表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/210

閃光王

 シェルト大森林にて、俺たちとオリビアの攻防が続く。


「スキル、〈毒蛇の牙〉レベル1000っ!」


 紫色の毒々しいスキルが、俺の剣先から生まれた。剣に絡ませ、オリビアに迫る。

 対するオリビアは素手でその剣を受け止めた。外傷はない。これまでも剣で傷をつけるにはいたらなかった。

 だが、スキルの効果は健在。

 オリビアは俺の放った毒スキルの影響を受け、顔が紫色に変色した。動きも目に見えて鈍くなっていく。

 

 すかさず、さらなる剣戟を加える俺。

 辛い、な。

 少し前まで仲良くしていた顔見知りとやりあうのは。

 一太刀入れるたびに、胸が軋む。


「ヨウ君、あのね。無理に私のことを……助けなくても――」

「言うなっ!」


 クラーラ。

 君の優しい気持ちは十分に理解している。そんな風に俺を気遣ってくれるのはとても嬉しい。

 けど……。


「俺はクラーラを守るって決めたんだ。その決断を間違ってなんて思いたくない」

「うん……そうだよね。ありがとう、ヨウ君。その言葉だけで、私は……」


 そこから先に、言葉は必要なかった。

 俺たちは互いを理解した。

 守りたい、そう思う心はきっと一つなのだから。



 俺たちはオリビアと死闘を繰り広げた。

 俺がスキルを放ち、パウルが遠距離から光の矢で攻撃。クラーラは魔法を使い木の蔦や根で彼女を拘束する。

 単純ではあるが問題なく回っていた。

 ……ここまでは。


「なあ、パウルさん」

「……ヨウ殿」


 違和感に気が付いたのは、俺が最初だったのか、それともパウルだったのか分からない。しかし俺たちは、同時に語り掛けていた。


「動きが」

「それだけではありませんな。力も……」


 そう。


 オリビアが、強くなっている。


 あの魔王エグムントが敗北した敵だ。一筋縄ではいかないことは十分に理解していた。

 しかし、そんな俺たちの悲観的な予想すらもあざ笑うかのように、オリビアは己の力を強めていた。

 今まで手加減していたとか、そんな感じではない。どうも、一度死ぬたびに一段階強くなっているようだった。

 今はまだ、剣を当てることができる。動きを目で追うことができる。攻撃に耐えることができる。でもそれが……一体いつまで続けられるのだろうか?


 これが、現実か。

 どれだけスキルを身に着けても、どれだけ仲間を増やしても。イルマやオリビアみたいな強者に……届くことはない。

 圧倒的な力の差とは、かくも絶望的なものなのか。

 

 絶望にひれ伏していた俺は、一瞬だけ油断していた。

 その、瞬間。

 まるで狙ったかのように跳躍するオリビア。俺を飛び越えて向かった先は、目標とされる魔王――クラーラ。


「クラーラっ!」


 抜かれた。

 あれほど安定してあしらうことができていたのに……。いくら油断していたといっても、こんなことは……。

 いや、後悔よりも先にクラーラを助けないとっ!


「はっ!」


 クラーラは木の剣によってオリビアを退けた。

 今回は問題なかった。だが、この長期戦でずっと戦いを繰り返していたら、いつかは……この失敗が致命傷になってしまうかもしれない。

 俺もパウルも万能ではない。いついかなる時もオリビアを退けるなんて不可能だ。


 退いたオリビアは、まるでサルか何かのように大樹の枝にぶら下がり、こちらを見下ろしている。今にも飛びかかってきそうな気迫に、俺たちは緊張を隠せなかった。


 流れが、悪くなっている。

 冷汗が頬を伝った。やはり、弱い者がどれだけ群がっても……勝てないのか?


「背に腹は代えられませぬな」


 閃光王パウルは顔を引き締めた。ジリ貧で負けてしまうかもしれないという結論は、俺と同じらしい。


「策があるのか?」

「これを……」

 

 パウルが渡してきたのは、奇妙な装飾の施された腕輪だった。精密な模様の描かれたそれは、アクセサリーとしては少々奇抜過ぎる印象だ。


「スキルを増幅する魔具ですぞ」


 出し惜しみしてたということか。自分の命がかかっているってのに、中々したたかな奴だ。


「俺の攻撃スキルレベルはマックスだぞ。意味あるのか?」

「その魔具を使えば、理論上レベル1000越えも可能ですぞ」

「……そうか」


 パウル。

 切羽詰まっているのは向こうも一緒ということか。頼みの封印術もあれだったからな。


「お前は大丈夫なのか? とっておきの魔具を俺に渡して」

「……奥の手を」


 瞬間、閃光王パウルの体はその二つ名よろしく光り輝いた。


「――〈黄糸刻印〉っ!」


 服から露出している腕に、黄色く光り輝く刺青のようなものが浮かび上がった。


「その技は、魔王エグムントの身体強化?」

「魔王エグムント殿から盗み取った技術。まだまだ扱いきれていないところも多いですが、必ずやこの正念場を乗り越えて見せますぞ」


 膨れ上がるパウルの体。

 俺は直接見たことはないが、〈青糸刻印〉を用いたエグムントの体もまた、このように筋力で膨れ上がっていたらしい。

 幻覚だろうか。パウルの肉体から、まるで闘気のような湯気が浮かび上がっている……ような気がした。


「参りますぞっ!」


 風を切る音とともに、パウルの姿が消えた。

 速い。

 その速度、まさに光速。弾かれたような衝撃のあと、閃光王パウルはオリビアに肉薄していた。

 オリビアが回避する間もなく、パウルは黄色い槍のような武器を彼女に突き刺した。


 右に、左に、攻撃の衝撃によって突き飛ばされたオリビアよりも早く回り込んだパウルは、左右から間髪入れず攻撃を繰り出す。ある種の空中戦のような様相を呈したそのバトルに、俺はただ茫然と眺めているだけだった。

 光が、ジグザグに線を描いている。それはまるで、雷のような軌跡。閃光王パウルの攻撃だった。


「三回は殺しましたな」


 ひゅん、と一瞬で地上に戻ってきたパウル。若干だが疲労が見える。


「俺も負けてられないな」

 

 再生の途中にあるオリビアへと剣を向ける。


久しぶりに前回完結させた『転生したら祖国滅亡? ~仕方ないので建国チーレムする~』を読み返していたら誤字ががががが。

お前もか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