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要塞、バルトメウス城


 シャリーの引き起こした大乱は、彼女の死とともに静まっていった。

 グルガンド王国に滞在していたアンデッド軍は主の死とともに撤退。アレックス将軍は俺が救出したことにして王城へと連れて帰った。

 まあ、一応俺とシャリーは戦ったわけだから、あながち間違いというわけでもないのだが。


 残されたアースバインの兵士たちは、結局のところバルトメウスの傘下に入った。

 アンデッドは人間世界で住みにくい。やはりメリーズ商会に所属しバルトメウス領で暮らすのが、彼らにとっても一番だろう。


 イルマは人造魔王を見事倒したらしい。『ちっ、そのまま倒されてしまえばよかったのに……』という言葉を奴の前で出してしまわないように心の中でブツブツと呟いていた。

 

 そして俺は、バルトメウスの居城へとやってきていた。


「オリビアが今日攻めてくるというのは本当ですか?」


 そう。

 俺は魔王バルトメウスからこう提案されたのだ。『オリビアが私を殺しに来るから、見学しないか?』と。

 自らの殺される様を『見学』などと言ってしまうのには少々違和感を覚えたが、この言葉は渡りに船だった。未だオリビアと魔王との争いを見ていない俺にとって、その戦いはどうしても見たいものだったからだ。


「シャリー君はいい仕事をしてくれた」


 執務室のような部屋にいる俺たち。骸骨魔王バルトメウスは机の上から書類の束を手に取り、こちらへと手渡した。


「過去に襲来したオリビアの統計だよ。次の魔王に迫る間隔には法則性がある。来るのだよ、あと1時間後に、水の魔王――すなわちこのバルトメウスのもとへ」


 なるほどな。

 だからこそ、迎撃拠点となるこの城に引きこもってるわけか。


 俺は窓の外から城の周囲を見渡した。

 ここは魔王バルトメウスの居城。

 所領であるスツーカの中心部、小さな山となっている場所の中央に建てられている。

 ここに来るときにも思ったが、圧巻の一言に尽きる。


 まず山の麓には幾重にも建造された城壁。壁には等間隔に大砲が設置されている。

 この大砲は精霊砲と呼ばれ、シャリーが設計したものらしい。精霊の力を圧縮し、スキルのように強力な砲撃を放つ。その原理は精霊剣と同じだ。


 その他、随所にはトラップ系の魔具が配置され、侵入者を拒む構成になっている。これはバルトメウスが手を尽くして収集したものらしい。中には中級魔族ですら一瞬で殺してしまうような恐るべきものも存在するようだ。 


 そして随所に配置された仲間たち。バルトメウスの配下、アースバインの英霊、そしてクレアだ。いずれも精霊剣を身に着け、今日この時のために英気を養っている。


 さながらRPGダンジョンのように悪辣な罠と強靭なモンスター(アンデッド)たちが待ち受ける、まさに魔王城。


 だが準備は万端とはならなかったようだ。

 本来であれば、シャリー率いる人造魔王がこの陣営に加わっていたはずなのだから。そうすればおそらく、オリビアでも太刀打ちできなかっただろう。

 今は……どうなんだろうな? 


 ゴースト、ダニエルが部屋に入ってきた。


「会長、魔具の準備も整いました」

「ご苦労、ダニエル君」


 ダニエルさんは水晶のようなものを机の上に置いた。

 バルトメウスが水晶を手で撫でると、その透き通った透明な結晶にわずかながらの揺らぎが生じた。

 映像だ。まるでテレビか何かを見ているかのように、水晶の中に何かが映し出されている。城の中のどこかの部屋に、人が立っている。

 剣と胸当てを身に着けた、金髪ポニーテールの少女。クレアだ。


「あー、久しぶりにめいいっぱい戦えるわね」


 剣をぶんぶんと振り回す彼女は、上機嫌といった様子に見える。


 どうやらこの水晶っぽい魔具、カメラのような役割を果たしているらしい。これで戦況を把握するということか。


 クレア、元気だな。

 妹が死んだことを、ちゃんと割り切れたのだろうか?

 あるいは、妹の死による悲しみを隠そうとする空元気なのか?

 俺も当事者として彼女の死にかかわってしまった一人だ。とても他人事とは思えない。一度、話をしておいた方がいいだろうな……きっと。


「ヨウ君、君もオリビアと戦ってくれないかな? 報酬は俺が出すよ。だから……」

「ダニエルさん……」


 バルトメウス会長が死んでしまうかもしれないこの事態。忠臣の彼にとっては、少しでも戦力の増強が望ましいのだろう。

 俺が、戦う?

 あの子と?


 お兄ちゃん、と抱きついてきたオリビアの声が頭を掠めた。

 

「…………」

「ダニエル君、いいのだよ。彼がこの場で私たちの戦いを見学することには、共闘する以上の価値がある。これは私の判断だ、異論は許さない」

「会長……」


 どうやら、バルトメウスもまた俺に戦わせたくないらしい。


 俺は魔王バルトメウスの味方ではない。かといってオリビアの味方ではないが、あの子に対して多少なりとも情を持っているのは事実。


 この目で確かめるのだ。

 クレーメンスとエグムントを殺したのが、本当にあの子なのかどうか。


「会長っ!」


 ダニエルさんの緊迫した声が部屋に響いた。

 

 水晶玉に映されたのは、おそらく山の麓にそびえたっていた城門。金属質の分厚い扉はどんな大木よりも高く、そして太かった。 

 その分厚い金属が、まるで粘土細工のようにひしゃげていた。

 空気を舞う砂埃の先から、徐々にその姿を鮮明にしていく少女。

 水色の髪を持つ美少女。

 魔王の天敵、オリビア。

 

 俺と話すときの無邪気な様子とは違う、まるで機械か何かのように冷たく……そして何かに飢えた目。その慎ましい胸を激しく上下させる姿は、たとえ音が拾えてなくても荒い呼吸をしているということが分かる。

 

 そうか……。

 オリビア。君は本当に……魔王を。

 

 こうして、魔王バルトメウス軍とオリビアの戦いが始まった。


シャリー終わってオリビア戦。

いや、ちょっと飛ばし過ぎかなぁとは思ったのですが、いつまでもだらだらと後日談やらなにやらやってるのはテンポ悪いかなぁと思いまして。

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