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そして彼女は空を飛ぶ///

作者: 沙堂 瑠々亞

「だってわたし、空飛べるんだよ」


 こう発言されても引かなかった僕を褒めてもらいたい。


 ことの始まりは日直でプリントの山を職員室から一緒に持ち出したときのこと。飯田は男の僕がいるのに結構な束の量を自分が持っていくといって聞かなかった。個人の意志を尊重して半々にして持っていったけれど、やっぱり飯田にとってはプリントの束はキツかったらしい。結果、右往左往によろけることになる。負担を減らそうと提案しても、飯田は「大丈夫!」ときっぱり言って僕の申し出をシャットアウトした。よろけそうだけど、と心配さを強調してみたところ、飯田の口から出たセリフが冒頭のそれにあたる。正しくは以下参照。


「あ、大丈夫、もしよろけてもケガしないから。だってわたし、空飛べるんだよ、ぽんぽーんって」


 ――いや、だからぽんぽーんっていうかばさばさーっとプリントを放り出さなかった僕を褒めてもらいたい。は?なんだこの女。教室でやけににこにこしているキャラだと認識していたが、実はこんな電波キャラだったのか。もしかしてギャグか。だったら僕は調子を合わせればいいのか。


 迷いと葛藤を自身で行うこと、十数秒。思い切って、へえぇ、そいつはすごいなと返してみた。が、相槌を打ってみても、所詮困惑して引きつった返事になるのが人の常だ。飯田はその人懐っこそうな目でじっと僕を見た。言い分を信じているのかいないのか、見極める目だった。


「ねぇ、ちょっと相談」


 僕は飯田の発言が嘘でも出鱈目でもなかったことを知る。視線を元の場所に戻してみたところで、飯田の姿がありえない方向に曲がっていたからだ。放物線を描くように、飯田の半身が場から離れた。飯田はジャンプしていた。階段をたんっとリズムカルに撥ねたかと思うと、踊り場の硬い床まっしぐら――タイルに顔面殴打する前に『浮いて』いた。


「この力を有効活用したいんだけど、どうすればいいかな」


 離れた階段の踊り場で、ふいよふいよと浮きつつ飯田は聞いてきた。

 僕のプリントの束がバサバサと階段に散らばっていった。肝が冷えた。絶句するにも程が合った。傍から見れば間違いなく目を白黒させているという形容詞にされるだろう僕の状態を分かっているのかいないのか、ふわふわ浮きつつぽんっと手を叩いた。


「あ、でも有効活用ひとつ発見」


 それはただ僕に見せ付けるために空を飛んだ、というでもなく。


「明らかにこっちに興味なさそうだった男子が、ちゃんと話してくれたもんね」


 にっこーぉ、と満面の笑みで笑う。ぱっと弾ける笑みっていうか、花が咲いたような笑みっていうか。……そういや、飯田の下の名前は確か――『エミ』だったか。

 こっちが固まってもしょうがない、という気分になる表情を見せ付けられ、僕は散らばったプリントを拾い集めた。髪の毛もスカートの裾も重力に逆らっていないのに、何故足元だけが浮くのかとか、ピアノ線はないのになぜ浮くのかとか、疑問符なら次から次へ浮かんでいったけれど。


「信じてくれたかな。わたしが空飛べるってこと」


 ……果たしてその浮き方は空を飛べるっていえるのかどうか、甚だ疑問だ。溜め息をひとつばかりすると、僕はいいから急げと声を掛けた。床からやっと5センチ上がっているか上がっていないかの境目で、ふわふわ浮いている声の主に。



 そして彼女は空を飛ぶ。ただし、超低空飛行で。




さくっと書いてさくっと読める作品にしてみました。題して「さくっとシリーズ」。同士募集中です(笑)。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読んでいて、棒読みにならないようにストーリーを前後入れ替えたりしている努力は分かります。 ただ、まだ、有効に活用できていませんね。 無理にアクセントを付けようとしてバランスが壊れているように…
[一言] どうもはじめまして、春功といいます。私も物書きの端くれです。 空を飛べるという非日常に戸惑う姿がよく書けていると思いました。 なにより、何気なく空を飛べるんだーと読んでいたので、最後に五セ…
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