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世界は魔具で溢れている

このお話は別視点、敵キャラ魔王カルステンのお話です。



 世界は魔具で溢れている。


 例えば、霊験あらたかな大岩。

 眺めていると心が落ち着く大木。

 所有者には必ず不幸が降り注ぐ呪われた絵画。

 

 これらは皆、魔具なのだ。

 僕は鑑定スキル〈叡智の魔眼〉によって理解してしまった。この世界には溢れるほどに魔具が存在することを。

 それは何となしに人々によって重宝されていたり、あるいは誰にも気付かれることなく自然の中に放置されていたり、はたまた加工されてメガネや時計のような形になっていたり。


 僕はそれを集めた。

 自らの身を守るため、もう二度と大切なものを失わないように、誰からも痛めつけられないように。

 道具はいつか、力となり。


 僕は一勢力の王になってきた。



 ここは魔王イルマ領とヨハネス領の境界。グルガンドのやや南側に位置する平原地帯。

 岩場近くにある洞窟が、僕の城。

 綺麗に削られたその洞窟に一室は、この地の王である僕の部屋。

 僕は玉座っぽい椅子に座っていた。といっても脚のない僕だから、座るというよりそこに乗っていたというのが適切かもしれないけど。

 うーん、この見た目。どれだけいい椅子に座っていても、所詮は目玉だけの魔族である僕。はっきり言ってかっこ悪いことこの上ない。


 僕は周囲を見渡した。

 スライム、ゴーレム、コボルト。種族は様々だけど、みんなレベルが低い。魔王イルマに属するには弱く、ヨハネスからも爪はじきにされた弱き者たち。


 一匹のコボルトが僕の前に来て、片膝をついた。


「カルステン様、東の魔王イルマとの交渉は終わりました。終始こちらを見下す態度でしたが、一応は相互不可侵ということで話がまとまりました」

「それはよかった」


 交渉の内容は想像がつく。きっと鼻で笑いながら『あーはいはい俺ら手を出さねーから』って感じに言い放たれたんだと思う。

 あいつらは力に執着している。弱い僕たちには興味がないんだ。だからこそ、奴らにとっての無視不干渉がこうして交渉として成り立つ。


「加えて、西のヨハネス領には我々の軍が侵攻、一部の領地を制圧しました。すべてはカルステン様が下さった魔具のおかげです」

「僕は武器を与えただけ。頑張ったのは君たちだよ」

「そのような事を仰らないでください! カルステン様こそ我ら弱き者にとっての救世主! 誇りに思ってください」


 まるで神を称えるかのようなその物言いに、僕は何とも言えない気持ちになってしまった。


「カルステン様は我らの憧れ。世界のすべてを見通すと称させるあなた様の美眼、今日もお美しくそしてたくましい」

「そんなー、褒めても何も出ないよホント」

「カルステン様に栄光あれっ!」

「「カルステン様万歳っ!」」


 皆が口々に僕を称え、部屋から出て行った。

 一人、ぽつんとこの場に取り残された僕。

 僕はそっと目を閉じた。


 ――魔具〈王の目〉、〈王の耳〉起動。


 この魔具は盗撮、盗聴に優れている。設置した場所からの音と映像を直接脳内に転送することができるのだ。

 僕はそれを使って、今、この部屋から出て行った部下たちの様子を観察した。


「っはー、あの目玉相手するの疲れるわマジで」


 疲れた様子で両腕を伸ばしているのは、先ほどまで僕を美辞麗句で称えていたコボルトだった。


「おつかれーっす、先輩。いっつもいっつも大変ですよねあいつへの報告。笑い堪えるのが必死ですよね」

「マジそれな! 『美しい』とか、『たくましい』とか言っちまったよ俺。しょーじきさ、あのビジュアルでそれはねーよな。気持ち悪くて気持ち悪くて」

「つーかマジきもくね? あいつがピョンピョン跳ね飛んでるところ見ると、ボールみたいに蹴り上げたくなってくるんだよな」

「まあキモ目玉崇めてたら魔具貸してもらえるわけだからな。馬鹿とカルステンは使いよう、ってか?」


「「あっははははっ!」」



 僕は〈王の目〉、〈王の耳〉からの情報を遮断した。

