな、ヤツが――おまえと似てるからだ」

「――じゃあっ!」

 怒りがアタマに昇って、言葉が暴発したみたいだった。

 レナは食ってかかる勢いで、

「じゃあ、あたしはどうすればいいってのよ!?

 たしかに、あたしはアイツを憎んでないかもしれないけどね――でも、敵なんだから仕様がないでしょ!

 敵と似てるだなんて、よくもぬけぬけと言えるわね!!

 あたしだって、べつに好きで戦ってるワケじゃないのに!」

 一体なんなのよと言いかけて、レナはハッと息を呑んだ。

 イアルは壁際に立ったままヘラヘラ――少なくとも嫌味ではない――笑って、

「スッキリしたか?」

 あぁ、こういうことか――と、レナはガスの抜けた風船みたいにへたれこんだ。

 おそらく、イアルはコレを狙っていたのだろう。

 心の内に溜まっていたストレスを、鬱憤を暴発させる――。

 レナは軽く頭を掻いて、

「まぁね、なんかラクになったかも」

「そりゃ良かった。お前の力だけじゃ勝てないってのが分かれば、それでいいぜ」

「フィエリアも、ありがとね。わざわざ来てくれて」

 今度はフィエリアが、

「いえ、わたしはなにも……」

「ううん、そんなことないよ。そばにいてくれるだけで、うれしいもん」

 レナが言うと、フィエリアは小さく笑んで、

「辛くなったときは呼んでください。わたしはやるべきことがあるので失礼しますね」

 律儀に一礼し、黒髪の少女は踵を返して廊下の奥へ消えていった。

 イアルが口をひらいて、

「ま、そういうことだ。独りで戦ってるワケじゃねーんだし、ナカマを頼れ。な?」

「うん。じゃあ、あたしもそろそろ行こうかな」

 空になった紙コップをまるめてゴミ箱へシュートし、レナは立ち上がった。

 うん――、と伸びをしていると、

「トドメを刺すのが怖くなったら、俺を呼べばいいさ」

 ルは無表情で言葉を続けて、

「おまえは弱いのに、強くなりすぎたから」 イアルはレナへ背を向けると軽く手を振って、どこかへと消えていった。少しでも人手が欲しい現在、ゆっくりとお喋りしている時間はなさそうだ。

 レナは廊下へ立ち尽くしたまま、

「……なぁんだ。あたし、独りじゃなかったんだ」

 ふ、と笑む。

 廊下の隅に設置された自販機の冷却ファンが、ゆっくりと回り始めた。



 読了ありがとうございました。

「アトガキ。」を読む前に、殆どの方が画面を閉じられているみたいですねー、ありがとうございますー。

 そんなわけで、次回から更新のペースを速めていこうかなと。具体的には

12月15日、19日、23日(の夕方以降?)に次話更新の予定です。文章量が極端に少なくなると思うのでよろしくおねがいしますー。

予告。

仲間意識を取り戻したレナは、新たな決意を胸に再び戦場へ舞い戻る。

激突寸前の彼らは――。

次話、「鼓動」


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