砂糖 シュガーの朝
砂糖 シュガーの一日は、髪型のチェックから始まる。
「おはよ〜」
まだ半分しか開いていない目をこすり、シュガーはダイニングで朝ごはんを作ってくれている母親に声をかける。おはよう、という優しい声とともに出てきた朝ごはんはいつもの通り豪華なものだった。ハムとチーズをたっぷりのせたパンに温かいハニーミルク。フルーツをこれでもか!というくらいのせたヨーグルトは、はじめの方こそ引いていたが、今ではいつもの光景だ。シュガーはチーズがこぼれないよう気をつけながらかぶりつき舌鼓をうつ。昔、なぜ朝だけこんなに豪華なのかと母親に尋ねたことがあるが、返ってきたのは、一日の始まりだから、というなんとも言えない返事だった。そんなことをふと考えているとスマホに一件の通知はいってきた。パンを一気に飲み込み、スマホを確認する。(母には、行儀が悪い。と小言を言われたが。)
『まだ?もう8:00なったよ?寝坊ぅ??』
____________同じソルト高等学校の友人、萩からだった。いつも一緒に登校しているメンバーのうちの一人である。今日はほかのメンバーは部活の朝練があるからこいつと二人って昨日話したような、________
「…………………!?!?今何時!?」
「今?8時2分だよ?」
はんなりと笑いながら、母が答える。やばい、待ち合わせは8時だった筈だ。
「わわわっ、どっどうしよう!とりあえず髪っ!!」
そこで髪を一番に気にするのはどうなのかという感じだが、シュガーは髪が命といっても良いぐらい髪にはうるさいのだ。自分はもちろん、友人の髪に寝癖があっただけで直そうとしてくる。とはいっても、時間に遅れている身。急がなければと己をせかす。
シュガーの髪は薄い桃色の猫っ毛であった。昔は、扱いにくく苦手としていた猫っ毛だったが、今では自分のアイデンティティとして扱いつつある。唯一の短所はゆるふわカールみたくなるので女の子らしくなってしまうところである。女装をすればバレないのではないかと自負するくらいだ。それを萩に話した際、顔も女顔だしね、と笑われた時にはまじめに殺そうかと思ったが。
女か、とつっこまれるぐらい丁寧にブローしていく。実際、猫っ毛の方が強いためあまり意味はないのだが、始めた意地というものだ。何回も髪を見直したあと、よし、と呟いて笑みを浮かべる。
なにはともあれ、髪はオーケー。あとは、着替えれば準備万端だ。さっきからスマホがピコンピコン鳴っているが、あとで謝ればいいだろうと無視を決める。先に謝っとくわと、ここにはいない友人を想いながら男性用の制服に腕を通す。
さて、いい加減出かけなければ。時刻は8時14分。友人はまだ待ってくれているだろうか。あいつなら待っているだろうと期待して、
「行ってきます。」
と、15分遅れの投稿をした。