第8話 冒険者登録をしよう
ディアル、マロア、それぞれの依頼の失敗と辞退の報告をした後、ディアルとは用事があるからと別れた。まぁ、別にディアルと出会ったのは偶然みたいなものだし、マロアが1人いれば十分だからな。それにミレットが快く思ってないし、正直どこかに行ってくれて良かったと思っている。
「それじゃあ、アリファーラさん、ミレットさんの冒険者登録を始めましょうか」
「わーいっ!やっと冒険者になれるーっ!」
「登録はどうすればいいんだ?」
「まず、この用紙に必要事項を記入してください」
そう言ってラーシアが出してくる用紙には氏名と年齢、種族名を書く欄があった。ふむ、どうやら使われている文字は数百年前と変わっていないみたいだな。これなら文字の読み書きの心配はないだろう。
(変わっていても、ボクの魔法でどうにでもなるけどねー)
(そうだな)
ミレットの翻訳魔法は言語だけでなく、文字も読めるようになる優れ物だな。本来なら文字は自分で勉強し、どう発音するのかを学ばなければならないが、ミレットならばそれを必要とせずに理解できるようになる。
「出来たよー」
「これでいいか?」
「はい。アリファーラ・ヴァンクさんは年齢20歳、種族は人間。ミレット・ラーミュアさんは……ねっ、年齢204歳?って、種族はエルフ!?えっ、ミレットさんはエルフなんですか!?」
「うん、そうだよ?何か問題でもある?」
「い、いえ、そうじゃなく……エルフは自分が住む村から出る事はなく、他人に肌を極力見せないよう気を付けていると学びましたので……」
ラーシアの言う通り、それがエルフの特徴だろう。故に学んだ事は決して間違っていない。ただミレットが特殊なだけだ。
「エルフにもボクみたいなのがいるってだけだよ」
「そ、そうですか……では次にこの水晶に触れてください」
ラーシアは机の端に置いてある水晶を俺達の前へと持ってきた。何だろうか、この水晶は。僅かに魔力が感じられる為にただの水晶でない事は確かだが、組み込まれている魔法式が少々複雑だ。
「この水晶は触れた人のステータスを表してくれるんです」
「ステータス?」
「はい、簡単に言えばその人の能力みたいなものです。例えば私が触れると……」
そう言ってラーシアが水晶に触れると、小さくだが白く輝いているのが分かった。光が収まった後に手を離せば、水晶には文字が浮き出てきていた。
ラーシア・トゥノン
体力 G
魔力 J
筋力 I
速力 H
耐性 I
「ステータスはそれぞれKからAの11項目、それからその力を極めたS、到達した人はいないとされるXに分かれています」
「なるほどな。ちなみにマロアはどの位なんだ?」
「えっ?」
「マロアさんも今のご自身のステータスを確認してみます?」
「……そうね。そうさせてもらうわ」
マロアは水晶に触り、光が収まると手を離した。冒険者である以上、ラーシアよりは高いと思うが果たしてどれ程の違いがあるんだろうか?
マロア・エンシア
体力 G
魔力 I
筋力 H
速力 G
耐性 I
「なんかそんなに変わんないね」
「だな」
「しょ、しょうがないでしょ。私だってその……そんなに強いわけじゃないんだから」
まぁ、狼人族は元々魔力が少ない代わりに体力が高く、力が強いからな。故に冒険者ではないラーシアでもマロアと同等のステータスはあるんだろう。
「それじゃこの水晶の使い方が分かった所で、次はアリファーラさんとミレットさんが触れてみてください」
「ああ」
「分かったよー」
……待てよ、気にしていなかったが俺達の本当の名前が出てしまうんじゃないか?それにステータスが高かったらまずいだろ。Eランクのマロアがあの程度なら、冒険者にこれからなる俺達が初めから強いと不審に思う人が出てくるかもしれない。さて、どうするべきか────
「アリファーラ、触らないの?ならボクからやるねー!」
「いや、ちょっと待」
俺の制止を聞かないままミレットは水晶に触れ、水晶が輝き出した。あの光が収まった時には周囲が騒ぎ出すだろう。それをちゃんと考えてくれればいいんだが……。
「あっ、ボクのステータスが出てきたよー」
ミレット・リファーラ
体力 D
魔力 E
筋力 I
速力 H
耐性 F
…………ん?名前も偽名のままで、ステータスがかなり低い……どういう事だ?いや、ミレットが何かしたんだろうか……。
「凄いです!最初からこんなにステータスが高い人なんて早々いませんよ!」
「か、勝ってるのが速力だけって……」
しかしこれでも冒険者初心者には高いステータスみたいだな。冒険者として先輩であるにも関わらず、負けているマロアは不憫にしか思えないが仕方ない。競うなら他の冒険者にしておくといいだろう。
(うんうん、うまくいったねー)
(ミレア、一体何をしたんだ?)
