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E  作者: いーちゃん
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第澪話:エクストラ

第ゼロ話 エクストラ

2010~

4/1:

※これは連載一周年を記念して改稿された話です。次の「孤独な、群集」と内容としては同じものですが、表現がまるっきり変わっています。

5/20:作者生存状況twitterID[alwent_qrantz]followどうぞ。

part-RENA:α


 夕方なのにもかかわらず、空には灰色の雲が立ち込めていた。

 レナ・アーウィンは左手に買い物袋をぶら下げたまま、丸い吊り革につかまっていた。二両だけから成る、街を往復する小さなモノレールの中である。乗客はそれほど多くないが、帰宅を目指す人々は疲れた表情で座席を一個おきに占めていた。レナはぼうっと突っ立ったまま、車窓の映す風景へ目を走らせた。

 進行方向にむかって右側には市街地が見える。五階建ての建物が高層ビルに感じられる街だったから、優れた産業発展は無いに等しいのだろう。反対である左側を見ると、今度は工場地のような灰色の塔や滑走路が何本も見える。無論そこにある戦闘機も然り、肉眼でも確認できた。さらに奥を眺めれば、港には巨大な艦や空母が停泊しているのを見ることができる。軍事基地だ。

 ――第六施設島。

 ここは無数にある島のうちのひとつで、どうやらこのモノレールは軍事基地と民間――あるいは戦争と日常を分断する位置に敷かれているらしかった、というのは後から知った情報である。

 レナは車両のドアの上、ちょうど網棚と同じ高さにあるモニターへ視線を向けた。映像のなかでは二人の政治家が向き合っていて、だぶついた顎を動かしながら己の主張をぶつけている。音声なしの字幕を読んで、レナは意地悪く鼻を鳴らした。

 ASEEと統一連合軍――世界を二分する勢力が、これから持ちつ持たれつの膠着状態を送るのか、それとも戦争状態に突入するかという話題だ。誰もがわかっていることなのに……と呆れたまま首を横に振って、レナは隣の吊り革へ手を伸ばした。

 ごとん、と車両が減速するのはほとんど同時だった。レナは足元にあるもうひとつの荷物を押さえつけて、体重を慣性に任せる。その脇をすり抜けて何人かが立ち上がり、ドアの近くへ並びはじめた。駅が近いのである。それに倣って、レナは足元にあった買い物袋をむんずと掴むと、流れに身を投じた。

「……ん?」

 開く方向とは反対側のドアに寄りかかる少年を見咎めて、レナは首をかしげた。東洋系の顔立ちをした少年で、髪は黒と紺を混ぜたような色。前髪だけが長く、目元から上の表情を覆い隠しているようだ。細身の少年はポケットに手を突っ込んだまま、混雑の方向を眺めている。

「あっ、」

 レナはその後ろに気がついて、小さく驚きの声をあげた。少年が寄りかかっていた扉には故障を示す札のようなものが貼られていて、拳大の隙間が空いていたのである。彼はわざとその部分に背中を預けていたのだ。

 レナは一歩だけ踏み出して、

「ねぇ君、そこにいたら危ないよ。走ってるときに開いたらどうすんの?」

 ツンとした口調になってしまったが、言葉は取り返しのつかないものになっていた。

 少年はしばらく無言を作ったあと、

「なぁ、おまえ」

 低く押し殺した声は、この世界でレナと少年にしか聞こえないようだった。

「誰か俺を……誰か自分を殺してくれって、そう思ったことはあるか?」

 列車はホームへ滑り込んでいき、しばらくして停車した。混雑は扉から降りていき、駅の階段へ吸い込まれるように消えていく。

「……何でもない、気にするな。どのみち俺は、この世界に殺される」彼は前髪を掻きむしった。

 レナは空っぽになった車両に立ち尽くして、少年の背中を目で追っていた。



part-RENA:β


 夕方なのにもかかわらず、空には灰色の雲が立ち込めていた。

 レナ・アーウィンは左手に買い物袋をぶら下げたまま、丸い吊り革につかまっていた。二両だけから成る、街を往復する小さなモノレールの中である。乗客はそれほど多くないが、帰宅を目指す人々は疲れた表情で座席を一個おきに占めていた。レナはぼうっと突っ立ったまま、車窓の映す風景へ目を走らせた。

 進行方向にむかって右側には市街地が見える。五階建ての建物が高層ビルに感じられる街だったから、優れた産業発展は無いに等しいのだろう。反対である左側を見ると、今度は工場地のような灰色の塔や滑走路が何本も見える。無論そこにある戦闘機も然り、肉眼でも確認できた。さらに奥を眺めれば、港には巨大な艦や空母が停泊しているのを見ることができる。軍事基地だ。

