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E  作者: いーちゃん
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第十六話:エックス・デイズ(前編)

~これまでの流れ~

 世界をふたつに分割する両陣営――ASEEと統一連合は緊迫状態にあった。そんななか、ひとつの中立地帯「第六施設島」で起こった人型兵器強奪事件。統一連合の所有する中立施設を、ASEEが襲撃したのである。これによって両者の緊張は解かれ、世界を巻き込んだ戦争へともつれ込む……。

 これまでに開発されたすべての兵器を遥かに凌ぐ性能を誇る2機……ASEEによって強奪された漆黒の機体<オルウェントクランツ>を、残された深紅の機体<アクトラントクランツ>が追う。

 戦う意味を問いかけながら、ふたりの少年少女はしかし武器を握る。


 艦主砲によって敵基地を掃討する作戦――その一撃を阻もうとした<オルウェントクランツ>は、盾を前面に押し出して――――

「あの場所には……おまえが守ろうとしたものと、同じ想いがあるんだぞッ!!」


 それから二週間後、彼らはクリスマスを迎える。

 ミオ・ヒスィは白い吐息で両手をこすり、噴水前で時間を持て余していた……

「ねぇ、あたしとデートしない? 映画一本のオゴリつき」

 そこで振り返った少女は――。

 街の中心部を通り過ぎて、レゼアとミオは再び田舎道に差し掛かっていた。あたりには一階立ての小屋みたいな住居が並び、その屋根にも白い雪が積もっている。

 辺りはまともに整備されていなかった。道路は舗装されてもいないし、20メートル間隔の街灯がぽつぽつあるだけで、ほかにはなにもない。

「……どこまで連れていくつもりだ?」

「もうすぐだ」

 何度目の返答だろうと、ミオは聞かれぬように嘆息した。

 それに構わず、レゼアはミオの手をグイグイ引っ張っていく。

 レゼアが急に立ち止まり、ミオはその背中と衝突――鼻をぶつけて涙目になる。

「ここだ。ここがわたしの通っていた学校――と、なぜ泣いている?」

「……いや、鼻をぶつけてな」

「そうか、よく注意しろ。この辺りは電柱が多いからな」

 いや、お前のせいだお前の。

 はぁと溜め息して、ミオは頭を抱える。将来が不安だ。

 まぁいいさ――とレゼアは古びた校舎へ向き直った。敷地内は立ち入り禁止のロープが巡らせてあったが、警備員は常駐していないらしく、建物自体もまた使われていないようである。遠くの街灯の光が反射して、何枚かの窓ガラスが割られているのが、かろうじて判別できた。ほかの部分はどうなっているのかわからないが、あまり良好な状態ではなさそうだ。

「ここがわたしの通っていた学校だ――ASEEに入軍する前の話だが、な。7歳から15歳まで」

「……」

「わたしは風紀委員だった――悪いヤツが許せなくて、8年間ずっと。ついたあだ名が『おにばんちょう』だ」

「……鬼番長?」

「ああ。小さな時だからな、難しい字はわからなかったんだ。悪いヤツを懲らしめ、悪へ果敢に立ち向かい、公正を維持し――それはそれは正義の味方だったさ」

 レゼアが、真っ暗な地面に視線をうつ向けて言った。

 ミオは思わず苦笑した。自分で「正義の味方」と恥ずかしげもなく言えてしまう――のが、レゼアらしさなのである。

 ただ、と続けてレゼアの表情が翳る。遠くの光が、その横顔を儚く照らした。

「ただ――最近は違う。違う気がする。どんなに卑怯なことでも手をつける。『勝つためなら』『生きるためなら』、と。それがわたしの生き方なのだろうか?

 もっと別の手段があると思うのに、いつまでも戦い続けている。答は見つからないけど、な」

 ふ、とレゼアは自嘲気味に笑ってみせた。

 白くなる吐息を夜風に、ミオは無言で立つ校舎を眺めやる。

 ……レゼアは、俺と似ているのか?

 いや、そうじゃない――ミオは思考の中で否定した。

 彼女と自分は、生まれた環境も経緯も何もかもが違う。

(……だから、理解し得ることはないんだ)

 諦めに似た感情だった。誰かと分かり合おうなんて――無意味なことだと思っていたのに。

 なぜ、こうも自分は疑問を抱くのか?

