さいごのピース
遅くなってごめぬ…活動報告書きました。
お詫びもろもろはそっちでorz
誰もいない廊下を全力疾走して、レゼアは艦長室へと飛び込んだ。ブリーフィングルームと一体化したその場所では、二人の少女を中心としたオペレータ達が敵の解析を急いでいる。
「なっ……!」
たったいま現れた大型機動兵器――東京の上空へ出現したそれを映したモニターを見て、レゼアは思わず凍りついた。
それは、大型というにはあまりにもデカすぎる。
横に平べったい形の要塞が、そのまま空中へ浮上しているような形である。両肩――という表現が正しいのかはわからないが、その部分には三角形をした強固な四つの殻があり、バランサーの役割をしているようだ。
全長三百メートルを超えるそれはビーム孔を両目として、地面から生えた高層ビル群を見下ろしている。
「敵情報、出ました!」
フェムトが最後の鍵を弾いて解析を終え、レゼアは値の出力されたモニターへかじりついた。
「動力源は核エンジンが四基…さらに三発の核ミサイルを搭載か。まったく素晴らしいな」
「エンジンは左右バランサーに位置してる。破壊するには慎重な作業が必要かも」
「だが、かといって核を撃たれたら元も子もない」
「……ですね。あんなの使われたら、みんな死んじゃいます」
トモカが鍵盤を叩く指を止めて、ひと言だけ付け加えた。
そうだ、そんなこと許されるハズがない。いや、許さない。
「全員、聞こえるか。これが最後の戦いだ――世界を守るだとか、平和を守るだとか、そんな大仰な綺麗事は諸君には期待しない」
世界なんか守らなくたっていい――
全員が自分の身を護って、ついでに誰か一人くらい守ってやれば、世界のひとつやふたつ護れるだろう。実際の世界なんてそんなモンなのだから。
だけど、それだけじゃ終わらせない。此処に居るメンバーの想いと決意は、その程度ではないのだから。
「みんな、此処まで来てくれてありがとう。――死ぬなよ」
レゼアはその言葉だけ口にして回線を切った。
「艦長、医務室から通電」
「なに? ……なんだと!?」
「はぁ!? ミオがいない…って、どういう意味よっ!」
艦長室から回されてきた通信を受けて、レナは驚きの声を上げた。さっきまで医務室で眠っていたはずのミオが、いつの間にか姿をくらましていたようだ――格納庫へ行ったのではないかという話だったが、残念ながらそれらしい影は見当たらない。
あぁもう、と恒例の如く髪を掻きむしってハッチ開放/レナはキャットウォークへ飛び出した。見かねたイアルが、
「お、おいどうすんだよレナ!」
「どーもこーも、探しに行くしかないでしょーがっ!」
「敵だっているんだぜ!? 正気かよ!」
「わかってる、五分で戻るから!」
言って、レナは風のように走り出した――急がなければ、状況は最悪の事態を招きかねない。一つはレナが出撃しなかったことによる戦力不足、そしてもう一つは――ミオが勝手に出撃してしまうことだ。
あんな状態で外に出たら、それこそ自殺行為である。
「ちっ…アイツならやるかもね!」
ひとりごちていると、少年の背中はすぐに見つかった。誰もいない廊下の手すりに掴まって、まるで暗闇でメガネでも探すみたいな足取りは、リハビリ中の年寄りを見ているようで危なっかしい。
レナは駆け寄って、
「あんた、こんな時に何やってんの!」
「うっ、……レナか?」
「それ以外に誰がいるってのよ! ほら早く医務室に戻――」
ぐっ、とその右手を引いた。
しかし力が強かったのか、ミオは廊下で転倒してしまった。
「あ…ごめん。痛かった?」
「大丈夫。でも、少し」
少年の呼吸は荒かった――というより、苦しそうだった。まるで百メートルを全力疾走させられたあとみたいに、である。
少年の奇妙な動きを見て、レナはそれが何かを悟った。
否、悟ってしまったのである。
ミオは手探りで近くに邪魔なものがないかを確認し、それから壁へすがりつくような姿勢で立ち上がる――まさにそれは。
「あんた…まさか、目が見えてないの?」
情けない笑みを浮かべて、少年は弱々しく頷いた。くしゃ、と歪んだ泣き笑いの笑顔は、嘘が見透かされた子供のようなそれである。
紅い瞳の少年が言っていた
「ミオは大切なものを失った」
とは、まさにこのことだったのだ。
「レナ…俺を〈ゼロフレーム〉のところまで案内してくれ」
「む、無理に決まってるでしょそんなの! 死ぬ気っ!?」
「たとえ目が見えなくても…俺には俺しか見えないものがある。やらなきゃならないんだ、そんな理由で……逃げてられない」
ミオは諭すような口調で言った――まるで修道士か神父みたいな、そんな口調だ。
拳は力なく握られている。額には脂汗が浮かぶ。
病人のくせに。
レーを、この世界の破壊を目論む少年を倒せるのは、おそらくミオと〈ゼロフレーム〉しか存在しない。
……どうするべきなの?
