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E  作者: いーちゃん
35/105

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あ、可能であればレビューしてもらえると嬉しいです。ほとんど使ったことがない機能ですねー。

レビューしていただいた方は、作者様の小説を教えていただければ、たぶん、レビューしにいくと思います。



 ミオは艦内の食堂にいた。

 ろくに話せる相手もいないから、最も壁際の席に、ぽつんと一人で座っている。目の前のトレーには、トマトの残った皿が一枚だけである。いつも食べるのはパン一切れとジュースだったり、今日のようにドレッシング抜きのサラダだったり――ミオにとって「味」というのはどうでもよく、生きていくのに最低限の栄養価があれば充分なのである。

 今日も、さっさと昼食を済ませて自機の調整に向かうところだった。

 ミオがトレーを持って立ち上がると、席の向かい側に立っていた少女が首をかしげて、

「あれ? ……ミオさんですよね?」

 ミオは声の方向を仰いだ。

 そこに立っていたのは、見た目にして自分と同い年くらい――栗色の髪を、うしろに黄色のリボンでとめている少女。見間違えるべきもない、イズミ・トモカだった。

 ミオは止めた動作の続きをするように、

「……人違いだ」

「えぇっ!? その態度は間違いなくミオさんですよね!」

「ちっ……バレたか。で、何の要だ」

「……」

 イズミは涙目になってガクガク震えていたが、ミオの空になったトレーを見て我に返る。

「あっれ、もう食べ終わっちゃったんですか?」

「……あぁ。これから機体の調整だが、それがどうした」

「一緒に食べようかなぁ、って思ったんですけど」

「……ひとりで食え」

「えぇぇ! 置いていくんですか!?」

 ミオは数歩いってから怪訝そうな表情で振り返り、トモカの涙目を確認――。

「わかった、座ってりゃいいんだろ」

 トモカはその一言で満足したように頷いて、手にのせていたトレー二つをテーブルに並べた。空いていた席を引っ張りだしてきて座り、二人ぶんの昼食へかぶりつく。

 ミオも向き合う位置へと着席した。

(……って、コイツどんだけ食うんだ?)

 並べた二つのトレーにあるのはピザ一枚、カレーライス一皿、サラダにオレンジジュース――の、それぞれLサイズ。トモカは噛みきれずに伸びきったチーズと格闘している。

 ミオはなかば呆れた口調で、

「……すごい食欲だな。ピザとカレー、食いきれるのかよ」

「ひふれぃふぁっへほ、ひはふぁはふへひっふぁへふ」

「いいから飲み込んでから喋れ」

 ミオが言うとトモカは頷いて、ごくんと一息したあと、

「失礼なんですけど、ピザじゃなくてピッツァです」

 ……それが言いたかったのかよ。

 ミオはやりきれない気分になって、頬杖をついたままトモカから視線をそらした。

 食堂はまだ一般の兵士でごった返している。作業員と休憩の時間が異なるから、テキパキ済まさねばならない――のだが、やはり休みの時間は誰にとっても大切らしく、非常態勢でもなければゆっくり過ごすのが大半だ。

 ミオはそんな光景を尻目にしながら、

「――で、キョウスケはどうした」

「本部に帰りましたよ。会いたい人がいる、っていってましたけど」

「……」

 会いたい人、というのはレゼアのことだろう。そういえば端末を折って以来、ミオは彼女からの連絡を目にしていなかった。

 手術は受けたのだろうかと思って思案顔になると、トモカが覗き込んで、

「どうしたんですか?」

「……いや、なんでもない。それより聞きたいことが幾つかあるからな、答えてもらうぞ」

 ミオは矢継ぎに続けて、

「まず一つ、お前が先の戦闘で見せた能力――いわば二秒後の予知能力だが……あれはいったい何なんだ?」

 トモカはピザ――もといピッツァと格闘する手の動きを止め、しばしうつ向いて「わからないんです」と答えた。

「いつの間にか、視えていたんです。原因はわかりません。喩えが悪いですけど……人間って、気が付いたら『生きてる』ものじゃないですか。あんな感じだったんです」

 ミオが「喩えが下手だな。まぁ、物心ついたらって感じなのか」というと、トモカは「そうですね」と短く答えた。

 彼女自身が原因を知らない以上、追及は無理だろう。

 ミオは続けて、

「……で。どうなんだ、『二秒後の未来』が視えるってのは。周りと違うものが視えるんだろ?」

「あ、はい。立体視とか空間把握能力に近いですけど」

「……鷹の目か。一部が見えるだけで、その立体が把握できる」

「そうです。また喩えが悪いですけど、たとえば雑踏とか人混みの中で、どこをどう行けばスラスラ進めるのか瞬時にわかる、あんな感じです」

 ミオは「あんな感じって言われてもな……」と頭を抱えていたが、どうやら彼女にとってはそんな感じなのだろう。簡潔にいえば、数秒後の人の流れや動き、その位置が完璧に把握できる――ようなものだろうか。

