第6話 街の中へ入る方法は?
しばらく休んでいましたが、また書き始めました!
正面に見えてきた街──────アロッタの街は周囲にある他の街と比べると比較的大きな街らしい。確かに街を囲うように建設されている高い壁がその証拠だ。その為に外から街の様子は見えず、この街の東と西にある門のどちらかで手続きを済ませてから入らなければどんな街なのかすら分からない。
「……ん?あ、あれ、ここはどこだ?」
「あっ、ディアルさん。気が付いたんですね」
門の前に並ぶ列の後ろに着き、馬車がのんびりと進んでいるとようやくディアルが起きた。ここがどこだか把握していない彼にマロアが近寄り、何があったのかを説明し始める。
マロアから話を聞いているディアルは『自分がゴブリンにやられた』と耳にした時には酷く落ち込んでいた。どうやら俺の事やミレットの事は覚えておらず、気絶した自分や馬車を守ってくれた事を何度も感謝されてしまった。
「なんかそっちのお嬢ちゃんは見覚えがあるんだが……気のせいか?」
……いや、どうやらミレットの事に関しては記憶のどこかに引っ掛かっているようだ。まぁ、一瞬でも自分の命が危険に晒されたわけだからな。とりあいず何も言わなければ思い出す事もないだろう。
「しかし俺がゴブリンなんかにやられるなんてなぁ……」
「ディアルさんの実力ならゴブリンに負けるはずありませんし、何らかの理由で強くなっていたのかもしれませんよ」
「やっぱそうとしか考えるしかないよな!なんたって俺はDランクなんだ、ゴブリンに遅れをとるなんてありえねぇな!」
と言ってもゴブリンとの戦闘を見ていた限りでは苦戦していたけどな。馬車を守りながら戦っていたからなどは言い訳に過ぎない。本当に遅れをとるつもりがないのであれば、どんな状況であっても戦えないといけない。それが無理ならまだまだ未熟という事だ。
「しかしそうなるとあんちゃんもお嬢ちゃんもよく勝てたな!2人共、冒険者じゃないんだろ?」
「うん、冒険者にはこれからなるんだ。それとゴブリンを倒したのはアリファーラ1人でだからね?ボクは一切戦ってないよ」
「なっ、マジかよ……」
どうやらゴブリンが強くなっていたと本気で思い込んでいるディアルにとって、冒険者でない俺がゴブリンを倒した事はかなりショックなようだ。床に両膝と両手をバンッと叩きつけ、分かりやすく落ち込んでいる。
「ん?冒険者じゃないとなると、証明書は何を持ってるんだ?」
「証明書……?」
「おいおい、証明書の事を知らないって田舎もんにも程があるだろ」
どうやら証明書とやらはほとんどの人が知っているみたいだな。今は俺達が田舎から来たって事で勝手に勘違いをしてくれているが、今後そうもいかない時が来るだろう。その時の為に証明書がどんな物なのかは知っておかないとな。
「どんな物なんだ?」
「自分の身分を証明する物よ。例えば冒険者ギルドに所属しているならギルドカードね」
俺の質問にマロアはポーチからギルドカードとやらを取り出して説明をしてくれた。ギルドカードは紙のように薄いが折り曲がったりせず、なかなかに頑丈と見える。そして表面にはマロアの名前が、その横には大きくEという文字が浮かび上がっている。裏面を見せてもらえれば、アロッタギルドという文字が彫られていた。なるほどな、このギルドカードからは特殊な魔力を感じる。これが丈夫な理由だろうが、おそらく偽物を作られないようにする為だな。
「これっぽいのを持ってない?」
「いや……悪いがないな」
「なら金を払うしかないぞ?確か1人500イルで良かったはずだ」
……500イル?何だ、それは。金はデメルド硬貨やスラヴェラ硬貨が何枚とかじゃないのか?尋ねたいが、流石に今の硬貨がどんな風に使われているのか尋ねられない。俺達は同じ田舎から来たという設定にしているが、硬貨まで知らないとなるといくら何でも怪しまれる可能性が────
「マロア。それから……ディペルだっけ?550イルって何?」
「えっ!?」
「ディペルって誰だよ!?俺はディアルだ!!」
「そ、それよりミレット……貴女、今までどうやって生活してきたの?500イルは銀貨5枚の事よ、知らない?」
