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宴会芸

このお話は別視点、敵キャラ魔王カルステンのお話です。

 時を遡ること、一日前。


 サラーン平原にて、カルステンと別れたコボルトたち。遥か遠くの森へと逃げていく自らの主を眺めている。

 カルステンは完全に視界から消えてしまった。もう、彼はこちらのことを見ていないだろう。


「……行ったか?」

「ああ、いったな。もう見えねぇよ」


 コボルトは懐から筒状のものを取り出した。中にはキラキラと輝く粉が入っていて、それを自らの体に振りかける。

 魔具、〈幻惑の鱗粉〉。

 カルステンが配下に与える魔具は、戦闘において役立つものばかりであり、こんなものをくれることはまずない。この魔具は彼の隙を見てコボルトが盗み出したものである。


 コボルトは魔具を使い怪我をした人間に化けた。それに呼応し、近くにいた他の魔族たちは少し離れた丘の茂みへと身を隠す。

 しばらくすると、冒険者たちが追い付いてきた。

 

「お前、どこの冒険者だ? 怪我は大丈夫か?」


 完全に人間の姿をしているコボルトの正体に、冒険者たちは気がついていない。先走って前に進んでいった自分たちの同胞だと思っているのだろう。


「俺のことはいいっ! それよりも、あっちだ。あっちに魔物たちが逃げて行ったぞ。追ってくれ!」


 彼が指をさした先。それは、先ほどカルステンが逃げて行った方角だった。冒険者たちは一斉にそちらへと向かっていく。

 後に残されたのは、人に化けたコボルト一人だけだった。


 コボルトたちはガッツポーズをした。


「よっしゃあああああっ! これであいつ一人犠牲にして逃げれたぞ!」

「馬鹿、あんまり大声出すなって。冒険者たちに聞こえるかもしれねーだろ」

「ああ、すまねぇ」

 

 コボルトたちは声を潜めた。


「ったく、人間がせめてきたときは死ぬかと思ったぜ。あの目玉と心中なんてごめんだからな」

「ああ、そうだな。でもまあ、こうして生き残れたんだから……気分がいいぜ」


 突然、コボルトが両脚を丸めて両手を伸ばした。脚を封じ、手だけ動かしているその姿は、彼が宴会などでよく行うカルステンの物真似だ。


「『僕の名前はカルステン。ええ、なんで冒険者がこっちに来るの! 助けてぇ、パパーママー』」

「ちょ、お前似すぎ。あいつにそっくりじゃん。止めろって、マジ笑えて腹がいてぇから」


「「あっはっはっはっ」」


 コボルトたちは、笑いながら西へと逃げて行った。



 僕は見聞きしていた。〈王の目〉〈王の耳〉を用いて、すべてを。


 疑っていたわけじゃなかった。冒険者たちの動向を確認しようとしていた、それだけだった。

 本当に、感謝してたんだ。慕われていたんだって、頼られていたんだって……感動してたんだ。

 でも……そんな僕の感謝と感動は、幻だった。


 結局のところ、僕は逃げ切った。

 僕なら魔具を駆使して逃げることができる。確かに冒険者たちは追手としてこちらにやってきていたが、姿を消す魔具や幻を見せる魔具を持っているため問題にはならなかった。


 冒険者が打ち漏らした魔物たちはヨハネスの配下が捕らえる。初めからそういう手筈だったらしい。だから結局、追手を欺き逃げ切ったはずのコボルトたちは……捕虜になってしまったわけだ。

 僕はこれ以上ヨハネスと小競合いを続けるつもりなんてないから、直接彼を倒そうとしてここまでやってきた。

 それが、これまでの経緯だ。

 こんな結果になるなんて……思ってもみなかった。


 命乞いをするコボルトを無視して、僕は言った。


「殺せば? そいつ、僕の仲間じゃないし」


 躊躇なんてない。そもそもここに来たのだって、こいつらを助けるためじゃなくてヨハネスを倒すためだ。


 コボルトは顔面を蒼白にして息を詰まらせた。この世の終わりとで言いたげだ。

 いや事実、彼は今絶望の淵にいるのだろう。逃げ切ったつもりだったのにヨハネスに捕らわれ、頼みの綱である僕からも見放されてこの結果なのだ。

 多少同情はする。

 でも、こいつらは裏切り者だ。


「こ…………」


 コボルトが目を血走らせた。


「こんんんんんのおおおおおおおおおおおおクソ目玉がっ! てめぇなんて魔具がなけりゃ何もできねークズじゃねーか! 俺たちが! あんたの! 魔具を使ってやったからここまで成り上がれたんだろうが!」

「……それが本音かな?」 

「誰がお前なんかの仲間になるか! 俺だってな、選ぶ権利はあるんだぜ」


 突然、彼はヨハネスの方を見た。


「魔王ヨハネス様! 俺、あんたに仕えます! いい魔具持ってるんですよ。絶対役に立って見せますから、だから――」


 言葉は、しかし最後まで続くことはなかった。コボルトを捕らえていたナーガが、その鋭い牙を首に突き立てたのだ。


「あ……が……」


 コボルトは死んだ。呆気ない……最後だった。


「無能なルーザーの悲鳴は耳障りですね」


 人質として価値のない弱者。魔王ヨハネスにとって生かしておく意味はない。


「次は僕がそうなるのかな?」

「小生の配下になるのです、イービルアイ」


 意外な申し出に、僕は一瞬だけ固まってしまった。

 配下? 僕が?

 罠? 何のために?


「見事ハンターから逃れ、こうして小生の首を取りに来たあなたはまぎれもなく切れ者。優秀な魔族が必要なのです」


 いや、ここで罠を張る意味なんてない。


「お前は僕の村を滅ぼした。仲間になるなんて……できるわけがない。どうしてお前は、僕たち一族を……」

「魔王はパワーを示さなければならない。あなたの村は、そのためにサクリファイスになったのですよ。それ以外の意味なんてありません」


 なんだって?


「そんな、パフォーマンスのために僕たちは滅ぼされたの?」

「あなたもいずれ分かりますよ。舐められれば裏切られる。いえ、もう理解してるはずですが……」

「…………」


 さっき、手痛い裏切り劇を見せてしまった手前、反論することができなかった。あのコボルトだって、僕が恐ろしく優秀な存在だって思っていたなら、あんな態度はとらなかったはず。

 結局のところ、僕が未熟だったってことか。


「仕方ないですね、これは仕方ないです。これ以上デンジャーなあなたを生かしておくことはできないのですよ」


 瞬間。

 ヨハネスの黒鎌が、僕の右腕を切り裂いた。


魔王カルステン視点、長い。

この小説のバランスが崩れそうなほどの長さだ。

あと、3~4話でいったん休憩といったところでしょうか。

それまでお付き合いください。

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