 ミオは理解に苦労しながらも頷いて、

「そうか、一つめはわかった。二つめを聞かせてもらうぞ」

「ちょっとピッツァ食べていいですか」

「いや……普通に食べながらで構わないが」

「ひふぉはうひっふぁっふぇ」

「……。やっぱり食べながらはナシだ」

 ミオはトモカの口元からピッツァを取り上げる――が、彼女はチーズだけでも返してくれとかぶりついていた。

 さっきまで談笑していた兵士たちの声が急に小さくなり、その動きがいきなり慌ただしくなった――食事途中だった者が突然たちあがってトレーを戻し、走って元の席へ着席してゆく。

 ミオは不穏な空気を感じ取って、

(……なんだ?)

 見ていると、食堂の入り口から身体つきのよい男が姿を現した――オーレグだ。

 大量の書類を抱えた二人を束ねて、オーレグ・レベジンスキーは開口一番、響く声で、

「突然だが、ミーティングを行う」

 食堂にいた兵士たちは弾かれたように立ち上がった――それにはイズミも含まれているが、ミオはしかし立ち上がらずに頬杖をついていた。

 オーレグに従えられていた二人は、書類の山を食堂にいた全員へ手渡しはじめた。資料は三枚をクリップどめしたもので、それぞれ損害・近況・方針で構成されている。

 オーレグが口をひらいて、

「本艦は、かねてからの進路により本部基地へ向かう予定だった。しかし相次ぐ戦闘により、他艦も青息吐息の状態だ――現にASEEは統一連合に押され始めている。物資も兵器量も、だ。昨日、二つの軍需工廠が何者かによって破壊された。これが統一連合の所業であるとは言うまでもない」

 そこまで言って、オーレグは一息を吸い込んだ。

「――我々は北極へ向かう」

 それを聞いて、その場にいた全員の表情が凍りつく。

 他がどこも当たれないから、この艦が北極へ向かう――オーレグが下した判断は間違いなくそれだろう。

 だが、兵士たちが言葉を失くした理由は他にもある。

 統一連合の所有する二大基地――北極基地とアフリカ基地――そのうちの片方を陥落させるというのだ。しかも、それが大陸ではなく巨大な氷の上にある北極基地を。

 まったく無茶な話だ――とは、オーレグが一番に理解しているだろう。彼が続けた話によれば、北極戦線を張るに際して、味方として傭兵を雇うとのことだ。さらに補給を行うジャンク屋の組合も手配し、万全の状態で挑む、と。

 傭兵とは、つまり「金さえ支払えばどの陣営にも与む」兵士、または集団を指す。入軍するより稼ぎがいい、ということで傭兵となる者も少なくないし、実力も相応のものだろう。ミオより強い者も、中には存在する。

 一方のジャンク屋は名の通り『廃品』やパーツを扱って商売とし、どの陣営にも所属しないところは傭兵と同じである。

 まぁ、戦力は多いに越したことはないだろ――と、ミオはぼんやり思った。

 オーレグは話を続けて、

「知っている通り、統一連合の〈フィリテ・リエラ〉は現在、ハイゼンベルグで補給作業中だ。その後、彼らは北極に向かう。二大基地と〈アクトラントクランツ〉、そして敵艦を討てば、今後の戦況は優位に進むと予測される」

