精霊剣の力
俺は精霊剣を構えた。同様に、シャリーもまた杖型の精霊剣を構える。
「「アクセル、コンバート、エクスプレッションっ!」」
同時に起動式を唱える。
「〈風竜の牙〉レベル555っ!」
まずスキルを放ったのはシャリー。俺の剣に付加されているものと同じ、〈風竜の牙〉。しかし10倍以上のレベルを誇るその風の刃は、巨大な柱にも匹敵する大きさ。
だが――
「〈雷鳴の皇帝〉レベル1000っ!」
俺のスキルはシャリーの刃を易々と防いだ
このスキルは、俺が鍛冶によって生み出したエンチャント・スキルではない。精霊剣によって生み出されたものだ。
〈雷鳴の皇帝〉、はアレックス将軍の使う〈大地の覇王〉と同等の強スキルである。これまでであれば、とても扱うことができなかった。
精霊剣に慣れたシャリーやクレアでも、レベル1000には至っていない。
そう。
俺は精霊剣の力を最大限に引き出すことができる。その理由はこの剣の構造に起因する。
精霊剣の起動プロセスは三つ。
①アクセル・・・剣の内部に精霊を取り込み、圧縮。スキルのレベルに関係する。
②コンバート・・・不必要な精霊を変換。スキルの種類に関係する。
③エクスプレッション・・・スキル起動のために精霊を放出する。
〈モテない〉スキルによって精霊比が残念なことになっている今の俺は、圧縮なんかしなくても十分精霊の密度は高まっている。その上に精霊剣の変換作業が加われば、あらゆるスキルに対応することができる。
すなわち、この精霊剣がある限り、俺はあらゆる攻撃系スキルを扱うことができるのだっ!
「〈氷絶の牙〉、〈白雲の大帝〉、〈巨岩の豪壁〉、〈白銀の大木〉、〈天光の大空〉、〈黒曜の千刃〉レベル1000っ!」
知ってるスキルをレベルマックスでこれでもかというほどに叩き込む。氷、雲、木、空、刃、様々な属性を持つ攻撃がシャリーに襲い掛かる。
「……アイスウォールっ!」
シャリーは氷の壁を作り、俺のスキルを防ごうとした。しかし、俺の放ったスキルはその壁すらも叩き割ってしまう。
なんだ今の、スキルじゃないよな? 魔法使ってなかったか? でも魔族たちが使う魔王とは名前が違うような……。
やがて、暴風雨のように荒れ狂うスキルの嵐が彼女に直撃した。
即死……だな。
……悪く思わないで欲しい。
たとえどれだけかわいい女の子であろうと、俺や王国に敵対したその時点で……敵なんだ。
それなりの報いを受けてもらうっ!
俺は思わず目を逸らしてしまった。
「ヨウ、違うっ! シャリーは身代わりのホムンクルスを――」
そう、クレアの忠告を受けた俺。
その瞬間、背後から誰かの気配を感じた。
はっとして振り返ると、そこには杖を構えたシャリーが……。
ば、馬鹿な。
俺が倒したシャリーは、偽物だった?
イルマの体液を渡したあの時、カプセルの中にいたホムンクルス。まさかこんなところで……身代わりに使われてしまうなんて……。
今更焦っても後の祭りだ。すでに俺とシャリーとの距離は1メートル程度に縮まっており、とてもではないがスキルで対処する余裕はない。
体が硬直した。
先手を打たれ、今、まさに敵の攻撃を受けようとしている。戦士としては恥ずべきことだが、俺は機敏に反応することができなかった。
「それは私のホムンクル……おえっぷ」
千載一遇のチャンスを得たはずのシャリーであったが、その機会を活かすことはできなかったようだ。
喉を震わせながら、彼女は手を口に当てている。顔は死にそうなほどに青い。
「え、あ、なんですかこれ? き、気持ち悪い。なんで……こんな……」
あーあ、俺のスキルにあてられちゃったんだな。かわいそうに。
己の勝利を確信していたであろうシャリーは、ここに来て初めて狼狽を示した。
まあ俺だって、もう負けたと思ってたがな。
でも、運よく形勢逆転できてしまったわけだ。
「運が悪かったな、俺の勝ちみたいだ。覚悟はできてるだろうな?」
俺は剣を振り上げた。
「止めてっ!」
「クレア?」
止めを刺そうとしていたわけではないのだが、クレアに止められてしまった。
「シャリーは悪い子じゃないのっ! お願い、殺さないで」
「いや、杖を叩き切ろうとしただけなんだが」
もともと、それほど強い恨みがあるわけでもない。王国を征服されたのには危機感を覚えたが、その程度だ。
俺はシャリーの杖を切った。
「クレア、そういうこと言うならしっかり監視しておいてくれよ」
研究室を取り上げ、クレアやバルトメウスが監視をしているのが一番だろうな。例の〈契約の書〉を使っておくといいかもしれない。
ホント、災難だったな。アースバインの力で人類復権っ、なんて踊らされた俺はピエロそのものだ。
でもまあ、俺向けの武器――精霊剣が手に入っただけよしとしよう。うん、そう思っておこう。
クレアに抱きかかえられたシャリーだったが、なんだか様子がおかしい。
「……いた、い」
「シャリー、どうしたの?」
「お腹が……い、痛……い。あ……ああ……あああああああああっ」
ガクガクと、まるで薬物中毒者のように体を震わせるシャリーは、腹部を押えている。気のせいだろうか、ローブの色が血に染まっているような……。
「始まってしまったか」
背後から現れたのは不死王バルトメウス。背中には気を失ったアレックス国王を抱きかかえている。
体にはつららのような水色の塊が突き刺さっている。おそらくはあれで体を拘束されていたのだろう。腐っても魔王、抜け出してきたようだ。
「ヨウ君、クレア君。シャリー君はもうすぐ死んでしまう。何か聞きたいことがあるなら、今のうちに話を聞いておきなさい」
「……え?」
突然の発言に、俺クレアは固まってしまった。
接続障害で投稿できなかった。
三日目投稿になってしまいましたね。