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E  作者: いーちゃん
22/105

第二十話:茫然

part-c


 ミオは炎に呑まれる街の中で、茫然自失していた。

 シェルターに隠れていた一般市民はすでに逃げ出し、市民を擁護していた統一連合の兵士たちも、地下シェルターを見捨てたらしかった。

 だから、辺りには誰もいない。

 レンガ造りの棟が焼けていき、室内から熱されたガラスが跳ね割れてゆく。白かった雪は、生み出された炎によって灼き殺されていた。

 ミオは、やけにぬかるんだ街並みを進んでゆく。

 言葉もなく――行く先もなく。

(……どうして)

 漠然と思う。

 なぜ、こんなことになった?

 レナは統一連合の兵として、また戦場に立たなければならないだろう。

 それが彼女の望みだったのか?

 答えは出ない。さっきまで隣にいた少女は、もうここにはいないのだ。

 自分が再び戦場に立てば、彼女を殺さねばならないのか?

(……)

 いっそのこと逃げてしまおうかとも思ったが、それだけはマズい。逃げれば、今度はASEEがミオを抹消しようとするはずだ。何より――とミオはコートの中のポケットにある青い鳥のマスコットを握りしめていた。

 なにより、今はレゼアが心配だ。

 角を曲がる寸前、今度は小銃を構えたASEEの兵士が現れる。二人組の兵士は、こんな状況の街を歩く不審人物の名前を確認しようとしたが、

「……失せろよ」

 ミオの舌打ちで言葉を引っ込めると、彼らはそのまま持ち場へと消えていった。

 角を曲がってミオの目に飛び込んだのは、血と炎の惨劇と化した広場だった。少し幅の広い場所には数台のジープが停められ、同じく小銃を構えた兵士たちが、建物の中へ残らず散弾を放っている。

 おびただしいまでの死人が、広場の向こう側に散らばっていた。統一連合の軍服を纏った兵士もいれば、中には一般市民も多く混ざっている。おそらく統一連合兵によって護送途中だった市民が、兵士ごと襲われたのだろう。

 散在するジープに囲まれるように立っていたのは、

「こんなところで何をしている、ミオ・ヒスィ?」

 オーレグ・レベジンスキーだった。ロシア系のがたいの良い男で、振り向いたその表情には余裕の笑みさえ浮かんでいる。

「……問いただしたいのは俺のほうだ。こんなところで何をしている」

「わからんかね、残存勢力を掃討中なのだよ」

「……俺には一般市民が勢力だとは思わないが」

「その一般市民こそが勢力なのだ。今回、我々の艦の位置が特定された――その要因は一般人にある」

「……密告か」

「そうだ、だから排除している。第六施設島のようにはさせんよ」

 オーレグはさらに指示して、街の奥に隠れた一般市民も捜せと追加した。

 艦はどうなっている――と訊こうと思ったが、どうせオーレグのやることだ、回避プログラムを埋め込んでおいたに違いない。

「君は知らないだろう? こんな戦争の原因――第六施設島は統一連合とASEEのいさかいに巻き込まれたが、死者はゼロだった。なぜかわかるかね?」

「……」

「誰だかわからないが、権限を持つ者が、『誰も殺さないよう』我々に指示したのだ。命令違反を回避するため指令には従ったが――まったく面倒なことをしてくれたものだ」

「……ああ。本当だな、それは。まったく嫌になる」

 ミオは前髪を掻いた。口を開いて、

「……レゼアはどうした」

「出撃したよ、勝手に」

「勝手に? ……呼び戻したのはお前だろ」

 オーレグが怪訝な、しかし険しい表情をみせた。ミオは最初、この男がとぼけているのだと思っていた――が、どうやら本当に知らないらしい。

 ミオは踵を返して、広場と反対へ向かった。少し歩けば、銃弾の音が風に掠れてゆくのがわかる。

(……レゼアは勝手に出撃した?)

 しかし、連絡は端末で受けていたはずだったし、それはミオも確認している。

 聞き間違いだったんだろう、と開き直って、ミオはさらにストリートを進んだ。突然、空気を切り裂く音が鳴った。戦闘機などの音ではない、もっと――

 ミオは正体に気がつき、慌てて見上げた夜空をふたつの物体が滑空してゆく。

 建物すれすれを飛び、直撃。低姿勢を取るも間に合わず、爆風をまともに受けたミオの身体がまきあげられ――地面へ二転三転、近くのコンクリート壁に激突して停止する。

(……巡航ミサイル!? いったいドコが――)

 考える間もなく、安全な遮蔽物の影へ隠れようとする。

 そうして、ミオが見たのは――ASEEの量産機、〈ヴィーア〉。

 味方かと思った瞬間、それが絶望に変わり果てる。オーレグの指示がミオの頭に響いた。


 彼らは、一般市民ごと掃討中なのだ。


 頭部がこちらへ向く。機関咆が唸りをあげ――

(――やられ、る……?)

 思った瞬間。何かが、飛ぶ音がした。

 エンジン音でも、モーター音でもない。空間ごと叩きわったような、音。

 ミオが目をひらいたとき、

 〈ヴィーア〉は音もなく、叫びもなく、ただ、上から真っ二つにされていた。

 ――代わりに。

 ミオを護るように立っていたのは――

 大きなビーム刃を降り降ろした――

 屹然と立つ、緑色の機体だった。

(な、なんだ……!? あの機体……俺を護った、のか?)

 爆発を聞きつけた〈ヴィーア〉が二機、角から現れる。全高20メートルそこそこだから、大きな建物があればすっぽり隠れてしまうのだ。

 ミオは慌てて緑の機体へ向き直り、

「お、おいお前……っ!?」


『下がって』


冷たい一蹴。

 次の瞬間、そこにはすでに――緑色の機体はいなかった。

 代わりに、置いていかれるようにして爆散する二機。

 ミオは何が起こったのか理解できず、ただ、ひたすらその場に立ち尽くしていた。


読了ありがとうございました。

んでもって予告。

予告。

対峙するフィエリアとレゼア。レゼアは弾切れを示した黒い〈ヴィーア〉の真の力を解放する。

解き放たれた力とは……?

そして向き合う緑色の機体を前に、イアルはレゼアとの間に「協定」を結ぼうとするが……?

次話、第二十一話「ガーディアン・エンジェル」

遅れないよう努力します。うん……たぶん大丈夫。かもよ?

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