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戦いの結末

 ――オリビアを倒して57回目。


 閃光王パウルはその名の通り光線のような速度で大森林を駆け抜けた。俺は知り得る限りのスキルを駆使して、戦いを優勢に進めていった。


「スキル、〈風竜の牙〉」


 もはや刃というよりも竜巻にすら等しいその一撃をオリビアへと激突させる。

 上手くいっていた。

 パウルの奥の手は効果的に作用したのだ。俺に魔具を渡し、己は魔法を使い身体強化するという作戦自体はとても正しかったと言える。

 だが、それもここまでだった。


「……っ!」


 すでに俺の目にはオリビアは映っていない。彼女の移動速度は光の速さにも等しくなり、俺が追えるレベルではなくなっていた。

 パウルが足止めしているときにスキルを放って援護するが、それ以上のことはできない。

 しかし――


「……ぬわっ!」

 

 そのパウルもまた、オリビアの強化による限界に突き当たっていた。交錯する二つの閃光は、片方が弾かれ勢いを失っていく。

 パウルが地面に着地した。そのシャツは痛々しく破れ、吐く息は荒い。


「大丈夫か? パウルさん」

「……これは、中々に」


 魔王エグムントの従者――仮面の男との会話、加えて過去の統計が指し示すオリビアの再生回数は85回。完全に敵を倒すまで、まだまだ道は長い。

 にもかかわらず、この苦戦。

 すでにレベル1000越えのスキルを大量に放っている。パウルの力も限界だ。

 そして、気を取られている俺たちは、予定調和ようにオリビアの素通りを許してしまう。


 彼女を迎え撃つのは、クラーラだ。


「精霊たちよっ!」


 いつの間にか、クラーラの周囲にはボールようのな球体がいくつも浮かんでいた。そこから、極太のレーザービームのような光線が放たれる。


 これは、精霊砲?

 光の球体が放ったエネルギー砲は、かつて魔王バルトメウスが見せた精霊砲に似ている。

 だがその威力はけた違いだ。錬金術の力で無理やり精霊を押し詰めた精霊砲と、彼女たちの力を借りて一点に力を凝集したクラーラの力。後者の方が出力は高いらしい。

 壁のように大気にひしめく精霊の力。オリビアはその力を直接受け、後退を余儀なくされてしまう。

 

 だが広範囲高出力の攻撃がそういつまでも続くはずはない。クラーラは額に大粒の汗を浮かべ、オリビアと対峙している。


「…………」


 駄目、なのか? 

 俺が、そして魔王二人が協力して対抗しても、オリビアは倒せないのか? どれだけ抗っても、クラーラが死ぬ運命は覆せないのか?

 何か方法はないのか?


 俺は……。

 無力にこのまま、クラーラが死ぬところを眺めていなければいけないのか? 何も成せず、何も成そうとせず、英雄だ副王だとうたわれ領主としてふんぞり返る異世界生活。

 反吐が出る。


 女の子一人守れないで何が英雄だ! そんなかっこ悪い人生なんて、こっちから願い下げだ。

 俺は今日、この場で彼女を救って見せる!

 それが俺の、この世界で生きる意味だ! 


 その想いが、嘆きが。


 一つの奇跡を生んだ。


「……かっ、はっ!」

 