 ――第六施設島。

 ここは無数にある島のうちのひとつで、どうやらこのモノレールは軍事基地と民間――あるいは戦争と日常を分断する位置に敷かれているらしかった、というのは後から知った情報である。

 レナは車両のドアの上、ちょうど網棚と同じ高さにあるモニターへ視線を向けた。映像のなかでは二人の政治家が向き合っていて、だぶついた顎を動かしながら己の主張をぶつけている。音声なしの字幕を読んで、レナは意地悪く鼻を鳴らした。

 ASEEと統一連合軍――世界を二分する勢力が、これから持ちつ持たれつの膠着状態を送るのか、それとも戦争状態に突入するかという話題だ。誰もがわかっていることなのに……と呆れたまま首を横に振って、レナは隣の吊り革へ手を伸ばした。

 ごとん、と車両が減速するのはほとんど同時だった。レナは足元にあるもうひとつの荷物を押さえつけて、体重を慣性に任せる。その脇をすり抜けて何人かが立ち上がり、ドアの近くへ並びはじめた。駅が近いのである。それに倣って、レナは足元にあった買い物袋をむんずと掴むと、流れに身を投じた。

「……ん?」

 開く方向とは反対側のドアに寄りかかる少年を見咎めて、レナは首をかしげた。東洋系の顔立ちをした少年で、髪は黒と紺を混ぜたような色。前髪だけが長く、目元から上の表情を覆い隠しているようだ。細身の少年はポケットに手を突っ込んだまま、混雑の方向を眺めている。

「あっ、」

 レナはその後ろに気がついて、小さく驚きの声をあげた。少年が寄りかかっていた扉には故障を示す札のようなものが貼られていて、拳大の隙間が空いていたのである。彼はわざとその部分に背中を預けていたのだ。

「……」

 レナは少年の方向へ進みかけた足をはたと停めて、言いかけた口をつぐんだ。別に自分から注意を与えてやる必要なんてないし、ほうっておけばそこら辺の大人や車掌がキッチリと対応してくれるだろう――つまり言い方を変えれば、自分がここで出しゃばる必要はないのである。仮に彼が何らかの事故で死んでしまっても、どうせ自分の人生ではない。結局は赤の他人なのだと感じ入りながら、レナは残酷な面持ちを味わっていた。

 列車はホームへ滑り込んでいって、しばらくして停車した。混雑は扉から降りていき、駅の階段へ吸い込まれるように消えていく。少年はレナの目の前を、まるで擦れ違うかのように通り過ぎていった。


 あのときレナが声をかけていなかったら……この物語はなかったかもしれない――。


part-MIO:γ


「ねぇ君、そこにいたら危ないよ。走ってるときに開いたらどうすんの?」

 鬱陶しいなと思いながら、ミオは視線を上へ持ち上げた。目の前にはカジュアル姿の少女が買い物袋を両手にして、こちらの表情をまじまじと覗き込んでいる。

 赤の他人に話しかけられたのは数ヶ月ぶり……いや、数年ぶりというべきだろうか。調子のいい笑顔を取り繕ってやっても構わなかったが、ミオは少女をからかってやりたかった。なにを訊こう?

「なぁ、おまえ」

 思惑とは裏腹に、言葉は唇の裏を衝いていた。

「誰か俺を……誰か自分を殺してくれって、そう思ったことはあるか?」

 列車はホームへ滑り込んでいって、しばらくして停車した。混雑は扉から降りていき、駅の階段へ吸い込まれるように消えていく。

「……なんでもない、気にするな。どのみち俺は、この世界に殺される」

 ミオは前髪を掻きむしった。隙間から覗く刺すような視線は――果てぬ先の世界を、確実に捉えていた。

 あ、ども。

 連載1年かー。あの頃は純粋だったなぁ、んー?

 というワケで久々にマジメな自分が更新します。

 最初の話で訴えたかったのは『可能性』。世界はそれで充たされているから。

 レナとミオが出逢う世界、出逢わない世界……それだけで2通りの世界が存在することになる。自分に当てはめてみれば、「別の小説を書いていたかもしれない世界」「小説自体を書いていない世界」……いろんな『もしも』があったハズなんだと思う。

 まぁ、価値観なんて雛鳥の親の法則byUVERworldだそうですから、気楽に読んでみてくださいませ。

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