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腹部の痛み

 アースバイン帝国の英霊、錬金術師シャリーと大将軍クレア。商会の話を聞いた彼女たちは、いまいちその意図を理解していないらしい。


「商会員として衣食住の提供、働きに応じて相応の給与を支払うことを約束しよう。まあ、ゴーストは物を食べなくても生きていけるのだがね」

「なるほど、つまりアンデッドとなった私たちの身分を保証してくれるということですね」

「その通りだよシャリー君。話が早くて助かる」


 クレアが片手を上げた。


「はーい、なるなる、商会員になるわ」

「ならばこちらの雇用契約書にサインをしてもらえるかね?」


 将軍クレアは鼻歌を歌い、ポニーテールを揺らしながらサインをした。あまり書類を吟味する性格ではないのだろう。

 一方の錬金術師シャリーはまじまじと書類を眺めている。時々眉を寄せるような表情をするものの、かねがね合意してくれたらしい。

 二人は書類にサインをした。


「そういえば、アースバイン皇帝陛下はいないのかね?」


 アースバイン帝国皇帝、アースバイン。

 文武両道、英君として名高い皇帝である。帝国の全盛期はこの皇帝によって生み出され、そして終わった。

 かの皇帝が味方となってくれるなら百人力だ。是が非でも対面したいと思っていた……のだが。


「この中にはいないですね。私が陛下に気づかないはずありません」


 一瞬だけ周囲を見渡したシャリーが、悲しそうにため息をついた。

 

「そうね、いないわね。っていうかさーシャリー、あたしなんで死んでるの? 昨日……ってか100年前にベッドに入ったところで記憶が飛んでるんだけど」

「お姉ちゃん夜になったらすぐ寝ますよね。きっと寝てるときに何かあったんです。私は……ちゃんと起きていた……はずなんですけど。……えっと、私はお姉ちゃんが死んで悲しかった記憶はないです。きっと二人で一緒に死んだんでしょうね」

「いつ死んだのかな、あたしたち? そーいえば今帝国はどうなってるの? 滅んだの?」


 大将軍クレアは周囲を見渡してそう言った。砂に埋もれた遺跡は、明らかにかつての帝国の滅亡を示唆している。


「アースバイン帝国は過去の遺物になってしまった。今この地に帝国は存在しないのだよ」


 バルトメウスの言葉を聞き、二人は悲しそうに眼を伏せた。

 彼女たちにとって、栄華を誇った帝国はつい昨日まで存在していたはずなのだ。それが突然滅亡したというのだから、その喪失感は並大抵のものではないだろう。


「……駄目、ベッドに入ったところまでしか思い出せない。シャリーはどう?」

「……うーん」

 

 錬金術師シャリーはぼんやりと宙を眺めるように過去を思い出している。

 

「……そう、私は人造魔王のメンテナンスがあって、実験室で夜を過ごしていました。そこで……何か、大切な……。痛っ!」


 突然、シャリーは腹部を押えうずくまった。


「しゃ、シャリー? 大丈夫?」

「急にお腹が……」


 幾多のアンデッドたちを見てきたバルトメウスにとって、彼女に現れた症状はごくありきたりな内容であった。


「死ぬ間際の記憶というのは、総じて混乱しがちだ。中にはトラウマになるほどつらい経験をしている者もいる。思い出せないのであれば、あまり深く考えない方がいい」

「うう、ゴーストでもお腹が痛くなるんですか?」

「生前の痛みを魂が覚えていることがある。その痛みは、もしかすると君を死に至らしめた致命傷であるかもしれない」

「それって殺されたってことですか? 嫌ですね」


 あるいは、その死すらも帝国の滅亡に関係しているかもしれない、とバルトメウスは懸念する。

 帝国の滅亡。実際のところ、それは謎なのだ。


「私が人として物心ついたとき、すでにアースバイン帝国は30年前の話になっていた。

滅亡の原因は当時としても研究者の間で話題だった。疫病、魔王の侵攻、隕石や地殻変動。スキルの暴走などなど。未だ決定打に至るものはない」

「そうですか、時間があれば……その件も調べておきたいですね。そして願わくば……陛下の魂を……」


 錬金術師シャリーは目に涙を浮かべた。彼女からは、アースバイン皇帝への並々ならぬ感情を察することができる。

 問いただせば答えてくれるかもしれないが、今は空気を読んでそっとしておくことにしよう。


「何はともあれ、ようこそ現世へ。今後のことや私の立ち位置は、これからゆっくりと説明していこう」


 強力な味方を得たのだ。何とかして恩を売り、オリビアとの戦いに備えていきたい。

 そのための準備は……怠っていない。


 所詮、アンデッド一人でできることなど限られている。蘇ってしまった以上、誰かにすがり生きていくしかない。

 孤高のアンデッドはひどく苦しい。

 人は死人に冷たい。生前優しかった友人や家族も、ゾンビやゴーストを見れば石を投げてくるだろう。

 アンデッドは食事、睡眠などなくても生きていける。しかしそれでも、生前の記憶を残す彼らは、良いベッドや良い食事を求めてしまうのだ。

 そう、アンデッドは快適さを求めているが、魔族であるがゆえにそれを満たすことができない。

 ただ一つ、メリーズ商会に所属するという方法を除いて。


 逃げ道は……ない。


今後のためにもいろいろ書いておかなければならないことがあります。

忘れないよう、自然に盛り込んでいきたい。

展開は大体出来上がってます。

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