「知らない」
まずいな、まさかミレットが質問するとは思っていなかった。いつもなら自分に興味のない事には首を突っ込まないはずだが、何かお金を使ってしたい事があるんだろうか?思いつくとすれば、面白い物しかないが。
「も、もしかしてアリファーラ君も?」
「俺達が住んでいた場所は物々交換をしていたんだ。だから硬貨を使う事がなくてな」
「でもここに来るまで食べ物や泊まる所は……」
「食事は食べられそうな植物や動物を自分達で調達して料理し、食べていた。夜はいつも野宿だったな」
もちろん嘘ではあるが、勇者として旅をしていた時にはそういった事もあった。いや、そういった事の方が多かったかもしれない。並の人間では決して立ち入れない場所に数え切れない程、行っていたからな。
「な、なんだか冒険者よりも冒険してるような気が……」
「ああ……」
まぁ、それらいいとして……どうするか。俺もミレットも銀貨なんて硬貨は知らないし、そもそも持っていない。となればディアルやマロアの言う通りに銀貨5枚……500イルを払う事が出来ない。ならばどうするかと考えていると、俺はとある事を思いついた。
「この硬貨は使えないか?」
俺は〔無限道具袋〕からデメルド硬貨を取り出す。これが使われていた時代がいつだったかは覚えていないが、今売ればそれなりの価値にはなるんじゃないんだろうか?
「何だそれ?どこの国の硬貨だよ」
「デメルド硬貨って言うんだが」
「デメ……?いえ、知らないわね」
ディアルとマロアは知らないとなるとかなり昔か。一応この辺りで使われていたはずなんだけどな。
「皆さん、そろそろ私達の番になりますよ」
「ったく……しょうがない、俺が払っといてやるよ」
「いいのか?」
「その代わり、お前らが貰う報酬金から引かせて貰うからな」
何だ、ただこの場は払ってくれるだけか。金を手に入れたらその分を寄越せと言うなんて、器が小さいんじゃないか?
「えー、いいじゃん別に。ケチだなー」
「あのな、銀貨5枚は金貨の半分なんだよ。しかも2人って事は金貨1枚なんだぞ?当然に決まってるだろ」
「金貨?」
「金貨は銀貨10枚分の硬貨よ。冒険者はランクによって違うけど、一般人だと大体1日で稼げる金額ね」
ふむ……銀貨5枚で500イル、なら金貨1枚は1000イルか。金貨1枚が1日で稼げる金額なら請求するのも当然か。
「そろそろだな……おい、馬車から降りて門番の所に行くぞ」
「分かった」
馬車から降りた俺達は門番のいる所に歩いていく。他の門番は馬車の中を確認したり、マシュルに話を聞いたりしている。ディアルとマロアが門番の前まで進むと、笑みを浮かべて2人を迎えた。
「ディアル、マロア、お疲れさん。依頼はどうだった?」
「あ〜……まぁ、色々あってな。ここじゃ全部は話せない。それと後ろの2人は田舎から来たらしく、証明書も硬貨も持ってなくてな。2人で1000イルだよな?」
「ああ、合ってるぞ。なら夜にでも酒を飲みながら話してくれよ」
門番は酒を飲むような仕草をし、ディアルはそれに応じるように頷いている。それから門番に証明書を見せ、硬貨を渡すとこちらに戻ってきた。
「ほら、もう中に戻っていいぜ」
「今のあいつは知り合いか?」
「ん?ああ、そうだぜ。イーグ・モロッタって名前でな、昔からの親友なんだ」
そう言いながらディアルは馬車の中へと飛び乗る。それに続いて俺達も飛び乗り、座った後に馬車が前へと動き出した。これでようやくアロッタの街に入れるのか……。
「田舎もんなら街並みにびっくりするかもな。その辺、覚悟しておけよ?」
「ねぇ、アリファーラ!やること終わったら約束通り、甘い物買ってよね!?」
「ああ、分かってるよ」
「俺の話を聞けよ!?」
ディアルが何か言っているが、別に聞かなくてもいい話だろう。さて、アロッタの街……どんな場所なのか楽しみだ。
イーグ・モロッタ:アロッタの街の門番の1人。ディアルとは昔からの親友。
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