第十九話:光の、速度
part-a
キョウノミヤはいつもの通り、十二台のモニターに囲まれた部屋でコーヒーをすすっていた。
(……)
無言のまま、考える。
ウラにまわした諜報員の話では、中継基地――陽電子砲を使ったあの場所で取り逃したあの艦は、このロシュランテに入港したらしい。『らしい』という言葉を使えば不確定性が強くなるが、しかしこれは確実な情報なのである。
カップを唇につけると、小さな警戒音が鳴った。
見ると、街の中に光点がひとつ。〈アクトラントクランツ〉である。レナには悪い気もするが、ASEEが機体を出撃させた以上、彼女はそれに対抗しうる重要な「戦力」なのだ。
あらかじめ用意していたメッセージを〈アクト〉へ送る。しばらくの間、彼女は待機である。
続いてもう一度、警戒音が鳴った。計器が「原因不明」を指示、モニターが明滅する。
一度みて――キョウノミヤはそれを疑問には思わなかった。ただ、あらたな熱源が探知されただけだと思っていた。
その位置から、熱源が飛ぶまでは。
(……っ!? どういうこと?)
機器のエラー? 見間違い?
疑りながら、計器のひとつに指示を飛ばす。内容は、飛んだ距離を解析可能な限りの時間で分割する――つまり、熱源の移動速度を探知させるのである。
モニターに映された答えは、
2.9980×10~5 km/s
つまり、光の速度。
あぁ――と内心で頷き、キョウノミヤは総てを理解した。否、キョウノミヤだから理解できたのかもしれないが。
(空間転移……)
驚愕するはずの表情は、どうしてか笑みに歪んでいた。
part-b
レゼア・レクラムは黒い〈ヴィーア〉で街の中心部へ降り立った。さいわいにして雪はやんだらしく、視界は有効――距離にして百メートル先にいる敵も、しっかり視認できた。
合見えたのは、腰の背面に大太刀を負っている統一連合機の〈エーラント〉。
レゼアは回線を開いて、
「フィエリアとかいったな、おまえ。わたしの行く手を阻む気か?」
『どうやらそのようですね。なぜか気が合う』
「後悔するなよ。今のわたしは、負ける気がしないのでな……!」
レゼアの〈ヴィーア〉は半歩さがって、背面からミサイルポッドを噴出させる――同時にスラスター全開、上空へ飛び上がった。腰部からエネルギーライフルを引き抜き、続けて高速の連続射撃。
〈エーラント〉は背面から、ゆらと大太刀を引き抜いた。刃の両面には小さな孔が幾つも穿たれており、そこから溢れ出したエネルギーを刃に纏わせる。
下から、一撃を振るった。
着弾したかに見えたミサイル群が、綺麗に斬り落とされて無効化される。後随するビームの矢は左腕シールドで防御――
素早い動きだ。所作の切り返しには、隙のカケラも見られない。
ひとりごちて、
「なるほど。タダでは通してくれないらしい」
『射撃機体には、負けませんから。前回は名前を訊きそびれた――斬る伏せる前に訊いておく』
声が低くなる。どうやらお遊びはおしまい、と言いたいようである。
レゼアは少し迷ったあと、敵機を正面から見据えてやった。
「ASEE所属、レゼア・レクラム。この街と……運命を共にする女だ。
ただ、ひとつ気に入らないから訂正するが――ただの射撃仕様と思うなよ……!」
ミサイルポッドの第一層を切り捨て、第二層が噴出される――射撃の群波は上空へ舞い上がり――
同時に〈エーラント〉の大太刀が、纏ったエネルギーを光の弧として、
『フィエリア・エルダ・ヴェルツェヘルム――参る』
さて、今回もだらけましたね。例によって作者が。
次回は本気で作ります。
予告
レナがいなくなり、意気消沈ながら街を行くミオ。
その瞳に映るのは、炎に呑まれる凄惨な街……
〈オルウェントクランツ〉が無いいま、自分はどうすればいい?
矢先に出会う緑色の機体。強すぎる〈イーサー・ヴァルチャ〉は、ミオの指針になりうるのか?
次話、第二十話「茫然」
すべての読者様へ、またまた感謝を。