北極戦線② :ブラックアウト
part-f
時を同じくして、トモカは巨大なモニターの一角に異常を覚えていた。
二、三の指輪みたいな円が、黒を基調としたモニターにクッキリ浮かび上がっているのだ。
機材の不調かな、と思った矢先――危機は恐るべき速さで増殖した。
熱量を示す点が、その指輪から大量に出現したのである。その数、ざっと四十。
焦ったトモカは叫ぶように、
「敵、戦域周辺より多数接近! 数え上げられませんが、四十機前後と思われます!」
隣にいるオペレータが「あぁっ!?」と髪を掻きむしり、
「な、何者かが艦内コンピュータへ侵入を試み……あ、いえ、消滅しました。……?」
オペレータの若い男は不思議そうな顔をしたまま、しばらく画面と睨み合っていた。
part-g
『ミオさん、聞こえますか!?』
トモカの声を受けて、ミオはモニターの隅を睨んだ――そこへ、少女のカオが映し出される。うわずった声と同様、その表情には焦りが伺えた。
ミオは不機嫌な口調で、
「……どうした」
『敵機が増加中です、これはASEE、統一連合の両軍ではありません!』
「なんだと?」
データをそちらへ送りますと言い置いて、トモカは通信を終えた。
ミオが指示された方向を仰ぐと、
そこには。
「あれは……!?」
形に連続性が見られない機体――昆虫の形やら鳥類を模したような、その他いろいろ――が、群がるようにしてこちらへ向かってくる。
『セ、セレーネ……?』
〈アクトラントクランツ〉のパイロット、レナも気づいたようである。
その数はざっと四十、あるいはそれより多いだろうか。ともかく、以前ミオが相手にした戦力の倍以上だ。あのときはトモカの予知能力に助けられたが……残りの十数機を取り逃したのも記憶に鮮明である。
ミオは回線へ向かって、
「……どうする?」
『まぁ、アンタを倒してからでもいいんだけどね。正直、邪魔されるのは嫌いかな』
「……わかった、一時停戦といくか」
『はいはい』
言うが早いか、レナはライフルを乱射させながら、敵機の群れへ突っ込んでいった。放たれたビームは敵機を精確に撃ち抜き、深紅の機体は身を翻し切揉みさせながら敵の反撃を回避、その隙にも繰り出す一撃は、順調に戦闘力を奪ってゆく。
すでに五機の敵が、容赦なく破壊されていた。
(俺も……なにかやらないとな)
トモカに頼るという案が浮かんだが、ミオはそれを却下した。安易に彼女を頼りすぎれば、いざというときに困る。
〈オルウェントクランツ〉は改修されてから、キョウスケによって幾つかの機能が追加されていたハズだ。
(……これか)
ミオはオプションをいじって、その果てにあるものを見つけた。
一瞬だけ、モニターがブラックアウト。緑色の文字が画面を埋め尽くす。
ALWENT-QRANTZ[rE]――――Mio Hisui.
FINAL.RESTRICTIONAL.CODE――BREAK.
unLIMITED CODE――――[minus ZERO].
PARAREL SPHERE ……DISCHARGE.
ALL SYSTEM EXTRA-REVELATED.
[SYSTEM E]UNDERBROKEN...
#...killn't that ye be not killed]
linking=ovEr-680persent
(……なんだ?)
コックピット――もとい隔壁のなかが真っ暗になって、ミオは焦りを覚えた。
(それだけじゃない。身体から力が抜けていく……)
全身が干からびるような感覚を味わって、ミオは奥歯を噛む。
二秒、五秒が経ったが暗闇は晴れない――予備電源へ移っても不思議ではないのに。
ミオがこの機体そのものを疑いはじめたとき、ヴンという音を立ててシステムが修復された。モニターの光々としたライトが狭い空間を照らし、弱々しい小明が灯る。機体の動作に障害はなさそうだ。
しかしそのぶんの障害は、ミオへ重くのしかかっていた。
「はぁっ、ッはぁ、……ハ、くっ……」
ミオは苦しげに呼吸を荒げた。酸素がなくなってしまったみたいに、息が苦しい。
――死にそうだ。
ミオはそのとき、本気でそう思った。
だが、敵の攻撃に容赦はない。セレーネの主力機体にパイロットは存在しないのだ――簡単にいえば、自動プログラムはこちらの都合などお構いなしなのである。
ミオが苦悶を振り絞る隙にも、敵機――〈アーヴェント〉は接近してミサイルポッドを噴出させ、レーザー砲をバラ撒く。
避けなければ、とフットペダルを蹴った瞬間。
〈オルウェントクランツ〉は、すでに別の場所にいた。
「……ッ!?」
ミオはわけがわからないまま、座標を照らし合わせてみると――さっきまでいた場所から百メートルちかく離れているのがわかる。
至近距離で放たれたハズのミサイルは方向を見失い、四散して北極の海へと没した。
ミオは我を失って、まるでごねた子供みたいに――無茶苦茶な操作をくり返す。だが、モニターに映る数値は増幅してゆくばかりだった。
「なんだ、……? なんだよ、これは……っ!?」
part-h
「な、何なのよ……あれは」
