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E  作者: いーちゃん
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第二十二話:サヨナラ

 〈アクトラントクランツ〉の中で、レナは思わず絶句していた。

 街を覆う炎――それさえも喰い尽くした闇の光。

 意志をなくしたように立ち尽くす〈ヴィーア〉の姿。

 崩れた丘、瓦礫――数えきれないモノが視界に飛び込んできた。

 だが、一番に焼きついたのは。

「イアル……?」

 溶けた金属の塊が、ごとりと落ちた。撃ち抜かれた〈エーラント〉の首なのか、胴体なのかも判別がつかない。

 それくらいに、酷い状態だったのである。

「イアル……ねぇ、返事してよ……ねぇ!」

 レナは必死に呼びかけたがノイズだけが答えを返し、声らしきものはまるで伝わってこない。

「そうだ……フィエリアっ! フィエリア!?」

 見れば、フィエリアの〈エーラント〉――折れた刀を二本束ねた機体は、すでに中破の状態だとわかる。

 レナは息を呑んだ。

 孤立無援――という文字が脳裏に浮かぶ。

 緑色の機体が首の方向を変え、〈アクト〉を睨んだ。

(……来る!?)

 レナは慌てて回避体勢をとり、予測されうる射線から逃がれる。次の瞬間には、緑の機体のライフル尖端から真っ黒な光が迸り――漆黒に曇る空を撃ち抜いていた。真っ黒なエネルギーは雲を突き抜けて大穴を穿ち、宇宙空間まで消え去ってゆく。

(なによ、あれ……!?)

 レナは目を疑った。

 威力は戦艦の主砲射撃――つまり〈フィリテ・リエラ〉の陽電子砲にも劣らない。いや、もしかしたら艦主砲に勝るのではないか、と思わずにはいられなかった。

 とても信じられる光景ではない。

 ひとつの機体が、あれほどの火力を備えているものなのか?

 いや――と思案するレナを置いて、緑色の機体は二射目を構えていた。

(マズい。これは……ッ)

 レナはスラスターとスロットルを絞った。

 ヴァーミリオン展開――真紅の機体の背面から、純白の羽根が生える。

 レーダー・照準の無効化。残像の形成。

 〈アクトラントクランツ〉は機体を切り揉みさせて二射目をかわすと、羽根を一枚ごとに散らした――白い羽根がヒラと舞い降りて硬質化、その総てを緑色の機体へと向け、

「いっけぇぇぇッ!!」

 総100枚近くまで膨れた羽根の極兵装が、八方向から緑の機体へ襲いかかる。


『無駄。やめて』


 外部スピーカーからの声。キッパリ断絶するような少女の声が響き、その答えを示すように――機体は『見えないなにか』を噴出させる。

 電磁波あるいは放電のような――音がしたかと思うと、黒色の波動が広がりをみせる。

 形成された斥力場は、分散攻撃を仕掛けた羽根を無効化――それこそブラックホールのように、〈アクト〉の攻撃を呑み込んだ。

「…っ、……なに!?」

 緑の機体は隙をみせないままライフルを構え、三射目の姿勢をとる。

『遅い』

 容赦なくトリガーを引く。


 〈アクト〉の脚部を貫いた極大エネルギーが夜空を駆け抜け、ふたたび宇宙空間へと吸い込まれてゆく。

 シートに伝わる振動に耐えながら、レナはうめいた。最後に大きな揺れが伝わり、モニターが茶黒く染まる――地面へ墜ちたのだろうか。痛む後頭部を指でなぞってみれば、ぬるぬるした感触がわかる。

 血だ。

 負けず、レナはキッとモニターを睨みつけた。

 回復した映像が映しだしたのは、一歩ずつ近づいてくる緑の機体である。

「あたしだって……」

 せっかく回復したのに、どうしてか画面がぼやけてきた。

 でも、いまさら回復してきたところで、あの機体にはダメージを与えられない。そればかりか、触れることすらできないのかもしれない。

「あたしだって、まだ死ねないのに……っ」

 涙が溜まってきた。

 イアルが死んだ。フィエリアも無事かわからない。キョウノミヤは連絡不能。

 それでも、死んでたまるかとレナは思う。

 周りに誰もいない世界でも。どれだけ嫌いな世界でも。

 守らなくちゃいけないと――そう思えた少年と、聖夜に出会うことができたから。

「だから……っ!」

 動け、とひたすら思う。

 最後に見えたのは――巨大なライフルの尖端が突きつけられる、その瞬間だった。


終わったんだな――レナはそう感じながら瞼を閉じた。

自分の最後の日は、とても幸せだったのかもしれない。

初めて仕事外の人間関係ができたわけだし、少しは――好きになれたのかもしれない。

自分のことも、彼のことも。

「こんな世界で」と思ったことを、レナは少し後悔していた。

普通の学校に通って、普通に過ごす自分がいる世界。

普通におしゃべりして――

そんな世界が、あればよかったのに。

そうだ、映画を観る約束してるんだった。

また今度、いつか絶対に……。

ヤクソク、守れなくてごめんね。

さよなら――――






「―――――――――っ、ざっけんじゃねぇッ!!」

そこには――誰も触れることすらできないと思っていた緑の機体へ特攻する、〈エーラント〉の姿があった。

……味方なの?

思うかたわら、レナの意識は闇の中へ引きずりこまれてゆく。



「あとがき」

今回の話は、実は一日で書き上げました。なんだか〆寸前の作家みたいですね。……まぁそんなに売れっ子じゃないんですけど。

ですけどっ!

……さて、とうとう二十話みたいですね。もう過ぎちゃってるのかなぁ?

まぁとにかくここまでぶっ通しで読んで下さっている方、(17人くらい。画面の前の貴方も含みます)本当に感謝です。

そろそろシステムEの内容に触れると思いますので、もうしばらくお付き合いくださいませ。

んで、お決まりの予告。


予告。

あの緑色の機体だけは危険だ――――そう感じたミオは偶然ひろった〈エーラント〉に搭乗し、街の全パイロットへ離脱通達をする。

そんな中、レゼアの〈ヴィーア〉だけが動かない。

ミオは必死な呼び掛けを試みるが……。

次話、「ヤクソク」

物語は加速する。


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