 詳しい作戦内容は今後と言って、オーレグはミーティングを打ち切った。二人の仕官を連れて食堂をあとにし、締めつけられていた空気が解放される。

 兵士たちがぞろぞろと出ていくなか、ミオは眉間に皺を寄せたまま動かなかった。トモカは再び席につくと、オレンジジュースへ手を伸ばして、

「どうしたんですか? 難しいカオして」

「……」

 ミオは無言を返答として配布資料を睨んだまま、怪しいなと呟いた。

「……オーレグは、どうして〈フィリテ・リエラ〉が北極へ向かうと確信したんだ?」

「それは……今までのルートを分析して、その可能性が高いって結果が出たからじゃないでしょうか」

「……そうか?」

 〈フィリテ・リエラ〉は、ミオの〈オルウェントクランツ〉が復帰したことを知らないだろう。レゼアもいなくなった今、この艦は彼らにとって好都合な「獲物」のハズだ。

 だから北極へ向かうよりも、まずはこの艦を沈めにくる可能性のほうが高い、という話を、ミオはトモカへ説明してやった。

 トモカはコップを置いて、

「なんだか最近、上層部の様子がおかしいってキョウスケさんが言ってました」

「……キョウスケが?」

「ええ。なんだか事実を抹消したり、知っているハズなのに『不明』の回答を付きつけたり……今回も、なにかが裏で動いてるのかもしれません」

 あんまり大きな声では言えませんけど、とトモカは続けた。

 ミオは嫌悪感を覚えたが、おそらく気のせいだろう――まさか上層部の誰かが『仕組んで』いるとは考えにくかったし、そんな能のあるヤツが上層部にいるとは思えない。

 トモカは開き直って、

「――で、ミオさん。ふたつめの質問ってなんでしたか?」

「……? あぁ、質問の途中だったな」ミオは気を取り直して、

「おまえ、キョウスケと一緒にいたみたいだな。前はどこの所属だった?」

「ふぁいはふへむ――」

「……飲み込んでから喋れこのバカ」

 トモカはミオの発言にむっとしたみたいだったが、ピッツァを飲み込んでから、

「ASEE軍事課第十七研究所所属、専門は波動量子論とシステム・コーティングでした」

「……」

「……」

「……おまえが?」

「はい。よく言われるんですが……やっぱり、見えないですか」

「……まぁ、な」ミオはポリポリと頬を掻いた。

 こんな大食いの少女が、そんなムズカシそうな研究を遂げたとは――にわかに信じられない。

 トモカはガタと席を立って、

「ちょっと死んできます」

 うわぁ待て待て死ぬのはヤバい――とミオは慌ててトモカの腕を取って着席させ、彼女の口のなかへピッツァを押し込んだ。トモカは食べ物を得ると落ち着くらしい――今度からそうしよう。

 ミオは一息ついて、

「じゃ、おまえはキョウスケの直属の後輩なんだな」

「ふぁい」

「……システムEの中身について、どこまで知っている」

 ミオの声が、急に冷たく――押し殺したそれになった。

 トモカは一瞬だけ背筋を緊張させたが、ふとうなだれるように視線を落とした。

「あんまり詳しくはないですけど……。ミオさんがやってることは、自分にとって不利なことだと思います」

「……」

「間違いだとは、思いません。でも、それを大方の人へ内緒にしてるのは……」

 あんまり感心できません、と彼女は続けた。ミオの表情をチラと窺う素振りをみせて、再び視線を落とす。

 今度はミオが口をひらいた。

「……仕方ないんだ。システムEの中身が知られれば、俺の居場所は無くなる。おそらくこの世界中から、な」

「……」

「……何を理由に、何を目的に造られたかを考えればわかるだろ」

 おそらく、トモカは知らないだろう。

 キョウスケが知っていたとしても、それを自分の後輩へ教えているハズがない。

 ミオ・ヒスィという一人の兵士にまつわる事実、その禁忌を。

「――俺は……クローンなんだからな」


 さて、今回の話に登場した「ピザじゃなくてピッツァです」は、サンドウィッチマンのネタから拝借させていただきました。

ラジオ聞いてます。エンディングの「人間ってヤっだなー、人がっ大嫌いっさー」by筋肉少女帯『人間嫌いの歌』も聞きまくりなのですよ?

まぁ作者の人間嫌い加減は置いて、次話予告いってみっかー!


予告。

北極基地で受領するはずの新型機zwitterion-ツァイテリオン-。

フィエリアとイアルの新型機、そのコンセプトが決定される。

挿話的です。

次話、第三十三話「zwitterion」


※読者様の数が順調に増えてます。ありがとうございます。

……ので、キャラクター投票とかやりたいですねー。

一週間で800人弱だから、一人5票で……

まぁ、最低10票は集まりますよね。

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