表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
E  作者: いーちゃん
14/105

第十二話:同じ想い

(……なんだ?)


 様子がおかしいことに気がついて、ミオは疑問を覚えた。

 敵の戦線が下がってゆく。前方に広がっていた〈エーラント〉――統一連合機――が、徐々に後退していくのだ。

 光学迷彩化された母艦は、すでに中継基地の中である。敵の集中狙いをくぐり抜け、今ごろは安全に守られているだろう。

 ――オーレグの奴……

 チッ、とミオは舌打った。

 面白くないのは事実である――が、だからといって味方母艦の妨害をするわけにはいかない。

 ミオは滞空しつつ距離を保とうとしていた〈エーラント〉へライフルの先を向け、

 照準。

 射出された黒いビームが敵機の左脚と右肩をもぎ取り、体勢が崩れたところを別の〈エーラント〉がキャッチしようとする。

 ――が、仲間を助けようとした〈エーラント〉にさえ、ミオは容赦しなかった。

 無惨にも四肢とバランスを奪われた〈エーラント〉二機が、海中に没していく。

(……ヤツらの狙いは?)

 急速接近の警告。

 上だ。

「ッ!」

 〈オルウェントクランツ〉は上空から突っ込んできた赤い機体の一撃を回避、すぐさま反転してライフルをビーム刃へ変形させる。

 赤い機体――〈アクトラントクランツ〉は慣性のまま下へいき、ただちにサーベルを引き抜いて再び突進。

『アンタってのはぁ……ッ!』

 光刃が正面からぶつかり、火花を散らす。しかし〈アクト〉はそれだけに飽き足らず、ニ連、三連の剣戟を振り降ろした。

 〈オルウェント〉はサーベルを受け止めて、

「〈アクト〉のパイロット……お前たちの狙いはっ!?」

『言わないわよ! アンタに教えて――』

 〈アクト〉が接近状態から身を引いた。

 背面にある鳥の骨格が開いてゆく。

 関節部に穿たれた小さな孔から――

 真っ白なエネルギーの塊が――

『たまるかぁっ!!』

 吹き荒れた。

 全長20メートル――機体とほぼ変わらぬ大きさの、純白の翼が羽根ひらく。

 ヴァーミリオン、展開。

(――、)

 呼吸さえ吐かぬ間。

 残像をともにした赤い機体が、〈オルウェントクランツ〉の真後ろにいた。

 サーベルに手をかけた状態で、である。

(――な)に、と言うよりはやく、弾かれたように〈オルウェントクランツ〉が反応、宙返りするようにして横薙ぎの斬撃を避ける。

 瞬きをしたら死ぬかもしれない、とミオは本気でそう思った。

 全ての神経速度など間に合わない。ギリギリまで強化された自分だから、回避できるのか。

 残像が襲う。

 急激なGが襲う。

 コントロールを失う。

 終わった、と思った。

 次の瞬間に見えたのは――

 目の前にある、ビームの刃だった。

 殺られる、と思った矢先、〈アクトラントクランツ〉は興味を失ったように光刃を引いて、その場を離れていった。

(なにが――?)

 わからないまま、〈オルウェントクランツ〉は落下していく。

 通信に怒声が割り込んだ。

『ミオ! 大量の熱量、陽電子砲だっ!! 今すぐそこから退けッ!!』

 レゼアの声だ。慌ててているな、と、ミオはぼんやり思っていた。

『〈フィリテ・リエラ〉の艦首砲だ、熱量だけ隠されて気付けなかったんだ!

 中継基地ごと撃たれるぞ!?』

「……ッ、」

 声が枯れていた。

 〈オルウェントクランツ〉は射線上にある。撃たれれば自分も呑み込まれて、死ぬ。

 ……別にどうでもいいだろと、思考は半ば諦めかけていた。

 死ぬのなんて怖くない。

 そう思った。

 こういうときに、どう言えばいい?

 サヨナラ、なのか?

 とにかく、怖くないハズだ。

 上下逆転した視界に映ったのは、此方を見下す真紅の機体だった。ギリギリ射線から離れている。

『ざんねんでしたぁ』

 スピーカーが、そう言った。バカにした口調だった。

(……別に怖くないさ。自分が死ぬことなんて)

 スロットルを絞る。

 ヴン、と微かな駆動音。

(……犠牲を払ってまで生きていくほうが、俺には耐えられない)

 漆黒の機体が、体勢を元に戻す。

 睨む先は、充填された砲。

 ライフルを、盾に変形させる。

 ミオは苦渋を吐き捨てるかのように、

「っ、ざっけんな……ッ、あの中継基地には……」

 最期に、真紅の機体へ言ってやる。

 お前が気づかなかった、ひとつのことを。

「あの場所には――

 お前が護ろうとしたものと、同じ『想い』があるんだぞ!!」


 灼熱の光が放たれた。

 漆黒の機体(オルウェントクランツ)は盾を前面に押し出して、光条を一斉に受け止める。

 装甲表面が気泡となって死んでゆく。

 もう何も見えない。真っ白な闇だ。

 死ぬのか?

 ただひとつ心残りなのは。

 自分があの少女――モノレールの中で両手に荷物をぶらさげた、ごく普通の少女を壊してしまったことだった。









 瞬間、誰もが目にした。

 空間が叫び声をあげて、現れた真っ黒な球体が口をあけ――光条が吸い込まれていく光景を。



ありがとうございました。


一段落ですね。ふぅ。

これから第2部的なものになるので、変わらぬご支援をお願いいたしますー。

ここまで、感想いただければ幸いです。

では。


予告

ミオは沈んでゆく。夕闇の中へ、無意識の海へ。

一方のレナも、強敵を失ったことで複雑な思いを味わう。

少女は再び、自分の戦う理由を、自分の生を支えている理由を失った……

次話、第十三話「白紙の夢、心のナイフ」

二話同時です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