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やがて終曲は訪れる  作者: 寿司サーモンとろろ蕎麦
4/4

赤誇る

  周囲はとても賑やかだが一部だけ静寂に包まれている。


(もしかしてとんでもない事を僕は聞いたのか?)


 外面上はポーカーフェイスだが、内心少し慌てている。


「お前、本当に【煉獄】を知らないのか?」


 ロイは怪訝な顔で尋ねる。

 良く見るとフィーネも驚いた顔をしており、リアナに至っては最早殺意すら感じる程の睨みを効かせている。


 この雰囲気の中で教えてもらうには少し抵抗を感じるがーーー


「名前は聞いた事はあるけど……ごめん、【煉獄】もフリードマンもちゃんとは知らない」


 無知を嫌うヨシュアは自身の知識不足を認め、素直に教えを乞う。そんないつも通りの姿にフィーネは驚いた顔から世話の焼ける弟を見るかの様な優しげな表情で、ヨシュアを見つめゆっくりと諭す様に話した。


 ーーー曰く、【煉獄】とは現フリードマン家当主ディアグラン・レグ・フリードマンの別称であり、クィーネルド王国が誇る三大将が一人、【煉獄】の名の通り炎の《心纏》ーーー自身の魂を魔力を使い形として出す力ーーーを持ち卓越した剣術との連携は王国随一の突破力を持つ。


 そしてフリードマン家は貴族でも無いにも関わらず貴族の伯爵級の権力を王家から認められ保有している武家である。


 フリードマン家の歴史はクィーネルド王国が小国だった頃に遡るほど古い。まだ竜という生き物が生存していたとされる、最早文献でしか確認出来ないほどの時代にクィーネルド王国に竜が襲来した。


 土地も資源も少なく金を軍事や魔術に回せるほど余裕が無かった王国は滅亡の危機に瀕する。高名な騎士や腕自慢の戦士たちが挑むも悉く喰い殺されていく。


 王は最早この国を捨て何処かに亡命するしか無いと考え覚悟を決めようとしていたその時、ただの剣術道場を営んでいた無名の女剣士が竜討伐に名乗りを挙げた。その剣士こそが後の初代フリードマン家当主アトセリス・フリードマンである。


 アトセリスは無名といえど剣士としては紛れも無い実力者、だが竜の鱗の前に刃は棒切れ同然だったのだ。しかしアトセリスは言った、絶対に負けない、必ず竜を狩ると。何故竜と闘える自信があるのか、それは彼女にはある力が扱えたのだ。


 この時代では摩訶不思議な力だが今で言う心纏が使え、剣に炎を灯しアトセリスは竜と死闘を繰り広げた。


その闘いは今なお史実や童話として語り継がれるほど有名となる。


 死闘の末アトセリスは竜を見事討伐する事が出来たが、アトセリス自身も重傷を負い勝利後間も無くこの世を去ってしまう事となる。


 亡くなる前にアトセリスはある遺言を遺したそうなのだが、それを知るのはアトセリスの夫と娘しかおらず永遠の謎に包まれている。


 その後当時の王家は国を救った英雄の一族に功績と感謝の意を込めてフリードマン家に竜狩りの名レグと王家直属の護衛の任、そして三本の王命の証、通称三王剣の一本をフリードマン一族に授けた。


 その後三代目当主となったアトセリスの娘が孤児などを引き取りフリードマンの名と剣術を与え、初代の親族を纏め上げフリードマン一族を作り上げた。


 現在のフリードマン家は王家からは絶大なる信頼を寄せられ、王に仕える最高の騎士としてクィーネルド王国に君臨しているーーー


「これが私の知ってる【煉獄】とフリードマンの歴史だよ」


 語り終えたフィーネはふぅっと息を吐いた。隣にいるロイは何故か頷いており、リアナは腕を組み得意げな表情を浮かべている。そしてリアナが補足するかの様に続ける。


「因みに私達は政治に介入しない事を義務付けられているわ、その強さから政治を曲げる恐れがあるとか、そんなくだらない事で怖がるなんて本当馬鹿みたい。

 あとフリードマン家当主になるにはアトセリス様に倣って赤い髪と最も強い事が条件よ、本家と分家も併せて序列が一番じゃないと当主になるどころか現当主と代替わりの試合をする事も出来ないわ」


 リアナは勝ち誇る様な笑みをヨシュアに向ける、その笑みを向けられたヨシュアは何故か一瞬心臓が高鳴りを起こした。


「だからお父様は一族最強なの!王国随一の突破力?違うわ、王国最強の騎士よ!」


 リアナが高らかに、自信満々に宣言したと同時に落雷の様な体の芯にまで響く様な太鼓の音が辺りに鳴り響き、続けて計三度太鼓が鳴った。……太鼓が鳴った瞬間リアナが体を震わせキャッと小さく悲鳴を上げたのは触れないでおこう。


 その後中央通りの入り口側から歓声と凱旋のファンファーレが聞こえ、音は次第に近づいてくる。


 音が近付くにつれ熱気が強くなり、あまり関心が無かったはずのヨシュアやフィーネでさえその熱気に当てられ心が熱く躍る、ロイに至っては興奮を通り過ぎ某然としている。


 ゆっくりとだが眩しく力強くとても重い存在感が近づいてくる。遠目でも幼くても、ただこれだけは確実に分かる、彼等は確実に強く大きいと。


 徐々に姿が見え始めた、最前線から来たのは多くの兵士が徒歩、もしくは馬に乗り行進するなか二頭の大きな牛に引かせた戦車に乗る大柄な初老の男性。

 初老の男性が近づくにつれ人々は更に歓声を上げ盛り上がる、その姿はまるで巨大な岩山の様にも見えた。


 酒を片手に大声で陽気に笑う姿は正に豪快、身体は歳を感じさせないほど逞ましく、腕から見える数多の裂傷跡はその者の武勇を語るには充分すぎる。気が抜けている様に見えるがもう片方の手にはしっかりと己の得物、斬馬刀を握り締めている慎重さ。


 紛う事無き英雄の姿だ、目を離すことなど出来はしない、彼の引力に惹かれ闘争心が煽られる。軍人というより戦士の方が似合う彼の姿を見た瞬間ヨシュアは身体に流れる血がドクンと熱く脈打った事に気付く、彼と共に闘いたい、隣に立ちたいと強く思ってしまった。


「これが…英雄…」


 無意識のうちにヨシュアは呟き、英雄の姿を目に焼き付けていた。



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