 何より。

 彼女を理解してやれないことが、哀しかった。

「レゼア」

「なんだ?」振り向く。

「今の自分は、好きか?」

 彼女は顔を真っ赤にして、

「な、なんなんだお前は急に。ま、まぁ……嫌いではないが」

 そうか、とミオは小さく頷いた。

 レゼアはおとなしくなったかと思うと、冷たい空気を深呼吸して、

「でも、いいんだ。それはそれで」

 満足そうな表情で、そのカオは笑顔だった。

「今がどうであろうとも、昔の――あの時の自分は、この場所に居続ける。

 これが、現在いまのわたしを支えている理由なんだ」



 あれから、しばらく二人で散策した。

 ミオは校舎の中に入るか訊いてみたが、レゼアは首を横に振った。

 また暗い夜道で手を引かれ、両者は市街地へ戻ってきた次第である。

 装飾された大きなモミの木を眺め、街行く人を眺め、穏やかな時間を過ごした。レゼアはサンタの服でビラを配っていた喫茶店の店員へ、「チンケなプレゼントだな。子供の夢が壊れるぞ」と失言したし、トナカイを見て「うまそうだ」とも言った。

 とにかく、そうやって時間を過ごした。戦争も平和もない、ひとときを。

 ただ、それは終わるのが早かった。

 レゼアの端末に通信――連絡を受けた彼女の表情が真剣になり、はたまた曇ってゆく。

 回線を切ってからレゼアは、

「悪いな、急なヤボ用だ。まぁ仕事の一環なんだが」

「……どうした?」

「サンタのコスで艦内パーティがあるらしい。わたしにその役が廻ってな」

「……」

「……」

「……」

「……冗談だぞ?」

 真顔で言うことだけはやめてくれ。

 だいたい、よく考えればオーレグがそんなことを許すとは思えない。信じかけた自分が愚かだった。

 レゼアは落ち着き払った小声で告げる。もちろん、他人に内容が聞かれないために、だ。

「まぁ、軍務だ。できればこの街は戦場にしたくなかったのだが」

「……、っ!?」

「我々の艦の位置が特定されたらしい……統一連合はロシュランテを強襲するつもりだ」

「ま、待て……俺は、」

「〈オルウェントクランツ〉は改修中だ、お前を量産機に乗せるわけにはいかん。お前を失うのは大きな痛手だからな。軍にも、当然、わたしにも」

 水際で食い止めるつもりだ、とレゼアは言った。

 いくら統一連合と言えど、無害な市民までは攻撃しないだろう。主要な戦力だけ潰す気だ。

 レゼアは、ふ、と笑んで、

「じゃ、行ってくるぞ。この街だけは、何を失っても護るんだ」

 それから最後に、とつけ足して、レゼアはコートのポケットを探った。

 取り出したのは、蒼い鳥の小さなフィギュアである。親指サイズあるかないかだろう。

「……俺に?」怪訝そうな表情で、ミオは蒼い鳥とレゼアの顔を見比べる。

「そうだ。戦争が終わったら、もう一度この街で、お前と幸せになりたい。なんだか死ぬ前のセリフみたいだけどな」

「……不吉なこと言うな」

「わかってる。あと、足はもう大丈夫みたいだぞ」

 ミオが脚を動かすと、踏んだ地面の感覚がしっくりくる。どうやら慣れたらしい。

「行ってくる」

 レゼアはミオの目の前で背伸びして――

 それからは、何もかもが一瞬のように思えた。

 暖かい吐息が唇に触れ、それから柔らかい感触も伝わる。

「……ん、っ――」

 逃げようとしたミオの身体を、レゼアが強く引き寄せた。

 幾秒つづいたか――さだかではなかったが、キスの時間は、長いものではなかっただろう。

 レゼアは唇を離し、少し赤く染まった顔ではにかんで――振り返らずに、その場をあとにした。

「……」

 ……どう、反応すればよかったのだろう?

 ミオはひたすらに立ち尽くしていた。街の流れがスローに見える。

 俺も行く、と答えれば良かったのか?

 いや――違う。レゼアは自分が来ることを望んでいなかった。

 彼女の希望を踏み倒してまで出撃する権利は、自分に与えられていない。

 水際で食い止められるなら、この市街地への被害はないだろう。たとえ衝突があったとしても、「近くで戦闘があった」程度で伝わるに違いない。

 ミオは途方に暮れたまま、ストリートの中心にある噴水の縁へ腰かけた。池の表面にはすでに氷が張っている。

(〈オルウェントクランツ〉がなければ、俺は何も……)

 何もできないのか。

 ミオの表情が曇った。

「ねぇ、そこの人」

 声の方向――サークル状になった縁の反対側を振り返る。

 振り返って――驚愕した。

 そこには――

 コートの身を包んだ――

 赤い髪の少女が――チケット二枚をヒラつかせていた。

「今からあたしとデートしない? 映画一本のオゴリつき」



ありがとうございました。

近々、詳細設定に追加すると思います。

書くことがなさそうなので、今回は作者がよく聞く曲の紹介です。

作業のBGMはBUMP OF CHICKEN で「ラフ・メイカー」。

いい曲です。



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