(上書き魔法だよ。対象物にかける事で実際に書かれている事は見えず、ボクが思い描いた事しか見えないんだ)
なるほどな。つまり本当のステータスの上にミレットが思い描いたステータスを覆い被せたという事か。しかしそれを扱うミレットはともかく、そんな魔法は使えない俺はどうするか。
(大丈夫だよ。次の人のステータスの上にも嘘のステータスが出るよう仕掛けてあるから)
(それはありがたいな)
(もうっ、ボクに言ってくれればそんな問題、朝飯前なのにさ)
声には出していないが、頬をぷくーっと膨らませるミレットは可愛い。本人は怒っているんだろうからそんな事は言えないが、もしも言ってしまえばさらに怒って否定するに違いない。
(ア、アメダス!ボクは怒ってるんだよ!?か、可愛いなんて思わないで!)
(ああ、まだ繋がっていたのか。てっきりもう切ったかと)
(も、もう……今度からはボクをもっと頼ってよね!)
そう言ってミレットからの声は聞こえなくなり、本人を見てみれば赤くした顔を帽子の前を両手で引っ張って隠していた。その姿も十分に可愛いんだが。
「では次にアリファーラさん」
「ああ」
俺は水晶に触る。すると今までと同じく輝き出し、水晶にはミレットと大差ないステータスが現れた。
アリファーラ・ヴァンク
体力 D
魔力 F
筋力 G
速力 D
耐性 E
「アリファーラさんも随分と高いステータスですね……凄いです!将来が楽しみな冒険者がまさか2人も入ってくれるなんて!」
将来が楽しみ……か。それは俺達ならば高いランクに達する事が出来るという事だろう。ならばそれを目指さないわけがない。マロアが俺をSランクの冒険者じゃないかと疑っていたが、本気で目指してみるのも1つの手か。
「では、用紙に書いて頂いた事とステータスをギルドカードにそのまま写させてもらいますね!マロアさんもついでに現在のステータスに更新してもらいます?」
「ええ、お願いするわ」
「分かりました。では、その間にギルドカードとランクについて説明させてもらいますね」
「ああ、頼む」
ラーシアは俺達のギルドカード発行と、マロアのギルドカードの更新とやらを他の職員に任せ、机の下からギルドカードのレプリカと思わしき物を取り出してきた。
「これはレプリカなんですが、冒険者ならば誰もが持っているギルドカードと言うものです。裏にはその方が所属しているギルド名が書かれていますが、どこの冒険者ギルドでも利用できます。また、表には名前とランクしかありませんが、本人が念じればご自身のステータスを見る事が出来るんですよ」
「さっき言っていた更新とやらは?」
「そのままです。誰も戦っていれば成長していきます。各ギルドにあるこの水晶を使い、受付嬢に頼めば現在のステータスに書き換えてくれるんですよ」
「なるほど」
自分が念じるだけでステータスを見れるか……そういえばマロアのギルドカードからは特殊な魔力を感じていた。あれはギルドカードを壊れず偽物を作られないようにする為だと思っていたが、それ以外にもあるみたいだな。
「万が一紛失してもイルを払ってもらえれば再発行できますからご心配なく。また、ギルドカードはランクによっと色が違うんです」
「どんな感じなんだ?」
「ランクの事も同時に説明しますが、このようになってますね」
ラーシアは再び机の下から何かを引っ張り出してきた。それは大きな看板のような物であった。そこにはランクとギルドカードの色に関する事が書かれていた。
Sランク→金色 化け物
Aランク→銀色 超人
Bランク→銅色 達人
Cランク→赤色 熟練者
Dランク→青色 一般
Eランク→緑色 駆け出し
Fランク→紫色 初心者
「冒険者になる人は誰であろうとFランクから始まります。上のランクに上がる為には色々な条件がありますが、Cランクから上がるには冒険者としての心構えも知る為に試験が加わってくるんですよ」
「試験?」
「はい。冒険者としての実力は勿論ですが、知識、人間性などもBランクからは必要になってきますから」
上に立つ者ならちゃんとしなければならないという事か。確かにそれは一理ある。自分の力を過信したり、周りから持ち上げられて危険な行為に走ってしまう奴もいるからな。下手したら冒険者という存在が危ぶまれる可能性もある。
「ギルドカードを提示すれば街に入る際にはイルを払わなくて済みますし、ランクが高ければ高い程、周囲への影響力も高くなっていきます」
「まぁ、それは当然だな」
ランクが高い冒険者を蔑ろに扱う人は少ないだろう。そもそも扱ってしまえば、他の奴らから邪険に見られること間違いなしだしな。
「あともう1つ。冒険者ギルドは冒険者を全力で支援しますが、命の保証に関しては持てません。魔物に殺される冒険者は年に何十人もいますし、他の冒険者に恨まれて殺される人も少なくありませんからね」
「つまり……返り討ちにしても問題ないという事か?」
「そうですね。自分の身は自分で守らなくてはいけない為、そういったケースもあります。返り討ちにしても問題ないですよ」
よし、これで何も心配はないな。人間の中には新しく入ってきた奴を指導や特訓と称して痛め付ける輩がいる。そう、あの酒場で酒を飲みながらこちらを睨んでいる奴らとかがピッタリだ。
「では、最後に──────貴方方の将来がいいものになるよう、冒険者ギルドは全力で応援させて頂きます!!」
両手を大きく広げながら叫ぶラーシア。だが誰もこちらを向かない事から全員これを見ているって事か。
さて……これからどうなるのかが楽しみだな。
ギルドに入ったばかりの主人公が同じ冒険者に襲われるのは誰もが考えること。
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