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異世界モノレール  作者: 花村有希
おはようモノレール
4/6

おはようモノレール 3

白森と俺は、並んで改札へ向かっている。改札でいろいろと手続きをしてもらえるらしい。

いろいろと不満はあるが、規則ならば仕方がない。けれどあまり割り切れることもない俺だった。


コトンコトンと足音が響くだけの沈黙に押し切られた俺は口を開く。

「この駅、全体的に古いんですね」

木の柱、木の床。新しい白色ではなく、使い込まれた艶のある茶色の駅舎を見ながら俺は言った。

「いや?そうでもないんだよ~」

「えっ?あ、すいません」

なにか白森の気を害したかと思って顔色を窺うが、白森の顔は制帽に隠れて見えなかった。隣を歩いていた白森はある一本の柱の前でクルッとターンしてニヤッと笑った。

「この柱を見てごらんよ」

俺は言われるままに丸い柱に近寄って、触れる。じっくりと見る。

「…?」

白森がなにを言いたいのかがよくわからない。首を傾げて白森を見ると、白森は首を横に振った。白森は子供のような笑顔だった。

「だめだめ。そんな簡単に答えはあげられないなあ」


俺は目をつむって普通の木の柱を想像してみる。茶色くて、細長いやつ。目を開けて目の前の柱を見る。…全然違いがわからない。ではこの柱自体になにかがあるのか。柱にそっと触れてみる。つるつるとした表面をススッと撫でてみてもよくわからない。

(音かなあ…?)

耳を柱に近づけて、ピトッとくっつける。残念ながら音はぜんぜん聞こえない。俺の手が柱をこする音だけは聞こえたが、他にはなにも聞こえなかった。ふんわりと暖かい電灯に照らされた飴色の木肌は滑らかで艶やかで、ちょっと懐かしい風に感じられた。やっぱりこの駅は古そうだ。


「んー、じゃあヒントをあげようか」

俺は柱から手を離して白森の方を向いた。すると白森は困ったように微笑む。そして首を横にふるふると振って、手をひらひらとさせた。

「やっぱりダメだ。まだ教えられない」

別に気にならないし、なんて心で思いながら俺は首を傾げる。

俺の顔を横目でちらりと流し見て、白森は言う。

「君の顔は楽をしたがってる。そうだねえ、今は君にはヒントや答えがもらえない意味がわからないと思うし、楽をしたがってるってどんなことかもわからないだろうね。君、学生だろう?…ふふ、見ればわかるさ、いろいろとね」

いたずらっ子のような笑みを浮かべる白森の方がよっぽど子供みたいだ。あの独特の気品がなければ高校生だと言われても疑わない。白森は腰の鞄から手帳を取り出しつつ通路を曲がる。俺は話を聞きながら白森の後に続いて曲がる。通路の先に改札が見えた。

「君をちゃんと向こうの東京へお返しはするさ。これは約束だからね。でも、人生の先輩から一つアドバーイス!」


白森は真っ白な髪の毛をきらきらとさせて俺の方へ振り向いた。色素の薄い青色の目が光を受けてきらめく。長い睫毛と高い鼻。余裕のある微笑みは気品をたっぷり含んでいる。

「限界まで、限界まで何事もやりきることさ。やって後悔をするほうが、やらないで後悔するよりもすがすがしくて、未来を向ける」

深い声色でそう語った白森はにっこりと笑った。少し優雅な満面の笑みは、胸をときんと揺らした。この不思議な駅長の年齢や性別は分からないけれど「女神みたいだ」と思った。


「なんだか偉そうに長々と語ってしまったけど、ここでさよならだね」

手帳をパッと開いた白森はその中の一ページを千切る。千切られた白い紙は白森のなめらかな手で四つ折りに畳まれた。白森はスッと素早く俺の右手を取ると、大きくはない紙片をこの手に握らせて指を折りたたんだ。そんな動き一つにもドキリとさせられるものがある。

「それ、絶対に落とさずに持っていてね。君は歩いてきてくれればいいよ」

白森は初めて会ったときにも見せたあのスピードで走って、目の前の自動改札の右手、駅員のいる改札へ行き何かを話し始めた。俺は突然目の前から消えた白森に多少驚きながらも、言われたとおり歩いて白森の方へ向かった。白森に言われたことがさっきまでは少し気になっていたけれど、改札全体を視界に入れることになった俺は、その景色に興味を丸ごと持って行かれた。