十機目を貫いた光刃を引き抜いて、仰ぎ見た先――それが兵器の姿なのかという疑いを抱いて、レナは言葉を洩らした。
いや――自分が駆っているのが兵器ならば、それはまさに鬼の姿だろう。
〈オルウェントクランツ〉はビーム刃を払って、立て続けに三機を戦闘不能にしたあと、さらにライフルを一射――とどめを下す。
だがその隙にも、ミサイル群は漆黒の機体へ迫っていた。
回避するだろう、とレナが睨んだ刹那。
〈オルウェントクランツ〉は瞬間、闇色の光に包まれたかと思うと――そこから、
消えていた。
(なに!? どうした――)
途端、別の方向から黒いビームがはしり、ミサイルを放ったばかりの〈アーヴェント〉を貫いた。一拍おいて、漆黒の機体は爆散したそれと――流星のごとき速度で擦れ違う。
しばらくおいて、レナは思い当たるものがあった。
空間転移能力。
〈オルウェントクランツ〉に搭載された、危険というにはあまりにも危険すぎるシステムである。ある場所からある場所へ一瞬で移動し、その気になれば対象物を別の空間へ転移させることもできる力だ。
そう、あれは陽電子砲が放たれたときのこと。〈オルウェントクランツ〉が〈フィリテ・リエラ〉艦首砲を受け止めた瞬間――真っ黒な光が悲鳴をあげたハズだ。あのとき起こったのは、間違うべくもない転移反応だった。
漆黒の機体は空間転移を繰り返し、あちこちに現れてはレナの目の前で戦闘を広げてゆく。自在に飛び回り、刹那には敵の背後へまわって逆袈裟斬り――爆発をあとにした瞬間には、すでに次の敵機が散っている。
十秒を経たず、すでに十二機の敵が葬られていた。
「す、凄い……すぎる……?」
思わず、レナは感嘆の声を洩らした。
やっぱり、とは思ったものの、この戦闘力は異常すぎる。
〈オルウェントクランツ〉は音より疾く、光を超えた速度で――目の前の戦いを繰り広げているのだ。それを見せつけられて、驚かない者はいないだろう。
秒間一機のペースで敵戦力が奪われてゆく。レナが倒した敵以外――およそ三十の〈アーヴェント〉をほふった漆黒の機体は、力が抜けたみたいにして動きを止め、重力に囚われて落下してゆく。
「ちょ、ちょっと! しっかり……」
レナが慌てて深紅の機体を駆り、その肩で〈オルウェントクランツ〉を受け止める。
『うっ……。レナ、か……?』
漆黒の機体は驚いたようにもがくと、ブースターを散らして母艦へ戻ってゆく。
彼女は、自分の名を呼ばれたことに気づかなかった。
お久しぶりです作者です。作者ですよ?
何はともあれ金曜日ですね。皆さま一週間お疲れ様でした。土曜日もあるという方は頑張ってくださいー。日曜も頑張るのだヌハハなアナタにはリポDがオススメですね。
さて。
何を書こうか迷ったし、20000字も「アトガキ。」が書けるヤッホーィなのでとりあえず箇条書きにしますねー。
・「アラスジ。」にもあるよう、現在この作品は小規模校正中です。そのため目次ページに「第×話:」という表記のある話と無い話があるのですが、校正終了した話には「第×話:」という表記をさせていただきます。ご了承くださいませ。
なお、ストーリーに大きな影響はございませんので、併せてご理解をお願いいたします。
・翌週あたりに「設定資料2」をupさせていただく予定です。気分によっては早めのupになるかもですが……読者様ご存知の通り作者は「あんな人間(堕」ですので、間に合わない可能性のが高いんですよー。
※内容としては、未登場の主人公後継機を設定しりょるつもりです。本編の登場はもうちょい? 後ですねー。
・なんだかメッセージを送ってくださる方が急増中です。どうやら
UEX-E24 ALWENT_QRANTZ[rE]
↑コピペ用
をワードかメモ帳に写して斜体にするとムダにかっこいいらしいです。情報提供者の「千手観音様」、またskypしましょー。
他にも「ぶっさん様」を筆頭に「ほーらい様」みぃみぃ改め「みぃ猫」様、感想欄へ一言付けていただいた方々、評価pointをウオォゥラァッ!と投票してくださった方、ありがとうございます。まだまだお願いしますー。
書くことなくなった?
いや、まだありますね。
・いつのまにか読者様の数が22000を突破していました。これもひとえに画面の前のアナタのおかげです。ありがとうございます。ケータイでお読みになっている方々、できればクリアキーを押して前話へ戻っていただいて、再度アクセスしていただければなんと読者数二倍!
……さて、画面が閉じられたみたいですね。
この作品「E」も一応「読んでいただいている」作品ですから、もっとキッチリしたもの書かなきゃと気を引き締めていきたいですー。
さて、長々と失礼致しました。恒例の次回予告です。
予告。
part-i
暴走した漆黒の機体を駆りながら、命からがら逃げ延びたミオ。そこでも彼は、目の前にいたはずの少女とすれ違う……。
part-j
あの「敵」と戦うことを決めた。
でも、ずっと独りだったんだ――と自覚するレナへ、追い討ちをかけるように言葉を放つイアル。
「心の底から、憎んじゃいねーんだ」
次話、「北極戦線③:逡巡」