運命の人
魔王カルステンと対峙する俺。
「アクセル、コンバート、エクスプレッション」
精霊剣の起動式を唱える。
「スキル、〈風竜の牙〉レベル1000」
まずは小手調べ。
最大レベルのスキル〈風竜の牙〉が生み出した巨大な風の刃が、カルステンへと迫る。
奴はそれを避けようともせず、直撃する。
ほこりが宙を舞った。
壊れかけの窓ガラスが吹き飛んだ。
カーテンはボロボロに千切れとんだ。
レベル1000のスキルというだけあって、それ相応の威力はあった。しかし、視界が明けたそこには、カルステンが立っていた。
まったくの、無傷。
「魔具、〈断絶の鎧〉。この鎧はね、あらゆるスキルを防ぐことができるんだ」
「……反則だろ、それ」
あの鎧はスキルを防ぐ魔具だったようだ。なら、こちらの攻撃スキルは奴に通用しない?
「さあ、今度はこっちからいくよ」
見た目はただの槍。重々しい金属が蛇のように柄に巻き付いた形をしている。
おそらくは、何らかの魔具。
俺は彼の槍を剣で受け止めた。
重い。
「魔具、〈破滅の槍〉。この槍はあらゆるものを貫通する」
カルステンは自慢げに自らの槍を見てそう言った。言葉通りなら、剣どころか俺の鎧やその下の肉すらも引き裂いてしまう恐るべき武器である。
だが俺の剣は奴の槍を捕らえたまま、跳ね返した。
もちろん、壊れてはいない。
「言うほどには、俺の剣は壊れてないみたいだが?」
「君の剣――〈降魔の剣〉は最高レベルの魔具だよ。僕の持っている武器程度では,どうにもならないほどにね」
前々から思っていたことだが、この〈降魔の剣〉はかなりレベルの高い魔具らしい。魔具博士のカルステンが言うのだから間違いないだろう。
俺たちは、互いにとりとめのない会話をしながら剣と槍を打ち合った。
奴の槍を受けながら、思う。
魔王カルステンは強くない。
強さが精錬されていない。一つ一つ、魔具によって強化されたジャンプや攻撃は脅威だ。しかし彼には、致命的なまでに戦闘センスが欠落している。
素人の動きだ。目を追い、一瞬の動作を見逃さなければ避けることはたやすい。猪武者、というのは言い過ぎだがそれに近い動きをしている。
慣れていないがゆえの、稚拙さ。おそらくこうして近接戦闘を行った経験が少ないのだろう。
加えて、俺にはクラーラの残した〈大精霊の加護〉がある。精霊たちの未来予測は、近接戦闘において絶大な力を発揮する。
おそらく、マティアスは不意打ちをくらったんだろうな。あいつレベルでこの男を倒せないはずがない。
「もらったっ!」
俺はカルステンを切り付けた。真っ二つに裂けた奴の体は、しかし幻であったかのように一瞬で消えてしまう。
「残念だったね」
「……っ!」
後ろを振り返ると、そこには五体満足のカルステンが。
「魔具、〈幻惑の鱗粉〉。君が僕だと思って攻撃したのは、イルマ軍傘下の魔族の死体。残念だったね」
「騙したのか」
遊ばれている、この現状。
当初の予定では油断したところを襲い掛かるつもりだったが、やはり正攻法で戦うとなると分が悪い。
逃げるか? いや、こいつが逃がしてくれるとも思えない。
攻め込むのみ。
再び、剣と槍の応酬。
俺の剣が、カルステンの鎧を貫いた。肉には達していないが、肩部の一部が壊れる。
やはり、効いているようだ。
スキルが効かなくても、魔具である〈降魔の剣〉には効果があるらしい。
「君は何のために戦ってるのかな?」
ふと、カルステンがそんなことをつぶやいた。
何のために戦う、か。
クラーラの敵。
王国を救う。
勇者になる。
いろいろな目標が頭を掠めた。
俺は目的があってここにやってきたわけじゃない。金稼ぎや身にかかる火の粉を払うために戦ったことも多い。だから、何かあるたびに目標や考え方が変わって、こうして今に至っている。
「分からないな」
「へぇ」
体系づけて説明することは難しい。だが、こうして今、俺がこいつと戦っていることは……必然だ。
「だけどな、お前は俺の大切な人を殺した。そしてお前の存在は人間にとって脅威だ。俺はお前が悪だと思う。そこに変な理屈付けは、いらない」
「ふーん」
カルステンは、感心したようにこちら見た。
「その答え、いいねぇ。気に入ったよ」
「お前に気に入られても、嬉しくない」
「やっぱり君だな、君の顔を見た時にね、これだって思ったんだ」
「どういう意味だ?」
「ふふふ、君は僕にとって、運命の人だってことだよ」
そう言って笑うカルステン。
俺はそんな彼を切り伏せた。
何の手ごたえもない。ただの人間を切ったような感触。〈降魔の剣〉は何の抵抗もなく彼を真っ二つにしてしまった。
勝利?
そんなわけがない。
油断してはならない。こんなにあっけなく決着がついてしまうなら、カルステンは俺をここに呼び出したりはしない。
おそらくは幻覚、あるいは身代わり系の魔具を使いこの場を凌いでいる。
俺は身構えた。背後? 天井? あるいは地面? いずれやってくるであろう魔王カルステンを迎え撃つため、全神経を集中させた。
呼吸や心臓の音すら、煩わしく聞こえた。今、俺はまさに『静』という状態を体現している。
奴の動きは、かすかな音でも逃さない。
「……?」
違和感を覚えたのは、二分ほど経過した頃だろうか。
反撃が、来ない。
というよりも、まるでカルステンの気配を感じない。
目の前に倒れているカルステンは、二つに裂け血を流し絶命してるように見える。背後からの反撃なんてない。物音ひとつしないこの部屋に、俺とカルステンの死体がただ佇むのみ。
「まさか、逃げられた?」
シャリーさんのように自らの分身であるホムンクルスのようなものを用意し、逃げたとしたら?
「どこにいるっ! カルステン!」
俺は駆け出した。
まさか、逃げられてしまうなんて思ってもみなかった。これが最終決戦になると思っていただけに、とんだ肩透かしだ。
どこに逃げたのか知らないが、必ず見つけ出してやる。お前は必ず……俺が倒すっ!
俺は偽物を切り、本物のカルステンは逃げ出した。この時はそう思っていた。
でも、違ったんだ。
俺が切り伏せた魔王カルステンが、まぎれもなく本物だった。
そう、俺は魔王カルステンを倒していたのだ。
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でも評価くださいとか、あまり言わないようにしてます。
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「意味不明で感想書けないわ」とか言われそうで(震え声)
でもやっぱり、何らかの反応がないとやる気なくなりますよね。
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