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金髪メイドクレアちゃん お絵かきオムライス

 魔王バルトメウスの招待を受けた俺は、ダニエルさんの案内によって彼らの本拠地へとやってきていた。

 カラン大砂漠の南方に位置するバルトメウス領、その首都とされるスツーカだ。

 街にはアンデッドと労働者のような人間が混在している。人間が奴隷、というのはあまりに言い過ぎであるが、少なくとも支配階層はアンデッドで構成されている街といったところか。

 俺は周囲を見渡した。

 まず目につくのは、山の上にそびえ立つ巨大な城。

 でかい。

 グルガンドの王城よりよっぽど巨大な建物だ。ここを攻め落とすのは結構難しそうだ。


「こっちだよヨウ君」


 ダニエルさんは城を眺めていた俺の手を引っ張った。

 連れてこられたのは、レストランと思われる建物だった。


「俺が指導してる店なんだ。最近新人が多いから心配だなー」


 俺たち二人は中に入った。

 いくつかのテーブルが並べられたファミレスような構造。さすがに衛生上の問題からか、ゾンビはいない。しかしスケルトンやゴーストが従業員として働いている。

 人間向けじゃない? と思ったが客の中には人間らしき人々も何人かいる。バルトメウス領で暮らす労働者だろうか。


 メイド服を着た女の子が、俺たちの前にやってきた。


「お帰りなさいませご主人様」

「ああ、クレア君ごくろうさま。彼が話に出ていたムーア領のヨウ君だよ。席に案内してくれるかな?」

「はい」

 

 おそらくはゴーストだろう、体が微妙にふわふわしている。金髪ポニーテールを揺らす、綺麗な女性だ。


「……?」

 

 何ここ、メイド喫茶的なやつなの?

 席に座った俺たちに、金髪メイド――クレアさんがメニューの説明をしてくれる。ダニエルさんが近くにいるせいか、ちょっと緊張しているようだった。


「ご注文はいかがなさいますか」

「あ、はい、このオムライスお願いします」


 俺、何やってるの? っていうかバルトメウスさんはどこ?


「ホントにここでいいんですか? ダニエルさん」

「うん、大丈夫だよヨウ君。会長ももう少ししたらここに来るから」


 あの人、メイド好きなのかな? きっと生前は屋敷にメイドを侍らせていたに違いない。


 しばらくすると、メイドのクレアさんがオムライスを持ってきてくれた。

 オムライスにはケチャップで絵を描いてサービスしてくれたらしい。

 何だろう。ケチャップで描かれたそれは、おそらくは人の顔だろう。しかし耳のあたりからドリルような三角形が突きだしており、とてもまともな恰好をした人間には見えない。


「あの、クレアさん。このケチャップ絵は何?」

「これはね、あたしが100年前に壮絶な戦いの末引き分けた魔族、アンドレアよ」


 と、メイドさんが自慢げに説明した。

 あ、このドリル角だったのね。あのイルマ配下のアンドレアさんか。……に、似てない。

 それにしてもあのアンドレアさん、確か戦闘レベル40000越えの強い魔族だったはず。それとまともに戦ったとなると……このメイドさん、生前はすごい人だったんだろうな。この人が対オリビアの切り札なのだろうか。


「クレア君、仕事は置いてこの席についてくれないかな? 一緒に話をしよう」

「え、ホントにダニエルさん。やったー、今日の仕事もう終わりなのねっ」

「シフト表見てる? 今日の君は深夜2時までだよ。それにねクレア君、俺たちはアンデッドなんだよ。そんな生きづらい体になってしまった俺たちは、会長の慈愛の心でこうして働く場所を与えられている。嬉しいよねクレア君? 深夜2時まで働けて、ううん、もっとそれ以上働いたっていい。俺たちアンデッドは二十四時間……」

「うえぇええぇ」


 なんだか金髪メイドさんが涙目になっていた。きっとこき使われてるんだろうな。ご愁傷さま。

 クレアは俺の隣に座った。その大きくてくりっとした目をこちらに向けた。


「よろしくー」

「はい、よろしくお願いします」

「ねえ、剣も持って鎧を身に着けて、ヨウって戦う人なの?」

「あ、ああ。今は領主なんだけど、昔は冒険者ギルドでクエストを受けてて、これでも結構魔族を倒してたんだ」


 主に女系魔族だけどな。


「あたしもあたしもー、昔はいっぱい魔族を倒したわ。へー、いい鎧身に着けるわねヨウって」


 ぺたぺたと俺の鎧を触るクレア。あ……駄目、そんなに近づいたらきっと……。

 突然、クレアは青い顔をして口元を抑えた。


「ううー、なんか気持ち悪い」


 ああ、すいません。俺の迷惑スキルはゴーストにも効いてしまうらしいという、もはやなんとなく予想していた事実を改めて再確認。


「俺が鎧で汗臭いせいですねきっとっ! ダニエルさんの隣に座りますっ!」


 俺は大急ぎで向かいの席へと移動した。これで何とかなるはず。


「ヨウ君、君魔王イルマの愛玩奴隷って……そういうことだよね? 困るな、俺そういう趣味は……」

「違いますっ!」


 ダニエルさん、変な勘違いをしているようだ。大慌てで否定しておく。


「いいないいなー、あたしも戦いたいなー。ヨウのところって魔王領近いの? 力が必要ならあたし、ヨウのところに行きたい」

「クレア君……君……」

「ひぃいいい」


 ダニエルさんが何かやりがいっぽいことを必死に説明している。当のクレアは、ゴーストなのに口から魂が出そうな感じになっていた。

 クレア、この席に招かれるってことは重要人物なんだろうな。

 なんだか話しやすい人で、好感が持てると思った。


「あとはバルトメウスさんを待つだけですね、ダニエルさん」

「ん? ああ、あと一人君に会わせたい人がいるんだ。今、来たみたいだ」


 そう言って、入り口を指さすダニエルさん。そこには少女がいた。

 クレアと同じ金髪は、少しだけ癖のある髪質。メガネをかけたその姿は、どちらかと言えばおとなしく知的な印象を与える。

 魔法使いっぽい木の杖を持っている。もっとも、この世界に魔法が使える人間なんていないんだがな。


「シャリーさん、こちらです」


 ダニエルさんがこちらに呼び寄せた。

 ダニエルさん、クレアと違ってこの人は『さん』付けしてる。きっと重要人物なんだろうな。

 シャリーさん、と呼ばれるローブ姿の少女は、俺の姿を見るなり軽く一礼した。


「初めまして、ムーア領領主ヨウ様ですね? 話は伺っています。私はアースバイン帝国筆頭錬金術師シャリーです。長い付き合いになるかもしれないので、よろしくお願……」


 突然、クレアが俺の腰あたりに目を落とした。

 何を見ている?


「よ、ヨウ様。いいですか。落ち着いて聞いてください……」


 メガネの女の子は俺を手を握り、心配そうに語り掛けた。

 

「あなた、呪われていますっ!」

「……はい?」


オムライス美味しくなる魔法をかけるクレアちゃん、とか入れようとしたがやっぱりやめる。

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