自問した末、レナはひとつの解答を得た。
「……わかったわよ」
投げやりに答えた表情は、後ろめたさに陰影を落とす。
その答えは、少年を欺くことに他ならなかった――
緊急アラート/警戒レベルS[非常に危険]が艦内へ一斉に鳴り響き、開放されたハッチからは次々と量産機たちが飛び出してゆく――先陣をきって指揮しているのはイアルとフィエリアだ。
上空に現れた大型機動兵器に畏怖する仲間を叱咤し、東京の街を分断するように戦力を散らせてゆくつもりである。
「いーか、てめぇらッ! ヤツに核を撃たせたら全て終わりだ、ありったけ撃って撃って撃ちまくれ!」
集中砲火。発射されたミサイルや機銃、閃光弾が大型機の装甲へ吸い込まれてゆく――しかし、それよりも早い動きがあった。
ビーム孔から撃ち出された光条が、迫っていた射撃の雨を呑み込んだのである。
「な…、なんだよコイツはっ!」
イアルは吐き捨てた。
四十ちかい機体がタイミングを合わせて攻撃しても、撃ち落とされてしまっては意味がない。灰白色の〈ツァイテリオン〉は砲身を腰溜めに構え、超長射程砲を弾切れになるまで放った。
装甲貫通弾が放物線の軌道を描いて飛んでゆき、敵の甲殻を狙って落ちてゆく――だが、
「おいおい、効いてねぇのかよっ!?」
ダメージになっていない。
暗褐色の鋼鉄は表面に傷を受けただけで、損傷らしい損傷をしていない――大型機は平然と、まるでアリに噛まれたゾウのように佇んでいる。
「イアル…」
「わかってる。あんなデカブツごときに世界を終わらせられちゃあたまんねーんだ。俺は死んでもやるぜ、何か手があるハズだ」
「…ですね。私も付き合います」
「フィエリア」
「? なんでしょう」
「これが終わったらさ、俺たち付き合おうぜ」
「ぶっ!? 何をそんな急に!」
「いや、そっちのがやり甲斐があると思ってな。これで敵が攻撃してきたら、『人の恋路を邪魔するヤツは――』とか言えるだろ?」
「危険なのでそれ以上は禁止で。そんな理由でそんなことを言われる、こっちの身にもなって欲しいものですが……」
まったくだ、と恥ずかしさと背中に痒さを覚えながら、フィエリアはそれを紛らわした。
「一個小隊を借ります」
せめて今は、時間稼ぎだけでも。
レナが早く戻ってくることを、二人は強く祈っていた。
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後ろから突き押されて、ミオの身体は柔らかいものの上へと転がった。失われた視界の代わりに、手探りで状況を確かめる――ベッドの上だ。
「レナ?」
「……騙してごめん。でも今のアンタは、出撃ても役に立たないから」
冷たい声で、しかしバツの悪そうな声で少女は応じた。
身体がどちらを向いているのかわからない。
上なのか。それとも下なのか。
脚はどちらを向いている? 立てるだろうか?
