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E  作者: いーちゃん
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オービタル・ピリオド

part-a


 時刻は夕方のころだったように思う。場所は、たしかロシュランテの端にある小さな学校の前だ。

 その白い機体は、沈黙の空を飛んでいた。

 ひどくゆったりとした軌道を描き、いつも同じところを飛んでゆくそれは、かくして月のそれに近いものがある。

(……誰かの夢のなか……)

 歌声が届いた。

 遥か彼方の遠くから、透き通るように美しい声が――。

 それが衛星軌道を描く機体から発せられたのかはわからない。

 だが、少女はその声に気づいた。

 いや、少女しか気づけなかった。

 仰ぎみた先に見えるは、純白の機体。

 惑星のあいだを、翼もないのに自由に飛び回る――。

 薄緑色の髪をした少女は、

『寂しいんだな、おまえ』

 ぶっきらぼうな口調で、言葉を放った。

 それが白い機体へ言ったものなのか、それとも自分へ言い放ったのかはわからない。

『いつもそうして、独りで回ってるのだろう? それは、とても寂しいことじゃないか』

 白い機体は何も答えなかった。

 虚しい空へ星を散りばめながら、おなじ軌道を描いてゆく。

『本当は誰より優しいのに、誰にも気づいてもらえないのは可哀想だ。でも、自分の優しさに気づけないおまえのほうが、よっぽど可哀想だと思うぞ?』

 少女は自分の手を、空へと差し出した。

『ともだちだ。気づくことができた瞬間から、ともだちなんだ』

 少女――まだ幼いレゼアは、そうやってはにかんでみせた。

 辺りはいつの間にか暗くなり、残された空は星が降るようだった。








part-b


 レゼアは水平線へ沈む夕陽を眺めていた。

 夕方のこの時刻は、すべてのものが淡いオレンジ色に染まる。風に揺れる木々も、色褪せたコンクリートの壁も、果ては街の色までも。どこか落ち着きさえ感じられる色だ。

 ASEE本部基地の周辺――海に隣接する――は、ほとんど護岸工事が施されているようで、砂浜と呼べる場所は、ここしかない。レゼアは砂浜のなかに車椅子を停めて、穏やかな気持ちに身を委ねていたのだ。

(……)

 本部からの報告によれば、現在のASEEは圧倒的不利な状態にあるらしい。それには第三勢力セレーネの存在もあるだろう。しかし、現状を左右する大きな要因としては、元々の「組織の大きさ」が考えられる。

 ASEEは、もとはといえば独立組織だ。統一連合によって世界が統合される寸前、その意に反した小規模な国家が集合した組織――と解釈することができる。

 統一連合に比べ資源面で劣るASEEは、技術を頼みの綱として事の運びを得たが、それも統一連合に追い抜かれつつある。二機の〈クランツ〉が好例だろう。

 だが。

 前時代――おそらく二十年以上前から存在していた技術のなかで、現在のASEEが「実験中」とする項目が一つだけ存在する、という噂話を、レゼアは耳にした。

 しかも、それは人に破られざる禁忌だという。

(……)

 レゼアは押し黙った。心が塞がれたみたいな気分になって、ふと視線を落とす。







「ヒトの心は、それぞれ寂しい色をしすぎたのさ。孤独の埋め合わせをするために生き、かくも殺し合うのが宿命だよ」







 透き通るようなその声は、しかしレゼアの背後から届いた。いつだったかに見た衛星軌道の、あの歌うような口調である。

 レゼアは背後を振り返った。

 そこに立っていたのは――自分の知るミオ・ヒスィと同じ姿をした少年だった。体格、身のこなしとも瓜二つ。ただ違うのは前髪を伸ばしていないということと、その瞳が血のような真紅であるということだ。

 レゼアは口をひらいて、

「おまえ……」

「ぼくの分身とは接していたみたいだね、レゼア・レクラム」

「……」

 すぐに視線を外して、レゼアは海の広がるほうを見やった。

 二人のあいだに沈黙が満ちる。レゼアはそれを破るように、

「……あの技術、噂ではなく本物だったとはな。わたしもASEEを買い被りすぎたというものだ」

「仕方ないだろ? どんな技術も、結果は必要なのさ。失敗か成功かを見極めなければ、そこに進化は存在しないのだから」

「失敗、だと? 禁断の生命を産み出しておきながら、ただの失敗で済ますつもりではあるまい」

 レゼアは肩越しに少年を睨みつけ、強い口調で言い放った。

 続けて、

「わたしは貴様らが何を行おうとしているのか理解できんし、もとい理解するつもりは毛頭もない。だが、何食わぬ顔でそのような技術に手を染める連中と、その汚れをひとりの人間に押しつけようとする輩を、許すつもりはない」

 紅い瞳の少年は、小さく笑ったように一息すると、

「いずれにしろ、時が経てば答は見えるはずなんだ。正しいのは真実と正義のみ、そして歪んだ世界は総て過ちだと。時間がないから、ぼくは行くよ」

 分身によろしくと言い置いて、少年の気配は遠ざかっていった。辺りは風が強くなり、少し肌寒く感じられる――のをみると、夜が目と鼻の先にあるのがわかる。

 くそ、とレゼアは歯噛みした。

 ASEEが発足する前身から所属していたとはいえ、レゼアは「少しでも世界の間違いを正すため」入軍したのだ。

 しかし最近になって、組織の裏の実態――世界の裏側を目の当たりにしてから、レゼアはそれさえも疑念を抱くようになった。

 ASEEは、本当に正しいことを行うつもりなのか?

(……それ以前に)

 レゼア・レクラムという自分自身は、ASEEに所属すべきだったのか?

 ふと人の気配を感じて、レゼアはチラと背後を窺った。


「今日は――――二人、か」


さて、遅くなりました。

基本が怠惰な人間なので、更新を「一週間に一度」にしようかな、と。言い訳だよっ!

自分自身の遅筆が原因ですね、すみません。

・あと、前回のお話で、天津木村さん(似)が感想欄にコメントしてくださいました。作者は基本、絡んでくれないと寂しがっちゃうヤツなので、嬉しかったです。わからない方は前話参照でゴー。

・さて、リニューアルしましたね、このサイト。今さら本題です。

――が繋がって表示されなくなったので、文字のサイズをあれこれ変更してやってます。読んでいて

「文字でかっ!?」「文字小っさ!!」と思ったら、たぶんそれは作者がいろいろやってる証拠です。たぶん。

・お気に入り小説登録をしていただいている方々。三人くらいかな?

あなたたちは勇者です。感謝。

予告

実家へ帰省したフィエリアと、それに随伴していったレナ。

そこで少女ふたりは、冷徹なる事実を目の当たりにする。

そこで明らかになる、レナが入軍を志願した理由とは。

次話、「Doesn't be」

毎週金曜日の午前中に更新です。

・くだらない活動報告、始めました。おヒマ方は覗いてみるのもご一興かと。作者の怠惰病が感染します。

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