 …………。

 分かってるんだ。

 みんな僕を馬鹿にしている。魔具の力がなければ何もできない、ただのクソ目玉だって思ってる。

 こいつらみんな、僕の魔具が目当てなんだ。


 でもそれは、仕方のないこと。

 魔王にとっての魔法が、僕にとっての魔具なんだ。

 たとえば魔王イルマだったら、その絶対的な力が多くの尊敬を集めている。魔法だけじゃない、確かな実力がそこにあるからだ。

 でも僕には何もない。体は醜く、力もなく、頭も決していい方じゃない。ただレアスキルに恵まれて、宝物を多く持っているだけ。

 僕には……何もない。


「…………」


 だから、僕は考えたんだ。

 どうすればこの状況を抜け出せるか。こんな打算だけの仲間じゃなくて、本当に僕が尊敬されて……醜い体を笑われないようにするには何をすればいいか。

 おぼろげながら、その指針は見えてきている。 

 でも今はまだ、必要なものもタイミングも揃っていない。


 なんて、暗いことばっかり考えてるな僕。

 ここにいると気分が悪くなってくる。お姉さんに会いに行こう。

 僕はこっそりと洞窟から抜け出した。



 カルステン領西方、タターク山脈中央部。

 荒地の洞窟には、ヨハネスの居城が存在する。

 

 青の知略王ヨハネスはヤギの魔族である。巨大な角は禍々しく、体は決して屈強ではないものの老獪なしたたかさとその政治手腕から多くの配下と領地を所持している。

 魔王イルマと事を構えることはしない。しかしそれ以外の周辺領地は拡大傾向にあり、隆盛を誇る魔王なのである。


「ヨハネス様、ただいま戻りました」


 窓の近くで外を眺めていたヨハネスに、一匹のオーガが駆け寄ってきた。

 伝令にと派遣したオーガだ。ヨハネスは彼を指さし、高らかにこう言った。


「エクセレントですよ君! グルガンドからこの地まで、平均的なオーガの脚力を考慮するに往復40時間を費やします。しかし、君は実に38時間43分でこの地に戻ってきました。これは今までどのオーガ族でも成しえなかったことであり、過去最高記録を更新しました。小生は君を称えます。コングラチュレーション!」

「ははっ、ヨハネス様。ありがとうございます」


 ヨハネスはこういった仕事で優劣を決める。優秀な魔族であればいい領地と相応の身分を与え、劣った者には劣悪な住処と蔑視を与える。実力主義といってもいいだろう。


「それで、件の新勢力の件は?」


 新勢力。

 このオーガには現地で諜報活動を行う魔族たちの伝令を頼んでいた。グルガンドの南方に突如として現れた謎の新勢力は、ヨハネス領にたびたび侵攻しその領地を奪っているのだ。


「はっ、ご報告いたします。サラーン平原の洞窟を根城とした新勢力は、弱小魔族たちから構成されその数は3000を超えています。リーダーはイービルアイ。魔具を多く所有しており、それによって勢力を拡大しているようです」

「なんとっ! なんということでしょうっ!」


 ヨハネスは体を震わせた。恐怖からではない。自らの理解を超えた事態に驚きを隠せなかったのだ。


「ああっ、アンハッピー。あのイービルアイに生き残りがいたとはっ! そして反抗するだけの力があったとは……」


 ヨハネスは頭を抱えた。単純に新勢力ができたという話なら、懐柔させたり脅したりといった手がある。しかし相手は未知数の魔具を使用し、おそらくはヨハネスに恨みを持つ者だ。

 一筋縄ではいかない。


「こちらも手を考えなければなりませんね。君、分かっていますね?」

「それでは、 いつもの (・・・・)やり方でということですね」

「然り然り、小生は部下思いでありますからね。勝率は22%といったところですが、まずまずの打撃を与えられるでしょう。そう、物事はエレガントにっ、エフィシェントに!」


 ヨハネスは笑う。

 すでに勝利への道筋は開かれている。

 魔王たるヨハネスに、油断も隙も存在しない。


僕の英語力はしょぼい。

しょぼいのです。

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