 オリビアの動きが止まった。


「……おお、おおおおおっ!」


 その隙を逃さず、パウルがオリビアを叩き潰した。


 ――58回目。


「ヨウ殿、何をしたのですかな?」

「気にしなくていい。少し思いついたことがあっただけだ」


 片腕のガントレットを外し、肌を露出させていた俺はそう答えた。


 そう。

 今まで、俺は精霊剣によって強化された攻撃スキルにのみ増幅魔具を使用していた。だがそれ以外にももう一つ、有効な使い道があったのだ。


 俺の〈モテない〉スキルを増幅すればいいんじゃないか、と考えたのだ。


 結果は今見たとおりだ。オリビアに、俺の〈モテない〉が効いた。

 彼女は特別なんかじゃない。ただ、俺のスキルが相応のレベルに達していなかったから……通用しなかっただけなんだ。

 思いついたのは偶然だった。真剣勝負のさなかに、こんなギャグみたいな迷惑スキルが通用するかどうか試そうなんて……今まで思いもしなかった。

 パウルの協力、俺の閃きがなければ……ここまでたどり着けなかっただろう。


「……うっ」


 後ろからえずく声が聞こえる。

 ……っと、忘れた。どうやらスキルのレベルを上げたことによって、その影響範囲が広がってしまったらしい。女の子であるクラーラが、気持ち悪そうに口を押えている。


「クラーラ、すぐに例のガスマスクを身に着けてくれ。これはちょっと、洒落にならないぞ」

「う、うん」


 俺のアドバイスに、クラーラはすべてを察したらしい。例のガスマスクを身に着けた。


 彼女にはガスマスク型の魔具という対策があった。しかしオリビアにはそんな術がない。弱った体はそのまま戦闘の結果へと繋がる。


 見える。

 かつて光線のように速度を極めていたオリビアの動きが。俺ですら容易にスキルを当てることができるようになったのだから、パウルならばもっと楽になっているはず。 

 これで、まだ戦えるっ!



 ――オリビアを倒して84回目。


 限界は、とうに超えていた。

 俺は体は石のように重くなっていた。閃光王パウルは動きがふらついていた。クラーラは熱射病のように意識がもうろうとしているようにすら見えた。

 だが、それでも俺たち三人は戦うことをやめなかった。意思の力で体を酷使、これまでずっとオリビアの身体強化に対応してきた。


 終わりの見える戦い。最後の最後まで全力を出し切れたのは、本当に奇跡としか言いようがない。


 〈黄糸刻印〉によって身体強化されたパウルが、オリビアを地面に叩きつけた。痛めつけられた彼女は起き上がろうとするも、もはやその力は残されていなかった。

 ……これで最後か。


「俺がやる。二人とも下がってくれ」


 俺は剣を握りしめた。

 オリビアとともに過ごし、時に情を感じていたこともあった。彼女に安らかな最期を与えてやることが、使命なんじゃないかと思う。

 

 剣を持つ手が震えた。

 揺れる体を、そっと正した。

 魔族でもなければ悪人でもない。そんな少女を俺は……この手で切ろうとしている。

 ……なんて、今更か。もう何度も何度も切り付けてきたんだからな。この戦いの間に、ずっと……。


「……オリビアああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

 降魔の剣は、彼女の柔肌を簡単に貫いた。

 鮮血が、刃を伝い俺の手に滴り落ちる。


「恨んでくれていい。人間でありながら、お前を倒そうと、滅ぼそうと全力を出してしまった俺を……」

「ヨウ君は悪くないよっ! 私が」

「黙ってくれクラーラっ! 俺が……悪いんだ」


 我儘だ。

 かわいいクラーラ、優しいクラーラ。そんな彼女のためにと、オリビアを……ひいては人類を裏切ったこの俺は……悪だ。どうしようもないほどに、自己中心的だ。

 だから俺は、これからきっと人のため、ひいては国のために尽くすことになるだろう。

 王国の剣として戦おう。イルマとも、カルステンとも刃を交えるかもしれない。

 それが俺の、この一週間の……贖罪。


「お、にい……ちゃ……ん」


 断末魔の叫びは、意外にも小さく……そして正気だった。

 彼女の手が俺の頬に触れ、そして落ちていった。


 魔王の天敵オリビア――死亡。


 85回の死を与えた俺たちは、とうとうオリビアを倒したのだった。


最近各編が長期化してますね。

大体10話ぐらいで切り上げる予定だったのに。

これはいいことなのか悪いことなのか、判断が難しいですけど。

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