魔王に対抗
アースバイン帝国筆頭錬金術師、シャリーさん。俺の剣を指さして、呪われています宣言。
「その手に下げた剣は降魔の剣と呼ばれている呪いの魔具ですっ! 一度でも戦うと呪いが発動し、死に至ってしまいます。どこでその剣を手に入れたか知らないですが、すぐに手放した方がいいかと」
「あー、その話ですか」
残念だけど、もう解決しちゃってるんだよねそれ。
この人ともうちょっと早く出会いたかったな。そうすればクレーメンスの悪行に気が付けただろうに。
「この剣は別の呪いで上書きされてるから、もう無害なんだ。大丈夫」
俺は降魔の剣を抜き、彼女に見せた。
「確かに、宝玉部分の色が変わっていますね」
と、驚きの様子で納得してくれた。
タイミングが合わなかったな。ただ、この人が俺の身を案じてくれたのは伝わってきた。悪い人ではなさそうだ。
「シャリーさん、魔具に詳しいんですね」
「昔、知り合いに専門の方がいたので。その剣も、昔はその人が持ってたんです」
「へえ、その人って……」
と、会話を続けていたら、入り口の方から笑い声が聞こえてきた。
「はっはっはっ、ようこそヨウ君。私たちの本拠地へ」
魔王バルトメウス、登場。
この地を支配する大男は、〈人化〉を使わずガイコツの状態でここまでやってきた。
従業員たちが若干緊張してるような気がする。社長的な扱いなんだよな、あの人って。
水の魔王は俺たちの席を座り、テーブルに一本のビンを置いた。
「南方から取り寄せた葡萄酒だよ。さあさあ、飲みたまえ。ダニエル君、グラスの用意を」
「…………すいません、俺、酒はちょっと」
ま、まあ一応高校生だからね。節度は守っておこう。
「おっと、酒の味が分からないかね? それは残念だ」
魔王バルトメウスの髑髏がかすかに揺れたような気がした。あまり表情を推し量ることは難しいが、悲しんでいるのかもしれない。
まあ、親睦を深めるためにここへやってきたわけではない。俺が聞きたいことはただ一つ。
「それで、バルトメウスさん。オリビアに対抗する方法、というのはいったい……」
バルトメウスはシャリーと目配せした。もっとも、目のないガイコツである彼に『目配せ』という表現が正しいのかどうかは知らないが。
「シャリー君は生前優れた錬金術師として名を馳せていた。その技術力によって、かつての帝国は大いに繁栄していたと言っても過言ではない。ヨウ君、君は『精霊剣』と『人造魔王』について知っているかね?」
「何ですか? それ」
どちらも聞いたことがない単語だ。異世界人である俺はこの世界の歴史に疎いからな……。
「いずれも帝国繁栄の根幹を成す技術だ。これをよりよく活用するために、君の手伝いが必要なのだよ」
手伝い、というからには俺でしか手に入らない材料や情報があるのだろう。
それ自体はいい。
問題は……。
「バルトメウスさん。俺はダニエルさんから『君にとっても悪い話じゃない』って聞いているんですが、俺にとって悪い話じゃないというのは一体何ですか?」
この人の陣営が強くなって俺にいいことなど一つもない。まあ俺がこの世界の孔明となり、イルマとバルトメウスをぶつけ二虎競食の計(これ孔明の策じゃないけどね)ってなら話は別だな、俺にそんな話術や外交能力はない。
バルトメウスは深いため息をついた。
「ヨウ君。私はね、今はこうしてアンデッドとなってしまったが、心は人間のつもりなのだよ」
魔王バルトメウスは白骨化した己の手を眺めている。在りし日の肉体に思いをはせているのかもしれない。
「商材を奪われ、取引先の小国が滅ぼされ、生前は魔族に歯がゆい思いをした。なぜ人間はこうも弱いのか、奴らに屈せねばならないのか。勇者イルデブランド、アースバイン帝国の威光に思いを馳せた」
この人の気持ち、分からなくもないな。この世界って人間弱すぎるんだよな。
「この『精霊剣』と『人造魔王』の技術は、将来的に今を生きる人たちにも伝えたいと考えている。魔族に、ひいては魔王に人間が対抗するようになるのだ。先だって技術提供をするのはグルガンド王国としたい、というのが君に対する『話』なのだが、いかがかね?」
イルマの奴隷、としてではなく人間としての俺に語り掛けてきた、ということか。
人間が魔王に対抗する、か。
なかなか熱い話だ。ついつい勢いに呑まれて快諾してしまいそうになる。
「バルトメウスさん。あなたの話はとても魅力的に感じる」
だが俺は領主として、いやこの件に関してはこの世界の人類を代表しているといっても過言ではない。冷静にならなければならない。
――試させてもらう。
「情けない話だけど、俺はつい先日までクレーメンスに騙されていた。あいつを王として崇め、貰った呪いの剣を誇らしく腰に掛けて、部下と一緒にこの国を切り崩そうとしていたなんて夢にも思わなかった。俺はバカだった、大バカ者だった。だからバルトメウスさん、あんたの言葉が本当なのか嘘なのか俺には分からない。バカな俺にも分かるように、さっきの言葉を証明してくれないか?」
情けない台詞とは裏腹に、鋭い眼光を魔王へと浴びせる。嘘は許さない、という空気を作るための演出だ。
対する不死王は、その乾いた骨の手で拍手をした。
「さすがは領主といったところか。ヨウ君、若いのに話に惑わされず己を見失わない。いやはや、本当に気に入ったよ。君がアンデッドならば、私の後継者に指名していたところだ」
魔王バルトメウスは懐から一冊の本を取り出した。
荘厳な装飾の施されたその本は、ある種の威圧感をもって俺の前へと現れた。漫画であったなら本から変なオーラが出ていたかもしれない。
「魔具、〈契約の書〉」
普通に書いてたら5000字超えてました。
いつも2500か3000字ぐらいで投稿するようにしてるので、残りは調整して後日また投稿します。