目が見えなくなったということが、これほどまでにうっとうしいとは――
「……じゃあね」
「待てっ! 俺を置いて」いくなよ、という言葉は扉に遮られる。
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「なんだ? 急に呼び出したりして」
ブリーフィングルームは、フェムトの独断場となっていた――部屋の中央に陣取って鍵盤を叩いている小柄な少女だ。最先端の機材を何台にもわたってケーブルで連結させ、それでも追いつかない処理を自分の手で補強しているらしい。クラナは部屋の隅で立ったまま、言いつけられた雑用をてきぱきとこなしているみたいである。
小柄な少女は軽く会釈して、猛烈な速度で鍵を叩いてゆく――
「なにやってんの?」
「黙って」
「……はい」
レナはがっくりとうなだれた。集中しているときの彼女はいつもそんな感じだ――とわかっているのに、息抜き代わりになるかと思って話し掛けるも玉砕、というのが毎回の流れである。
後ろからついてきたトモカは機材を見回してから「凄い…」と感嘆を漏らすと、
「これ、なにやってるんですか?」
少女に向かって尋ねた。いま訊いたばかりでしょうが……バカなのかコイツは。
と思っていると、フェムトは鍵を叩くのをやめて栗毛の少女を一瞥した。相変わらずタカのように鋭い眼だ。
「…フェムト」
少女は不意に切り出した。
自分から名乗るなんて珍しいなと思いつつ、レナは余計な口出しをやめておいた。トモカは唇の下へ人差し指を宛て、アホっぽい表情をつくって思案。
「フェムちー、って呼べばいいですか」
「……うん。疑問はあるけどそれでいい」
「あ、じゃあ私のことはトモチーでいいですから。イズミ・トモカなので『カ』を取って『チー』を付けてくれれば…って、私の言ってる意味がわかりますか」
「……だいたいわかる」
「えぇぇっ!? ホントですか、この難解さが分かるんですか!」
「そんなに難しくないと思う……」
「だって名前から一部を取って新しいものをくっつけるなんて…これはコペルニクス的転回うわ何をするんですかレナさんやめ――」
「はいはいバカは少し黙ろうね」
後ろから羽交い締めにしたトモカを部屋の隅に置いていると、扉から二人、見慣れた姿が入ってきた。両人ともにパイロットスーツという格好で、手にはバイザー付きのヘルメットをブラつかせている。艦上で待機していたフィエリアとイアルだ。
「うぉ、なんか新しい人が来ました。緊張します」
「……アンタが新しいんでしょーが」
フィエリアは部屋の様子を見回して、隅っこの少女に気がついた。歩み寄って、
「初めまして、フィエリア・エルダ・ヴェルツェヘルムです。名前が長いので、最初の五文字だけ覚えていただけたらと思います」
「最初の五文字…? つまり初めましてのハジメマシさんですか」
「…いや、あのそちらではなく――」
「イヤ・アノソさんですか!? もうワケがわからないですっ!」
……ワケわかんねーのはお前の方だ。
こんなヤツに振り回されていたのかと思うと、ミオは医務室でもう少し休んでいるべきだな――と、レナは呆れながらに思った。
次にイアルが自己紹介/軽い握手を交わしてメンバーは本題に入る。さすがのトモカも事の重大さがわかったようで、ようやく静かになった。
フェムトが切り出した。
部屋の中央にあるプロジェクタが3Dの映像――作りかけの状態ではあるものの、それはASEE本部の地下を巧妙に描いている――を映した。
「……さっきからずっと、地下での敵の行動を探ってたの。コレは地下2000メートル以深の映像。何も変わったところはないように見える」
だけど、とフェムトは言葉を継ぎ足して、映像を切り替えた――まるで照明でも当てたみたいに、空間が青/緑/黄/赤に色分けされてゆく。|赤外線センサー(超長波による映像解析)によるそれは、
「地下2867メートルにある一点を中心にして、膨大な熱量が観測されてる。サイズはおよそ29.6×10の2乗TJだけど、信頼性に欠ける。もっと高い可能性があるわ」
「……つまり?」
フェムトによる説明がイマイチよくわからなくて、レナは手を上げて質問した。正直いって、レナは細かい数字の扱いが苦手である――もちろんやれば理解できるのだが、考えるのがめんどくさくなってしまうのだ。小柄な少女はチラと一瞥しただけで、今度はバカにするようなことは言わなかった。冗談でも使うべき場所か否かをわきまえているみたいである。わかってるじゃないか。
「核兵器、といえば誰にでもわかるハズ」
「――」
フェムトは押し殺した声で言った。
ゾッとした。
幽霊の冷たい舌で背中を舐められたみたいに、その場にいた全員が凍りついた。
核。
たった一文字の禁句にどれだけの衝撃が込もっていることか、それは想像の程度を上回っているとしか言い様がない。
……いいのか?
