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E  作者: いーちゃん
41/105

北極戦線③ :逡巡

北極戦線はpartがすべて繋がってます。

が。

今回upする予定だったpart-jは書き上げられませんでした。

part-i



 〈オルウェントクランツ〉が着艦すると、ミオはすぐにコックピットから這い出た。いつもならワイヤーラダーを伝って下まで降りるのだが、今は体力が持ちそうになく、ミオは途中――三メートルほどの高さから落下した。

 鈍い音がしたが、気にしているほどの余裕もないし、それどころか痛くはなかった。どうやら全身が麻痺しているらしい。

 汗という汗が吹き出し、肺が突き刺すような痛みを訴えている――全力でフルマラソンをやらされたみたいに、喉もカラカラだ。脱水症状のためか、視界も白くぼやけている。

 そのなかを、少女が駆ける音がした。

「ミオさんっ!」

 トモカは倒れたミオへ走り寄ると、汗に滲んだヘッドギアを外して容態を確認。

 ミオは苦しげに息を切らして、

「み、水を……一杯、くれ……」

「お、おっぱいっ!? ミオさんこんな時に何言ってんですか!」

「ちがう、水だ……この」バカ、といえるだけの気力は、もう残されていなかった。

 トモカは「あ、水ですか」といって整備兵の視線に晒され、「あぅ」と真っ赤になりながら走っていった。

 ……こんな時にまで何やってんだ。

 しばらくすると、トモカはドリンクカップを持って戻ってきた。ミオはそれを受け取ると、ゆっくり――いっきに飲むと危険なため――水を飲み干した。

「落ち着きましたか?」

 ミオの呼吸が戻ると、トモカは普段のような笑みを浮かべて構えた。

 ミオは、

「まぁ、な……しかし何だったんだ、アレは」

 先ほどの戦闘――〈オルウェントクランツ〉は、突発的な暴走状態のように制御がきかなくなった。出力がマイナス680パーセントを記録し、次々と空間転移が起こり、パイロットであるミオの体力を根こそぎ奪ってゆく。

 一体なんだったんだ、あれは……?

「トモカ。さっきの戦闘データを抜き取って、分析しておいてくれないか」

「? いいですけど……たぶん、コピーに三十分は掛かりますが」

「構わない、その間くらい〈ヴィーア〉の連中にやらせるさ。それと、キョウスケへの連絡手段を用意してくれ」

 トモカは、わかりましたと言い置いて機材を取りに行った。格納庫の奥にあるデスクからケーブルごと引き抜いて、機器を〈オルウェントクランツ〉のネットワークへ接続させる。

 その手さばきは、ミオも舌を巻くものがあった。十数本の色のついたケーブルを間違えることなく繋げて、そのかたわらで機材を立ち上げ、キーを素早く連打する。

 少しすると、トモカは受話器を抱えて戻ってきた。

「キョウスケ先輩に繋がってます」

 わかった、と立ち上がり、渡された受話器を受け取る。ミオは再び機材のもとへ行こうとした少女へ呼びかけて、

「トモカ……ありがとな」

「まぁ、これくらい大したことないです。いいですか、最高のオペレータとは――」

「……わかったから、含蓄を語る前に早く行け」

 ミオが指示すると、トモカは怒ったように頬を膨らませて「ケーブル三本、引っこ抜きますから」と言った気がするが、いくらなんでも気のせいだろう。

 と思いながら、ミオは受話器へ耳を宛てた。

『……、はい? もしもし』

「キョウスケか? 俺だ。いくつか説明してもらいたいことがあって連絡したんだが」

『ミオじゃないか。いまは北極戦線らしいけど、サボっているのかい?』

「噛みつくなよ。いいか、単刀直入に訊かせてもらうぞ――〈オルウェントクランツ〉のアレは、いったい何なんだ?」

 キョウスケは暫しのあいだ沈黙して、

『……そうか、起動させたんだね』

「ああ。死にそうになった、空間転移をし始めた、出力がマイナス680パーセントを越えた。いったい何なんだ、アレは」

『ごめん、その件は僕にもわからない』

 キョウスケは続けて、

『通常の機体――たとえば〈ヴィーア〉とか〈エーラント〉とかの出力が、100パーセントを越えないのは知っているね?』

「……あぁ、一般兵が最大49パーセントだろ。俺でも最高89.6だからな」

『そう。すべての機体は、パイロットの扱える力量を超えないよう、出力が100を突破しないように設計されている。だけど、科学者たちはその壁を越えようとした』

「……つまり、『制御可能で、かつ最高の出力』を求めたのか」

『そういうこと。だけど、機体の出力は100パーセントを越えないことが証明されたんだ。いや、正確にいえば、100パーセントの出力というのは存在しないんだけど』

「……どういうことだ?」

 キョウスケの説明では、どれだけ出力が上げられたとしても、それは最大99.999...で止まるらしい。物理的な証明を経て、数学的な証明が得られ、もはや覆せなくなったとか。

『――だから、科学者は負の数字を求めた。エネルギーを放出するのでなく、吸収するシステムをね。それが重力位相変換機構さ』

 ミオは「久しぶりに聞いたな」と思いながら、前髪を掻きむしった。

 たしか、大気圏中に存在する重力をエネルギーに変換するアレだ。だから〈オルウェントクランツ〉にはエネルギー切れの心配がない。

 でも、と、ミオは吐き出しそうになった言葉を呑んだ。

(それだけ強い機体が、いったい何のために……?)

 本当に『戦争を終わらせるため』なのか?

 それなら、どうしてこれだけの力を――。

(……その前に、俺は)

 戦争とか、平和とか――

 正義とか、悪とか――

「……知るかよ、そんなもの」

『え?』

「いや、なんでもない。すまなかったな、急に呼び出して。トモカがデータを送ってくれると思うから、そちらでも分析してくれ」

『りょーかい。で、彼女は元気にしているかい?』

「ああ――」

 いったん受話器を置いて、ミオは漆黒の機体――その足元で作業に勤しむ少女を見やった。今は真剣な表情をして、画面に映る数値とにらめっこしているみたいだ。

 ミオは受話器へ耳を宛てて、

「――ただのバカで、ただの大食いだけどな。本当にすごいのか? アイツは」

『うん。正直、彼女は天才だよ。同じ年齢だったら、僕も負けてたかもね』

「……マジかよ」

 どうせ冗談だろと半信半疑のまま、ミオはトモカを見やった。

 キョウスケは続けて、

『弱冠十六歳で大学院を首席卒業、計四回の論文すべてで博士号を取得』

「……それ、[大食い大会で四回連続王座を獲得]の間違いじゃないか?」

『いや、事実さ。当時は天才少女現る、ってマスコミに取り上げられてたんだけど』

「……なんだか気分が悪くなってきた。切るぞ」

 受話器を置いて、ミオは特大の溜め息をついた。軽く伸びをして、水のはいったボトルへ口をつける。

 そんな天才が、どうしてあんなに大食い――いや、もしかしたら天才とはそんなものなのかもしれないが。

 ミオは、なんとなくそう思った。




読了ありがとうございました。

設定資料2を12月5日の明日にupする予定です。

けっこう神がかっているので、また目を通していただけたらと思います。

それと、来週の更新から文章の量を減らし、四日に一度の更新にしようかなと考案中です。

詳しくは来週ぶんの「アトガキ。」で報告いたします。

それでは土曜日にお会いしましょうー。

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