第7話 冒険者ギルドにて
「これは……驚いたな」
「うわーっ、凄いねーっ!」
アロッタの街は俺達が見てきた街並みとはまったく違っていた。数百年前は村も街もそれ程変わらない様子だったのに、今はその時とは比べ物にならない。整備された街道に活気のある店がいくつも並び、どこを見ても大勢の人がいるのだ。
「アリファーラ!ボク、こんな街は初めて見たよ!」
「ああ、俺も初めてだ」
「2人共。驚いてる所悪いけど、まずは冒険者ギルドに行くわよ。観光とかはそれからにしてよ?」
「えー……」
「諦めろ、ミレット。それにそこで俺達は冒険者になれるんだぞ?」
観光が出来ない事に落ち込むミレットであったが、冒険者になれる事を口にすると「あっ」と口に出してからすぐに笑顔になった。もしかしてミレット……自分から言い出した事なのに忘れていたのか?
「ソ、ソウダヨネ。ボクタチ、ソコデボウケンシャニナレルンダモンネ。ウッワー、タノシミダナー」
「棒読み過ぎるだろ」
まったく、と思いつつしばらく馬車に揺られていると目の前に他の建物とは少し違った建物が見えてきた。看板には盾の上に剣と剣が交差している絵が描かれており、その下にはギルドと書かれている。もしかしなくても、あれが冒険者ギルドなんだろうな。
「アリファーラ君、ミレット、見えてきたわよ。あれがアロッタの街の冒険者ギルドよ」
「名前通りの外観だな」
「面白くなーい」
「貴方達は冒険者ギルドに何を求めてるのよ……?」
冒険者ギルドの前に到着し、馬車を一旦ギルドの職員に預けたマシュルと共に俺達は中へと入る。冒険者ギルドの中は酒場も経営しているのか、おっさん共が酒を飲みながら騒いでいる姿が見えた。
「マロア、あいつらも冒険者か?」
「ええ、そうよ。昼間から酒を飲んでる事には感心しないけどね」
冒険者というのはマロアやディアルなどといった奴らしかいない思っていたが、あの中にはガラの悪い男が何人もいるな。格下と思われる男に何かを威張っているように見えるが……少なくとも強そうには見えないな。
「あ〜……ラーシアちゃん、ただいま……」
「ただいま。お疲れ様、ラーシア」
「ディアルさん、マロアさん!おかえりなさい、依頼は成功しましたか?」
ギルドの奥へと進み、受付へと辿り着くとディアル達が受付の女性に声を掛けていた。ラーシアと呼ばれたその女性は性格も見た目も優しげに感じられるが、注目すべきはそこじゃない。腰まで伸びたフワッとした金髪に生えた獣の耳、そして腰の辺りに見えるフサフサとした尻尾である。
(ミレア……あの女性、耳と尻尾の形からして狼人族で間違いないよな?)
(うん、間違いないよ……それよりも……)
(ん?)
(あの大きな胸は一体何……!?)
ミレットの言う通り、ラーシアの胸は大きかった。ミレットの胸の小ささが異常なんじゃないかと思う事もあるが、ラーシアの胸の大きさの方が異常だろう。動く度に胸が揺れるって、相当だと思うぞ。
「って、あれ?後ろにいるのはディアルさんの依頼人のマシュルさんと……もう2人は?」
「ちょっと私達と色々あってね……それはこれから説明するけど、その後に冒険者の登録をお願いしたいの」
「冒険者希望者ですか!新たな冒険者さんは大歓迎です!あっ、私は受付嬢のラーシア・トゥノンです!」
ラーシアは俺達に向かってぺこりと礼をする。その時に胸の谷間が見え、それに凝視しそうになったがミレットに足を踏まれた事で視線を外した。
「俺はアリファーラ・ヴァンク、よろしくな」
「ボクはミレット・ラーミュアだよ。……ねぇ、その胸ってどうやって大きくしたの?」
「えっ?ええっと、自然にですかね……?」
ラーシアの言葉を聞き、絶望に満ちた表情となるミレットだがその内復活するだろ。その間にとっととディアルの用事を済ましてしまおう。
「ディアル、マシュル」
「お、おう……ラーシアちゃん、実はな……俺、依頼を失敗しちまったんだ……」
「ええっ!?ほ、本当ですか!?ど、どうしてです!?」
「それは──────」
それからディアルとマシュルは一通りの説明を始めた。アロッタの街近くまでは順調だったが、突然ゴブリンに馬車を襲われ、ディアルはやられて気絶。そこを俺に助けられ、ディアルに代わって街まで護衛してまもらった、と。
「なのでアリファーラさんにも報酬金を出してもらいたいんです」
「なるほど……ですが危機を救ったとしても、距離と倒した数から出せる報酬金は半分にも満たないですよ?それでもいいのなら……」
