クラーラVSシャリー
通路に続く、エルフやスピリット(精霊が魔物化したもの)たちの死体。おそらくはこの地で、すでに激戦が繰り広げられたに違いない。
木を縫うようにして通路を進んでいった俺たちは、ひときわ広いスペースへとたどり着いた。
そこには、二人の少女がいた。
中央に立つのはシャリー。杖を構え、余裕といった様子。
対するは緑の森林王クラーラ。ローブは破れ、息も荒い。満身創痍といった様子で片膝をついている。
どうやらクラーラVSシャリーの戦いは、シャリーに傾いているようだ。
「魔王クラーラ。聞いていた通りの強さですね。花弁王ロルムス以上、氷塊王エヴァンスと同程度、中級程度の魔王といったところですか」
「あなたは、何が……目的なの?」
「あなたの体をいただきます」
シャリーは試験管を投げつけた。すると混ざり合った青い液体から粘体状の人造生物が出現した。
湯気を上げ、ずるずると体を引きずりながらクラーラに迫るそれは、明らかに意思を持っている。
対するクラーラは剣を構えた。まるで木の枝のように折れ曲がった茶色い剣は、ちょうど柄の部分に葉っぱが付いている。
「はっ!」
目にもとまらぬ速さで青い生物を切り裂いた。なかなかの剣さばきだ。
しかし、切り裂かれた青い生き物は二つに割れ、未だ意思を持ちクラーラに襲い掛かっている。
クラーラは剣を振り回した。細かく切り刻まれた生物は、意思を失い土の中に帰っていく。
だが……。
「あ……」
彼女の剣は間に合わなかった。100以上に別れた人造生物を77匹潰せたが、残った23匹は無慈悲にも襲い掛かる。
液体生物はクラーラの腕に巻き付いた。
おそらく、俺がここに来るまで長く戦っていたのだろう。普段であれば余裕で倒すことのできる敵であったとしても、倒せなかったということか。
魔王は強い。クラーラは十分に力を持っていた。ただシャリーの方が、無限に生み出せる人造生物、アンデッド、そして自分自身の力で打ち勝ったということか。
青い生物はクラーラの腕を、脚を拘束した。必死でもがこうとする彼女ではあるが、焼け石に水。
「いや……やめ……て……」
「必ずしも、あなたが生きている必要はありません。あなたの体液は、これから人類勝利への礎となります」
シャリーは注射器のようなものを構え、メガネのずれを直した。その姿はマッドサイエンティストのように恐ろしく、そして狂気的であった。
「ひ……ひぃ……」
恐怖からか、言葉にならないような小さな悲鳴を上げたクラーラを見て……俺は。
「そこまでだっ!」
ここまでずっと様子を見ていた俺だったが、ついに声を上げた。魔王クラーラとシャリーの間に剣を投擲し、注射器を破壊する。
「ヨウ君、助けに来てくれたんだ」
ぱぁ、と花が咲いたかのようなに微笑む森林王。
「嬉しい、嬉しいよぉ」
よっぽど嬉しかったのだろうか、魔王クラーラは泣いていた。
別にクラーラを助けたいとか、守りたいとかそういう強い欲求があるわけじゃない。ここに来たのはシャリーを止めるためであり、緑の魔王を助けたのはその過程だったというだけ。
そういう意味では、彼女の態度は誤解といってもいいだろう。
でも、なんか嬉しいな。
こんな風に頼られて、喜ばれて、こういうヒロインっぽい女の子って初めてだよな。ちゃんと勇者やってるみたいで、いい気分だ。
……って、何考えてるんだ俺。相手は魔王だぞ? ちょっと頼られたからって気を許すな。
俺は気を引き締めた。
「シャリー!」
「お姉ちゃん」
俺の後ろから現れたクレアは、シャリーに向かって叫び声をあげた。
「シャリー、これかどうするつもりなの?」
「この世界を征服し、アースバイン皇帝の魂を探します。魔王バルトメウスの水糸を使い、蘇生魔法を……」
「クレア、陛下のこと大好きだったもんね。また会いたいのね。でも……それはきっと……」
「…………」
シャリーは悲しく笑った。そこには、どんな意味があるのだろうか。俺には分からなかった。
「ヨウさん、どうかその剣を収めてくれませんか?」
クレアとの悲しい物別れを終えた彼女がこちらを向いた。
「魔王が死に、人類が栄光を取り戻す。魔王の奴隷として虐げられているあなたにとって、悪い話ではないと思いますが」
なるほどな。
確かに、一見すると利害が対立してないように見える。だが……。
「お前のやってることは人類への冒涜だ。人は今を生き、そしていつか死に至る。過去の亡霊に囚われて何になる? 結局お前たちのやったことは、俺の王国を征服して人類を従えようとしている……魔王と何ら変わらない」
俺は剣先をシャリーに向けた。
「お前は魔族だ。俺たち人類は……お前を倒す」
決別。
もとより、求めるところが違う二人。皇帝の魂や人類のプライドのために、俺の王国や領地を傷つける奴を……認めるわけにはいかない。
「困りましたね、あなたを傷つけないようにと言われているのですが……」
ため息をついたシャリーは、しかしその鋭い眼光をこちらに向けた。
「ごめんなさい、『最大限気を配る』というい約束は守りました。でも、もう無理みたいですね。仕方ないですよね。努力はしましたよ」
シャリーはその杖をこちらに向けた。
「殺さない程度に、痛めつけます」
震える空気。限りなく殺気に近い闘気。このかわいらしく若々しい少女から発せられるその威圧感は、魔王クレーメンスに勝るとも劣らない。
右手に精霊剣、左手に降魔の剣。
さあ、始めようかっ!
すっごい面白い夢を見た。
これ小説に使える! と思ってメモしようとしたらすでに内容を深く思い出せなかった。
悔しい。