駅構内で人は見かけなかったけれど、改札前には十人ほどの人が居た。彼らはこことは違う世界に向かっていくのか、やってきたのだろうけれど、みんな普通の人と変わりなく忙しそうで面白い。

俺が想像していたような、動物が二足歩行をしている!みたいなことはなくて、少し残念だった。少しの間立ち止まって改札全体をじろじろと眺めていたら、横から歩いてきた黒いスーツのおじさんとぶつかってしまった。「すみません…」なんて小声で言い会釈すると、おじさんも軽く手を挙げて俺に挨拶して去る。なんて普通なんだ。

あの人間離れした容姿と斜め上を行く性格の白森駅長を見てしまったから、余計に期待していたのかもしれない。異世界住人という個性的な人を見られるんじゃないかと。この駅の自動改札も至って普通の切符を入れるもので、特徴がこれといってない。ご丁寧にICカードも対応のようだ。

せっかくの貴重な休みに東京都心を高校時代の友達と散歩しようと思ったらこの迷子だ。見られたものと言えばこの古めかしいけど暖かい木の駅舎と、超美形な性別不詳駅長。オマケとして異世界探訪が付いてくればどんなに幸せかと思うとむなしい。ふらふらと考えるのをやめて、俺は駅員と白森の方を向く。


白森は依然として駅員と話し込んでいるが、あの気品の残る無邪気な笑顔だ。俺が駅員室に着いた瞬間に白森は俺の方に向き直って手招きする。俺が近寄ると、駅員を手で示す。

「彼が駅員の間場(まば)君。彼が君を最終的には送ってくれるよ」

そして、俺を手で示す。

「で、彼が迷子の阿澤君。東京に用事があるそうだから、送ってあげてね」

間場は俺にかっちりとお辞儀をする。俺も慌てて頭を下げる。間場は手を出して俺に握手を求めてくる。俺も手を出そうとして、右手の紙片に気がついた。「彼には私から通行証を渡してあるから左手で握手してあげてね」白森から間場へ一言告げられ、間場は失敬と呟きながら左手を俺に差し出した。ポケットに仕舞おうとしていた通行証、多分通行証の紙片を右手に握り直して左手で間場と握手する。


「ゴメンよ。君が所望していた異世界への案内ができなくてね」

白森は帽子を片手に持ちお辞儀をした。後ろでゆわかれたきらめく髪の毛が肩からこぼれ落ちる。

「いえいえいえ!とんでもないです。俺こそ、わがまま言ってすみませんでした」

本当は今でもとっても行きたいけど。

「我々の仕事は、お客様を様々な世界へお連れすることだからね。君を連れていってあげられなかったこと、とても残念なんだよ」

顔を上げてそう言った白森。少し乱れた髪をかきあげ、帽子を被り直す。

「いや、全然。俺はまた正規の方法でここへ来ますから、そのとき連れてってくださいよ」

また来られるかなんて全然わからない。でも、俺の異世界欲がある限り行けるような気がする。

「私もそれを望んでいるよ。さっき君に渡した紙は通行証なんだけれど、それを見せてくれれば私はすぐにわかるからね。好きなところへ連れて行くよ」

白森はニッと笑って、それから間場へ合図した。間場はそれを見て有人改札を開ける。

「それでは吾澤様、改札をお通りください。手順は全て済ませました」

俺は間場に頷いて、白森を見た。

「駅長は出ないんですか?」

間場が間髪入れずに「駅長は出られません」と告げて、俺を促す。白森は少し悲しげに笑っていた。あの気品ではなく、哀愁が白森からにじみ出ていた。

「私とはここでお別れなんだ。短い間ではあったけれど、阿澤君を案内できて楽しかったよ」

「白森駅長…ここまで、ありがとうございました。絶対また来ます!」

白森は手を振って首を何度も縦に振った。俺はその真っ白な笑顔を目に焼き付けて、再会を願いつつ改札を抜け──────────────────────────



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