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妖精に連れられて

「……ん、うう……ん」


 自分の声が聞こえる。

 どうやら寝ていたようだ。

 えっと、確か、深夜にクレアがいるメイド喫茶行って、そのあとすぐ部屋に戻って寝たはずだ。それ以上の記憶がない。


「えっほ、えっほ、えっほ」


 この声は俺のものではなく、ちょうどベッドの下から聞こえてきた。

 徐々に夢うつつだった意識が覚醒し始めてきた。そして今、自分の置かれている現状を改めて理解する。

 ここ、俺の部屋じゃない。

 ……というか俺、ベッドに寝ていなかった。視界は天井ではなく青空。なぜか畳のような木の板に横になっていたようで、しかもそいつは「えっほえっほ」と掛け声を上げながら前に前に進んでいる。

 この木の板、ひいてはその上に乗っている俺は高速で移動している状態だ。


「……え? え?」


 意味が分からない。説明してる俺が意味わからないんだから、相当混乱しているんだと思う。

 俺は自分が乗っかっている板の裏を見た。

 そこには、生き物がいた。

 ちょうど俺の足首までぐらいの背の高さを持つ、かわいらしい人間のような姿をした生き物。背には羽が生えていて、小さな服を身に着けている。

 端的に言うなら妖精のような生き物。


「運びます」

「運ぶのです」

「運びますです」

 

 どうやら、俺が寝ている間に運ばれてしまったようだ。

 ……は?

 冷静に事態を理解し、そして焦る? 俺、妖精ちゃんに誘拐されてる最中?


「お、おい、お前ら俺をどこに連れて行く気だ?」


 俺の問いかけに、妖精たちは一瞬だけその移動速度を緩めた。さっきも普通に話をしていたし、おそらくは言葉も通じるはず。


「クラーラ様の命令です」

「王子様を連れていきます」

「超特急、待っていてくださいクラーラ様」


 クラーラの命令? 俺は魔王領に向かっているのか?

 視界に映るのはムーア領の光景ではなく、明らかに大森林のそれだった。どうやらこの妖精さんたちは、俺が寝ている間にムーア領からクラーラ領まで運びきってしまったらしい。

 まあ寝てる俺も俺だったがな。

 逃げることは可能だと思う。しかしここまで連れてこられてしまって、それは今更のことだ。森林王クラーラはおそらく悪い魔王ではない。話ぐらいは聞いてみてもいいだろう。


 大森林の奥で妖精たちはその足を止めた。木々が周囲に乱立しながらも、中央部分だけが少し開けた草原のようになっている場所。

 ここは、ついこの間シャリーと戦った場所じゃないか。

 妖精たちは俺の乗っていた木の板を放り投げて、奥に走っていく。


「クラーラ様!」

「連れてきました」

「褒めてください」


 そこには、ガスマスクのようなものを身に着けた一人の少女がいた。


「コホー、コホー、コホー」


 なんだかとても喜んでるような感じは伝わってくるのだが、如何せんマスク越しでは何がなんだか分からない。

 クラーラはゆっくりとそのマスクを外した。エメラルドのように光沢を放つ美しい髪が露わとなった。

 やっぱり、かなりの美少女だよなこの子。くっそ、イルマと代われっ!


「ご、ごめんね。私、女の子だから、ヨウ君のスキルに当たっちゃうと……その……」


 みなまで言わなくても分かる。俺のスキルが全部悪い。

 クラーラが妖精たちの頭を撫でると、妖精たちは『きゃっきゃっ』と嬉しそうな声を上げた。気持ちよさそうだよな、あれ。

 さて、そんなことよりもまずは……。


「連れてきてくれたことを怒ってるわけじゃないんだけど、俺が勝手にムーア領からいなくなると……まずいんだ」

「どうして?」

「一応、アイツの奴隷って形になってるからな。何の言い訳もせずにいなくなると、何をされるか分からない」


 まずいよな、これ。

 逃げ出した、とか思われたらどうなるんだろう。ムーア領の住人が奴隷にされて、俺は地の果てまで追いかけられて殺されてしまう、なんてのはさすがに考え過ぎか?


「あ、大丈夫だよ。身代わりの魔具置いてきたから」


 しれっとそんなことを言うクラーラ。対策済みだった?


「身代わり?」

「うん、これ」


 クラーラが両手を叩くと、近くにいた妖精たちが「えっほえっほ」と何かを持ってきた。

 木でできたマネキンのようなものだな、これは。

 クラーラは俺の手を掴むと、そのままマネキンの頭まで持って行った。ぽんっ、と白い煙を上げたかと思うと、木製であったはずのそれはしっかりと人間らしい肌や髪を持つ存在になっていた。

 ほう、俺の姿と瓜二つだ。面白い魔具だな。


「俺の名前は藤堂陽」


 と、俺に目を合わせて言ってくる元マネキン。声色はまさに本人そのものだ。


「魔具、〈鏡の人形〉。触れた者のコピーを作り出す効果があるの」

「へえ、すごいなこれ。イルマのコピー作っておいたらだいぶ役に立つんじゃないのか? あいつ強いからな」

「ううん、コピーできるのは姿形だけで、スキルや実力までは写せないの」


 それほど便利ではないか。


「お手!」


 ぽん、とクラーラに手を差し出す俺のそっくりさん。


「お座りっ!」


 正座した。クラーラを主のように眺めるその姿はさながら犬。


「ね、大丈夫でしょ?」


 なんだろう。なんだか若干の不安が残るような気が……。イルマの言うことを聞いておかしな行動をしていないだろうか? 『キサマの苦しむ姿が見たい』とか言い出したら、この魔具はどんなレスポンスを返すのだろうか……。

 ま、まあ、シャリーの件とかいろいろあって疲れてたということにして、多少の狼藉は弁明できるだろう。きっと……。


 なんて頭の中でいろいろと考えていたら、ふと視線を感じて我に返った。クラーラがじっと俺の顔を見ていることに気がついたのだ。


「この前は本当にありがとう。私のこと、助けてくれたんだよね」

「……あ、うん」


 ま、まあ、あくまでついでみたいな感じだったわけで、それほど真剣に助けたかったわけではないのだが……。


「あの時のヨウ君、はぁ、かっこよかったよぉ」


 うっとりと頬を赤めるクラーラさん。俺を見ているようで見ていない。これはあれだ、アレックス国王の視線に似ている気がする。

 なんだか、悪いことをしてしまった気分になってきた。助けたのついでだったからなぁ。


クラーラ登場。

ここからはいろいろ気を使って書かないと。

注意注意です。

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