どうしようもない焦燥が鳩尾から込み上がってくるのをレナはハッキリと感じることが出来た。
自分たちは――いや人類は、何かトンデモないことに踏み込んでしまっているのではないのか。自らの身をも滅ぼす禁断の果実を手にしているような。
フェムトは周囲を睨みつけるような視線を振り撒いて、淡々とした口調で続けた。
「開発初期型の核兵器の熱量は、およそ100TJだと言われてる。技術が進歩した現在の核が仮に260TJだとして、この地下に眠っているのは熱量から逆算してちょうど7発くらい」
「マジ、なの? それってどれくらい――」
「核兵器のエネルギーは、空気密度ρ、爆発経過時間Δt、爆発半径RとすればρにRの5乗をかけたものをΔtの2乗で割れば近似値が――」
……なに言ってんのかサッパリわかんねえ。
レナが頭を抱える横で、フェムトは鍵盤を叩いていく。どうやら核兵器によって被害を受ける面積を求めているようで、少女は数秒で組み立てたプログラムへ値を代入させようと、
「一発あたりグリーンランド一個ぶん、くらいじゃないですか?」
急に口を開いたのはトモカだった――まるでリンゴを数える子供みたいに指を折って、宙を見つめたままぼんやりと言葉を発した。
フェムトの指が止まる。
「…当たってる」
ということは。
海洋に浮かんだ大陸部分/主要とされる都市に核を撃ち込めば、世界はそれだけで確実に終焉へと向かってしまう。
レーという少年がそれを使うかどうかはわからないが、現にそれだけの力がこの地下に眠っているのだ。信じられないことに。
「止めるにはどうすりゃいいんだ? 爆発なんかさせたら、オレたちこと吹っ飛ぶぜ」
「地下には必ず管制室がある。そこからコードを書き換えるか、もしくは管制室ごと破壊して、二度と発射できないようにするかの」
――そんなものはないよ。
声は突然、ノイズとともに降り注いだ。
詠うような少年の皮肉めいた声は、しかし次には3D映像をも乗っ取り、それを呆気なく崩壊させていった。
「…ハッキングされてる」
フェムトが呟いた。それと同時に、すべての指が鍵盤の上を跳ねてゆく。侵入されている被害を最小限に喰い止めるため、〈フィリテ・リエラ〉艦内サーバーへ防御を施しているようだ。噛みしめた奥歯から、くっ、と苦悶。
それを見かねたトモカが反対側の席へ飛び込み、猛烈な勢いでキーを叩き始める。ここは二人に任せておくべきだろう。
「レー……管制室が無い、と抜かしたな。何のつもりだ」
レゼアが映像を睨みつけ、忌々しげに/憎悪を含んだ声で吐き捨てる。
紅い瞳の少年――勝ち誇ったみたく愉悦に浸ったその表情が、回線を通じてメインモニタへ映し出された。他の画面が砂嵐に呑まれたのを見ると、奇しくもフェムトの防御は間に合わなかったようである。
『君たちが狙っている管制室は、この〈ラグナロク〉に統合されてるのさ。だから、地下にはそんなものはないんだよ……残念だったね』
「…なるほど。つまり、お前はその中に居さえすれば、いつでも世界を滅ぼせるワケか。いい御身分じゃないか」
『そういうこと。ところで、ミオはどうしているんだい?』
「お前には関係ないと思うが?」
レゼアは苛立ちを募らせた声で応じた。
唯一〈ラグナロク〉に勝てる可能性を持つ機体――〈ゼロフレーム〉を扱うことのできるミオは意識不明の昏睡状態が続き、今なお医務室で眠っている。
正直、マズい。
少年は頬杖をついてみせ、
『彼もバカだねぇ。自分の残りが短いのも知っていて、それでも主に逆らうなんてさ。愚かにも程があるよ』
「……」
『現状のまま世界を存続させても無駄さ。世界の中心に留まるには、人間という生物はあまりにも愚かすぎる――強烈な革新が必要なんだよ。でなければ、ヒトはまた愚行と過ちを繰り返す』
最初は人を支えるために造られた機械が、今度はいつの間にか空を飛び、武器を持ち――主を殺してしまうような。
我々は、そんな悲しい世界で生きていくしかないのだろうか?
