表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

『七行詩集』

七行詩 241.~260.

作者: s.h.n


『七行詩』


241.


僕はそう 君に降りかかる 雨の一粒


君は大きな 傘を持ち


その靴音は 振り返らずに


一本道を 辿るだろう


君の足元に転がった 男は皆 そうだった


雨粒のよう 打ちひしがれては 地を叩き


町に涙を 溜めてゆく



242.


藁は目を開けて 四つの夢を見続ける


理想 憧れ 誰かの傍に居ることと


今 自分が 生きている夢


それぞれは 季節のように


窓を塗り替え 何度も僕を 支配する


夢を重ねてゆくことで


少しずつ 藁も大人になってゆく



243.


もしも貴方が 純真なシンデレラならば


同じ感性を持つ人 寛大な人に出会いなさい


人は許されなければ


自分のままで居ることも


誰かと居ることも 叶わない


だから 貴方が身を許す人も


そうでなくては ならないのです



244.


私が送ったお手紙を 私が贈った物たちを


ついに貴方は 火にくべた


その灰が 息を与える土壌には


貴方のお城が 建つでしょう


今もどこかで 感じているのではないですか


貴方の魂の友である私の


覚えた切なさと 祝福を



245.


時の流れを 知らせる砂は


ともに歩いた 道にまで高く 降り積もり


砂漠に紛れた宝石は


もう胸の中で 拾うしかない


貴方が今 誰に囲まれていたとしても


忘れないで 塵の一粒となった私も


その魂に 寄り添う一人であるのだと



246.


この空の 見えない天井のどこかに


木霊して返ってくるような


大きな声で 君を呼べたら


きっと君にも 届いたでしょう


もし 僕を思って その窓を


開けて 待っていてくれたなら


忘れず 待っていてくれたなら



247.


愛という 優しい箱の 中にいた


僕らは互いに本を閉じ


二人の最後は 若く美しい姿のまま


来たるべき一代(ひとよ)の終わり 再会に


老いた貴方に 気づけなければ


僕の思い出の中にある 古い写真を指差して


『これが私だよ』と 教えてくれますか



248.


手を止めて こちらを見て、と せがんでも


貴方はうんざりした顔で


『だって』の先を 言わせようとしない


飽き飽きするほど 傍に居て


手に取るように 分かるというなら


黙ってこの手を 取ってください


私は言葉を 捨てる覚悟もできているのに



249.


いつか 私を連れ出す この地図に


帰るべき場所が 消えてしまったら


ここに居る私を 保証する


その腕や声が なくなれば


もう私には 戻れないでしょう


遠く広がる 星空に紛れ


たった一人で 燃え尽きるまで



250.


日の長さ もうこれからの 季節には


私の止まり木である君


その陰に 私を憩わせてください


両手いっぱいに 葉を広げ


私を寝かしつけるでしょう


日の入りまで 離れなければ気づかない


ここにはずっと 二つの陰が重なっていると



251.


足元に 桜の波が 押し寄せて


騒がしく 駆け抜ける様は


花道を行く 君を見送った


あの日を思い出させる


祝福の後は 少し孤独で


『全ては移ろいゆくものだ』と


僕だけが見つめ 立ち尽くしている



252.


来る季節 空に恋をし 仰ぐように


君は何度も 花を咲かせる


地を這う僕が 重力が


君に恋をし 手を伸ばせば


短い命を またも奪ってしまうのに


ささやかな 抵抗とともに ひらひらと


舞い散る様まで 美しいとは



253.


私は貴方に 貴方は私に


“わからない人だ”と言った


それもそのはず 貴方はいつも


小さな部屋に 飛び込んできた 愛情を


すぐに窓を開け 逃がしてしまう


貴方は孤独 私もつられて孤独になる


そんな貴方に 欲されることがないのだから



254.


物憂げな 貴方が顔を 伏せるなら


私は静かな 水面のように


正面から 綺麗な素顔を 映し出し


それを貴方にも 見せてあげたい


けれどもし 貴方が背を向け 去っていくなら


その顔を 映すことももう 叶わない


波立つ空は 灰色に染まりゆくでしょう



255.


繰り返し 尚も変化は 訪れず


たとえば行き違う瞬間


見つめても 動きもしない その瞳は


惨めさを映す 鏡のようで


たまらず僕は 早足で


傍を通り過ぎるのに


小さな背中を 振り返るのは 何故だろう



256.


この席に 別の誰かが 座るまで


もしも私を 惜しむなら


空っぽになった 引き出しに


文を忍ばす 愚かしさを


貴方は犯すというのでしょうか


去りてなお 影も愛しいあの方に


宛てた私と 同じように



257.


この目が追い 反射する光を なくした今


真っ暗で何も見えないなら


いっそ瞑ってしまおうか


けれどもし 再び貴方を見つけたとしても


私は この目をつぶるでしょう


貴方の呼吸を感じるだけで


私には全て 見えるのだから



258.


憧れに 目を奪われる ばかりでは


私は多くを 見落とすでしょう


貴方が投げ出す その一歩に


ガラスの靴は どんな音色を立てるのか


貴方が飛び出す その景色に


赤いドレスは どのように弧を描くのか


ただ目の前の一瞬を 映す瞳を持てたなら



259.


新天地 人波の押し寄せる坂を


誰かが逆らい 上っていった


重い歩みは 無様でも


その足を 休めることはないだろう


彼を背に 弱者と呼ばれた 僕はただ


流れゆくまま 川を下った


その先に 広がる海へと 旅立つため



260.


休暇を合わせ 列車の旅は 長けれど


宿に憩える 時は短し


君は川辺に 沿って歩いた


長い鼻歌を 歌いながら


リズムに揺れる 小さな身体が 眩しくて


僕はそれを 眺めていた


その声が 聞こえなくなるまで




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