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クラーラのお手紙

 タターク山脈でオリビアを発見した俺は、すぐにグルガンド王国へと戻った。冒険者ギルドの皆には礼をして、ムーア領へと帰還する。


「えっほんー、絵本ー」


 オリビアは俺がグルガンドで買った絵本を読んでいる。俺の寝室でベッドに寝転がるその姿は、普段と変わらない様子だ。

 魔王エグムントと戦っていた時のことを覚えていないらしい。あれほど血だらけになって、服だって破れていたのに……だ。


「お兄ちゃんもよむー?」

「一人で読むといいよ。俺は仕事があるから」

「はーい」


 いわゆる二重人格的な奴なのか? 時期が来ると対魔王用の人格が現れて、魔王を殺しに行く?

 分からない。

 魔王を殺すとき、彼女がどんな姿になっているのか……確認しておく必要があるな。


「…………」


 無言のまま、俺の部屋に入ってきたのはイルマだった。

 

「イルマ様?」

「お前宛だ」


 公爵令嬢、イルマは俺に手紙を投げつけてきた。取り立てて特徴のない便箋。

 ほのかに森の香りがする。


「あの女、いい加減煩わしくなってきたな。どうしてくれようか」


 俺にはお前が煩わしくて仕方ないんだがな。

 それにしてもあの女って、誰? 

 俺は手紙に目を落とした。


 ムーア領領主、ヨウ様へ。


 お元気ですか?

 あなたはあまり私のことを覚えていないかもしれないですね。あの魔王たちの会議で顔を合わせたことのある、魔王クラーラです。

 あなたの活躍は私の耳にも届いています。王国を裏で操り、民を苦しめていたクレーメンスを倒した救世主であると。物語の英雄であるかのようなあなたの雄姿を聞くと、私は胸が高鳴るばかりです。

 あなたが魔王イルマに嫌々ながら体を捧げていると聞き、私は心を痛めています。人間は奴隷じゃない、この世界で私たちと同じように生きている生き物なんだって。それをこの世界中すべての人に理解してもらいたいと思っています。

 でも、今はまだ無理。魔王イルマは私の声に耳を傾けてくれません。

 つらいでしょうが、どうかもうしばらく辛抱してください。必ず、あなたを解放してみせます。

 待っていてください。

  クラーラより


 ……という内容らしい。

 クラーラさんが博愛主義のいい人だということがよく伝わってきた。これはイルマとは気が合いそうにないな絶対。


「お前は私を倒した男だ。死ぬまでこき使ってやるから、その女の言葉は無視しておけ」

「は……はい」


 イルマさん、謎の嗜虐心で俺を手放すつもりがない模様。

 はぁ、もうやだこの生活。俺はクラーラちゃんの奴隷になりたい。あっちの方が絶対好待遇だ。


 用事が終わったらしく、イルマがいなくなった。

 それにしても、魔王クラーラか俺を解放したがってる?

 どうして、俺のことを気にかけてくれるのだろう? 罠、なんてことしてもまったく意味がないだろうし、俺のどこが気に入ったんだろう。

 謎だ。 

 でも、もう一度話をしてみたいよな、あの人と。


「やあ」

「ダニエルさん?」


 壁をすり抜けて執務室にやってきたのは、バルトメウスの配下であるゴーストのダニエルだった。ふわふわと宙に浮きながら、俺の前へと着地した。

 いきなりで少しびっくりしてしまった。


「元気にしてたかな? ヨウ君。あー、まだアンデッドにはなってないか。残念だな、早く僕たちの仲間になってくれないかな」

「は……はは……」


 未だ俺の手に残された、アンデッドの呪い。死ねば発動するらしいが、あいにくとこれまでそんな機会がなかったため未発動だ。

 っていうかこの人、俺に死んでくれって言ってるようなものだよな? たぶん悪気はないと思うんだけど、少しは生きている人間の気持ちというものを考えて欲しい。


「それで、何の用ですか?」

「バルトメウス会長が君を呼んでるんだ。是非、俺たちの本拠地に来てほしい」


 魔王の呼び出し、か。

 イルマにはオリビアの名前を出せば何とかなるだろう。行くことはできる……のだが。


「会長さんが俺に? 何の話ですか?」


 そもそもなんで俺が呼ばれてるんだ? 何の意図があって? クレーメンスに散々煮え湯を飲まされた経験もあるので、ある程度は疑ってかかっておいた方がいいだろう。

 ダニエルさんは周囲をキョロキョロと見渡した。イルマや他の魔族に聞かれたくない話なのかもしれない。

 そっと耳打ちされる。もちろん、俺のベッドで絵本を読んでいるオリビアにその声が聞こえないように。


「オリビアに対抗する方法に関してだ」

「……っ!」


 オリビアに対抗?

 エグムントは魔王の中で最強レベルだったはずだ。あの男が負けたということは、バルトメウスでは勝てないということ。

 何かそれを覆す策を思いついたってことか?


「ヨウ君にとっても決して悪い話じゃないと思うから、って伝えるように言われた。来てくれるよね?」

「…………」


 考える。

 別に、あの魔王がオリビアを殺せるからといって、俺には何のメリットもない。あの子を殺す手伝いをしてくれ、と言われると気分が悪くなるぐらいだ。

 でも気になる。

 あの商会長が『悪い話』でないと言ってるんだ。話を聞いてみるのは悪くないと思った。どちらかといえば損得で動く人間だろうからな、あの人。


「分かりましたダニエルさん。近日中にそちらへ向かいたいと思います」

「いやー、受けてくれてよかったよ。俺はしばらくグルガンドの拠点に滞在するから、準備ができたら声をかけて欲しい、。新人がいっぱい増えてね、教育が大変なんだ」

「分かりました」


 メリーズ商会の関連店に声をかければいいのかな?

 


主要キャラはほぼでたところなので、そろそろ人物紹介みたいなのを作ってみたいなぁと思っている今日この頃。

今日か明日には投稿したいと思っています。

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