漠然と思って、レゼアは胸の内に黒い影が余切るのを感じた。
こんな悲しい世界なら、いっそ失くなってしまえばいい――
誰しも思ったことがあるハズだ。
この世界はあまりにも憎いと――。
この世界はあまりにも悲しいと――。
ほくそ笑んで、少年は告げる。
『ミオは大切なものを失ったみたいだよ』
「……なんだと?」
『さぁ、決戦を始めようじゃないか。逢えるのを楽しみにしているよ』
「待っ…答えろ!」
レゼアの追撃やむなく、少年は回線を遮断させた。メインモニタからは映像が消え、トモカとフェムトが作ったプログラムが自動展開/艦内の機能を復旧させてゆく。
レナは訊ねた。
「ミオが失ったものって?」
「わからん。目が覚めるまでは、何とも言えないだろうな……」
足下へ視線を落として、レゼアは考え込んだ。
全体を指揮する身分である私がこんな状態では――なんと頼りない指揮官だろう。ミオの昏睡状態が続いているという理由で、自分の心はこんなにも揺らいでしまうのか?
恋だとか愛情だとか、それに限りなく近い、だけどそれとは異なるもやもやした感じ。
「……すまん、ちょっと離れる。フェムト、頼むぞ」
医務室では、ミオはまだベッドの上へ横たわっていた。それが何処かは知らないが、きっと意識不明の海を漂っているのだろう――早く戻って来いと強く念じて、レゼアは丸椅子へ腰を落ち着けた。
目もとまで届く前髪、端整な顔立ち――それが眠ったままの状態だと、睫毛が女の子みたいに長いのが良くわかる。
「不思議なヤツだよ、お前っていうのは」
レゼアは苦笑した。
少年の右手を取り、指を絡めるようにしてぎゅっと握りしめる。手が冷たいのは心が優しい証拠と耳にしたことがあるが、そんなこと言ったら一番優しいのは死体だろう、というのが彼女の持論である。やっぱり手は暖かいのがいいに決まってる。
いつだったかミオに噛まれた腕の傷痕は、今なお大切に残っていた――あのとき閉じていた彼の心の扉を、自分が開放してあげることができたのだ。その代償と思えば、傷など屁でもない。
「お前はたしかに此処に居るんだ。私の隣に。世界の憎しみを背負おうとしたときも、誰も死なせたくないという願いも――それは誰にも気付いてもらえないことかも知れないけれど、でも、その意志は此処にある。早く戻って来い。そしたら、おかえりって…言ってやるからな」
泣きそうだ。
まったく情けないな、とレゼアは思った。一人の少年の存在を/存在する意味を証明するだけなのに、こんなにも言葉が足りないとは――。
艦長、と呼ばれる声で、レゼアは我に返った。呼び出したのはフェムトである。
「どうした? 艦長は照れるぞ」
『……くだらないこと言ってないで。地下から巨大な熱源が近づいてきてる』
「レーめ、本気で核を使う気なのか…? 迎撃態勢をとれ!」
『いえ、でも核とは違う』
「なんだって?」
『熱源の形状がわかりました。目標は――』
息を呑んだ。
レゼアは次の言葉を待ち受ける。核でなければ、地下の膨大なエネルギーは何だったのか――と思って、イヤな予感が背すじを舐めていった。
『目標は――大型機動兵器です』
自分自身がクローンだと知った少年は、ついに光までも失ってしまう…
最強の主人公・ミオを残したメンバーに、勝機はあるのだろうか?
これから最後の対決が幕を開ける!