「それで構わない」
「分かりました!それではディアルさんには違約金を引いた報酬金を、マシュルさんには違約金を支払いますね」
その後、それぞれの手元には硬貨が入った革袋が渡された。俺の革袋に入っている硬貨は銀貨3枚と銀貨よりも幾分か小さな茶色い硬貨であった。
「ん……?マロア、この硬貨は何だ?」
「それは小銅貨ですね。50イルの価値があるわ」
50イル……という事は俺が貰った報酬金は350イルか。まずいな、ディアルが請求してきた1000イルには650イルも足りない。
「ディアル、すまん。今回貰った報酬金だけでは足りないみたいだ」
「ん?ああ、別に今日中に返せなんて言わねぇよ。これから冒険者になるんだ、だったら1000イルなんて簡単に稼げるだろうよ」
……ふむ、確かに。ラーシアは俺が貰った報酬金を『本来の半分にも満たない』と言っていたが、それはつまりディアルの受けた依頼の報酬金は1000イルに近かったんだろう。それならすぐに貯まる事にも納得がいく。
「では、私はこれで失礼します。ディアルさん、アリファーラさん、今回は本当にありがとうございました」
「まぁ、俺は失敗しちゃいましたけどね」
「もしも魔法道具に興味がありましたら是非、『マドルファ』にお越しください。いつでも歓迎しますから」
そう言い、マシュルは冒険者ギルドから出ていった。お越しくださいと言われてもなぁ……馬車の中で見させてもらった魔法道具があの程度だからな、行ったとしても俺もミレットも暇になること間違いなしだろう。
「それじゃ、次は私から報告させてもらうわよ?ラーシア、この依頼は私のランクじゃ無理だわ」
「な、何かあったんですか?」
「ゴブリン達はおそらく商人達を襲って武器を手に入れているわ。アリファーラ君、武器を全部出してくれる?」
「ん?ああ、分かった」
俺は〔無限道具袋〕に手を突っ込み、ゴブリン共から回収した武器を全て取り出した。それらを机の上に置くと、ラーシアから驚愕の視線を向けられた。
「え、ええっ!?そ、そんなに入る〔道具袋〕を持ってるんですか!」
「これだけじゃないわよ。倒したゴブリン50匹の〔ゴブリンの角〕が全部この袋の中にあるわ」
「ミ、ミレットさん、そんなご冗談を……」
「信じられないか?なら出してやるが」
ラーシアに〔無限道具袋〕の性能を疑われている事に、フォルンが馬鹿にされているように感じた俺は武器の横に〔ゴブリンの角〕を50個取り出し、置いていった。ラーシアに勝ち誇ったように笑みを向ければ、声が出ないのか口をパクパクと動かしていた。
「そ、そんな……ど、どこでその袋を?」
「残念ながらそれは秘密だ、悪いな」
「そうですか……いえ、妥当な判断ですね。どこでこの話を聞いている人がいるか分かりませんからね」
ラーシアの言う通りだな。実際、俺が武器や〔ゴブリンの角〕を出した際に酒を飲んでいた冒険者達からの視線を感じた。聞き耳を立てていたようだが、例え作った本人が誰なのか知っても手に入れる事はまず不可能だろうな。
「とにかくゴブリンの数から考えても私のランクじゃ無理よ」
「そうですね……この武器もなかなか良いみたいですし、マロアさんでは難しいかもしれないですね……。ところでそのゴブリンは誰が倒したんですか?」
「もちろんアリファーラに決まってるじゃん!」
「え、えっと……マロアさん、本当ですか?」
「信じられないのも分かるけど、本当よ」
信じられない、か……冒険者に新しくなる人が雑魚とはいえ、ゴブリンを50匹倒してしまう事はあまりない事なんだろう。
「そ、そうですか……あの、アリファーラさん」
「何だ?」
「冒険者ではないにも関わらずゴブリンを倒したこと、マロアさんを助けてくれたことはとても頼りになります。しかしこの依頼は『ゴブリンが大量に発生した理由を調べる』ことが目的である為、ディアルさんのように報酬は……」
「ああ、そういう事か。別に気にしてないし、いいぞ」
確かに硬貨を貰えない事は残念だが、ここで無理を言っても仕方ないしな。これから冒険者になる為にも冒険者ギルドのルールには一応従っておこう。
ラーシア・トゥノン:アロッタの街の冒険者ギルドで受付嬢をしている狼人族の女性。胸が大きい。
冒険者の登録は次回、行います。
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