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ヨウ様万歳

 ここはグルガンド王国、玉座の間。

 幾人もの貴族、大臣が左右に並ぶ緊迫した部屋の中央で、俺は片膝をついていた。


「ムーア領領主、ヨウ・トウドウ。ただいま参りました」


 恒例の挨拶。眼前のアレックス国王への報告だ。

 玉座に座るアレックス国王。マントと王冠を身に着けたその姿は普段と何ら変わりない。

 それなりに修羅場をくぐってきた将軍だ。魔族に捕らわれた程度では動じなかったのだろう。


「ヨウ殿、先日の件は本当に感謝している」

「いえ、当然のことをしたまでです」


 先日の件とは、アレックス国王がシャリーに捕らわれてしまった件だろう。あの時気を失っていた国王は、俺が救出したと思いこんでいるからな。

 実際、アレックス国王を運んだのは魔王バルトメウスで、敵のシャリーは自滅に近い形で倒れてしまった。俺が特に活躍したわけではないんだが……。

 まあ、その件は今回関係ない。


「それで、ヨウ殿。話とは一体?」

「俺の放った間諜の報告によると、魔王バルトメウスが死んだとのことです」


 まあ、嘘なんだがな。間者とかいう話にしておいた方が、スムーズに会話が進むだろうきっと。


 魔王バルトメウスの死亡は人間たちにはほとんど伝わっていない。

 だから周囲の重鎮たちがざわざわと騒いでいる。魔王の死を信じられないのだろう。

 しかし、事実は事実。いずれ彼らも事の本質を知ることとなるだろう。


「なんということだ、あの魔王が死んでしまうとは……」

「そこで陛下。旧バルトメウス領に進軍し、その地を俺の領地にする許可を頂きたく参りました」


 そう。

 これが俺の言いたかったこと。

 バルトメウスの遺言を正しく行うため、あの地は俺の領地にする必要がある。

 正直、今でさえ広い俺の領地がこれ以上広がってしまうのは王国的にどうなの? って思ってしまうところもあるが、あの魔王との約束は守っておきたい。


「ヨウ殿はこの国の正当な国王になるべき人材。王国にどれだけ領地が広がろうとまったく問題ない」


 何言ってるんだこのおっさんは……。 

 いや、なんだかもう彼の中ではそんな設定になっているらしい。俺を見る目が妙にキラキラしてるんだよな……。


 と、なんとなく反応を予想していたアレックス国王とは違い、俺が驚いたのは周囲にいる貴族たちの反応だった。


「さすがはヨウ殿、稀代の英傑。機を捉え果敢に動くその姿はまさに戦神。この国そのものでございますな」

「まったくですな。この国全体を領地にしていただく方が、むしろ安全と言ってしまっても過言ではない。護国の英雄、ヨウ様に栄光あれ」

「ヨウ様万歳っ! 副王ヨウ様万歳っ」


 …………。

 これが……魔王バルトメウスの人脈と賄賂か。


 おそらくはダニエルさんが会長の名前を使って手を回してくれたのだろう。今まで俺のことを白い目で見ていたはずの貴族たちが、思い思いに美辞麗句を述べている。

 なんというか……その、あからさますぎやしないだろうか? 上辺だけの心がこもっていない称賛は、なんだか胸がチクチクとしてしまう。


「……あ、皆、その……」


 コーニーリアス宰相が呆気にとられている。どう見てもNGな領地拡大だけど、これだけいろいろ言われてしまってはもはや反論すらできないのだろう。

 

「皆もヨウ殿の偉大さを理解してくれたようだな。私は嬉しい」


 しかしこのようにあからさまな称賛もまた、アレックス国王にとっては予定調和だったらしい。満足げに顔がホクホクしている。



 こうして、魔王バルトメウス領はムーア領に編入された。

 適当に小競り合いをさせて領地へと進軍を果たした俺は、バルトメウス領スツーカを占領した……ということになっている。 

 今後はムーア領から役人を派遣して、奴隷として酷使されていた(ことになっている)人々とともに街づくりを行っていく。

 ゾンビや骸骨は昼間は屋内で生活、夜には外に出ることが許される。もともと人に近い姿を持つゴーストや、〈人化〉を行えるアンデッドたちが率先して街を導いていくことになった。

 結果、表面上バルトメウス領は俺の領地となったものの、その実はアンデッドが支配する都市のままとなった。


 そして、もう一つ。

 メリーズ商会傘下の例のメイド喫茶っぽい飲食店が、このムーア領にもやってきた。

 こうして他地域の飲食店がムーア領にやってくることは、発展の観点から見てもとても良いことだと思う。


 そしてそのお店とともに、ダニエルさんとクレアも一緒にやってきた。

 ダニエルさんは領主である俺と連携を取る必要があるし、クレアには精霊剣について色いろいろと聞いておきたかった。これは渡りに船だった。


「ヨウ君、ようこそ俺たちのお店へ」


 俺はダニエルさんの誘いを受けて、例の飲食店へとやってきていた。

 深夜一時。

 あ……うん、二十四時間営業らしい。さすが……


「新会長様っ!」


 俺の入店に気がついた店員たちが、一斉にお辞儀をした。


 会長っていっても、ほとんど何もしてないんだけどな。商会に関してはほぼダニエルさんに丸投げ状態。ゆくゆくはムーア領領主としていろいろと連携を図りたいところだが、とりあえず今はそれで十分だろう。


「あ、ヨウっ!」


 すごい。クレアの目がまるでマンガみたいに渦巻でぐるぐる巻きになってる。だ、大丈夫かな?


「あ、ダニエルさん。私今日はあがりの時間なので……」


 クレアが指さしたのは、部屋の中央に設置された深夜一時を指す時計だった。

 ダニエルさんはおもむろにその時計へと近づいた、指を使い、長針の二時間分程度戻している。


「時間は費えるものではない、自らの力で生み出すものなのだよ(BY先代会長)」

「いやああああああああああああああっ!」


 時間を生み出す、っていい言葉だよな。あの人が言ったなんてことを知らなかったら感心してたかもしれない。


「懐かしいな、あの台詞」

「俺もあれ……言われたよ。40時間働かされた」

「……会長、うっ」

 

 皆が思い出に浸っている。クレアは、しばらく会話できそうにないな。

 俺は変な笑いが出ないようにこらえながら、コップに注がれた紅茶に口をつけるのだった。


 魔王バルトメウスの遺産。

 それは魔王らしからぬ、俺たち人間世界に根を張るスタイル。

 後継者の俺、そして実質的な指導者であるダニエルさんのもとに、更なる発展を遂げていくだろう。

 あの人は死んだ。でも、あの人の残したものは……きっとこの世界で生き続けていく。

 それが、魔王バルトメウスの功績。

 他の魔王にはない、立派なことだと思う。


ここからが森林王編になります。

なお肝心のクラーラはまだ出てこない模様。

次か次の次ぐらいに……。


それと、次から2.5日間隔での投稿になるかもしれません。

まだ検討中の段階ですが。

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