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アースバインの英霊たち

 水の不死王、バルトメウスは砂の上に立っていた。

 ここはグルガンド王国南方、カラン砂漠中央部。砂の舞う大地に、いくばくかの壊れた柱が残された……遺跡のような場所である。

 100年前、アースバイン帝国が隆盛を誇ったこの地に、アンデッドの王とその部下たちが集まっていた。

 クレーメンス亡きあと、主のないこの地はグルガンド王国との緩衝地帯になっていた。本来であれば性急に軍を動かすべきではないのだが、バルトメウス自身の思惑もあり素早くこの地を制圧した。


「会長、準備が整いました」


 配下のダニエルがそう報告した。バルトメウスは彼に命じ、これから行う魔法の準備をさせていたのだ。

 魔法の範囲を決定するため、水糸の力を練り込んだ石を四方に設置。効果範囲が最も集中するのは、やはりバルトメウスの立つ遺跡の中心部がいいだろう。


 魔王エグムントが死んだ。

 もはや一刻の猶予もない。オリビアは虹色の順番に魔王を襲うので、青の後は水色……すなわちバルトメウスなのだ。


 個人で最強のエグムントが敗れた。ならば集団によってオリビアを戦えば勝てるのではないだろうか?

 バルトメウスが出した結論はこれだった。しかしこの方法には大きな問題が存在する。


 不死王軍はあまり強くないのだ。

 元が人間であるが故の限界。バルトメウスと仲間たちは、その枷にとらわれてしまっているのだ。

 だが、もし生きた人間の時代から強かったアンデッドを生み出せたとしたら?

 それはきっと、強力な味方となってくれるだろう。


 バルトメウスがこの地を制圧した目的はただ一つ。かつて魔王と対等に渡り合ったとされるアースバイン帝国の優れた技術と人材を手に入れるため。


「偉大なる創世神オルフェウスよ。水糸の力、我に授けたまえ」

 

 魔法の詠唱。


「――〈水蘇生陣〉」


 それはまるで、草木を育む雨のように。バルトメウスの唱えた魔法は、上空に魔法陣を出現させ、さらにはそこから水色の液体を降らせていった。

 液体が砂地に染み込んでいく。

 そして、地面が緩やかに盛り上がっていった。それはまるで、生命の息吹のように。

 ただし現れたのは草木の萌芽ではなく、白く細い人間の骨だった。


「オ……オオオ……オ」

「ア……アアアア」

「ギギギギ……ギ」

  

 幾人もの雑兵、兵士研究者貴族が一斉に蘇っていく。ゾンビ、ガイコツ、ゴースト、あるいは鎧だけであったりと様々な状態ではあるが、次々と砂に塗れた大地をアンデッドが覆っていく。

 魔法は成功だ。バルトメウスは深くため息をついた。

  

 大規模蘇生魔法、〈水蘇生陣〉はバルドメウスが行使できる魔法の中で最も力を持っている。広範囲に存在する死体の魂を励起し、アンデッドとして復活させるのだ。 

 

「やりましたね会長。うわー、こんなに俺の後輩ができるのか。いやー、緊張しちゃうな」

「ダニエル君。君は他の者と手分けして意識の低い者たちを誘導してくれ」


 バルトメウスの指示に従い、ダニエルたちが動き始めた。復活したてで意思の薄い彼らは、命令に従順だ。近くの仮設テントに収容し、完全な復活を果たすまで待つのだ。


「さて……と」

 

 バルトメウスは改めて眼前に立っている二人のゴーストへと目を移した。

 数多く復活したアンデッドの中でも、この二人は異様だ。

 ゴーストになっても分かるこの格の違い。おそらく、生前はかなり名を馳せた帝国の重鎮だろう。


 一人は錬金術師風の少女。少し癖のあるショートヘア。メガネをかけたローブ姿で、手には杖を持っている。バルトメウスの視線を受け少しだけ顔を赤めているところを見るに、おとなしい性格なのかもしれない。

 

 もう一人は武人風の少女。金色の長い髪をリボンでまとめたポニーテール。金属質の胸当てを身に着け、背には大剣を背負っている。スカートの合間から見えるその足は無駄な肉がなく鍛錬をうかがわせるものである。


「お会いできて光栄だよ、偉大なるアースバインの英霊たちよ。私の名前はバルトメウス、不死王の二つ名を持つ魔王。よろしければ、君たちの名前を教えてくれないかね?」


 まずお辞儀をしたのはメガネの少女だった。


「アースバイン帝国筆頭錬金術師、シャリーです」


 次に、大剣の少女が指でVサインを形作り答えた。


「アースバイン帝国大将軍、クレアよ」


 大将軍クレアと錬金術師シャリー。それは人間として生きていた頃のバルトメウスですら知っていた名。

 100年の時を経ても未だ名の残る、帝国の最重要人物である。

 

 将軍クレアは気だるそうにあくびをした。


「あー、よく寝た。すっごい目が冴えてるわ。今のあたしなら30時間連続で素振りできるわね。嘘じゃないわよ? それぐらい体が軽いってこと」

「お、お姉ちゃん。体が軽いのは、きっと別の理由だと思います」

「しゃ、シャリー。あんた体が半透明になってるわよ。え、うそ、シャリー死んじゃったの……。やだ、あたしを置いていかないでっ! シャリー!」

「お姉ちゃんもです!」


 バルトメウスは内心で驚いていた。

 通常なら、蘇りたてのアンデットは意識レベルが低い。現に他のゾンビやゴーストは、「あー」「うー」と言葉にならないようなうめき声を上げている程度だ。

 このように明瞭に会話ができるなど、聞いたことも見たこともない。

 大当りだ。

 彼女たちは役に立つ。


「それで、その、魔王さんが……私たちを復活させてくれたんですよね。ありがとうございます」

「え? 魔王? この人魔王なの? いいわ来なさいっ! 人類を代表して、このあたしが剣の錆びにしてあげるわ」

「お姉ちゃん。私たちはね、ゴーストになったんですよ。もう魔物なの。人間代表じゃないんです」

「がーん、う、嘘? あたし……人間じゃない? アイデンティティーが崩壊したわ。あたし……誰?」


 どうやらよっぽどショックだったらしく、クレアはうわごとにようにブツブツと何かを呟いている。

 そんな姉を慰めながら、錬金術師シャリーはこちらを向いた。


「それで結局、魔王さんは何が目的なんですか? いえ、私たちに何をしてほしいんですか?」

「むろん、私には私の目的がある。できれば協力してもらいたいが、無理強いするつもりはない」


 特に強大な力を持つこの二人に二心を持たれると大変危険であるため、少なくとも表面上は誠意ある対応を務めておく。


「つまり私たちは自由にしていいと?」

「しかし、生前人間であった君たちなら理解してもらえるとは思うが、世間はアンデッドに対して冷たい。はっきり言って魔族というカテゴリに属する扱いだからね」

「確かにそうですね」

「そこで君たちには、我がメリーズ商会に入会してもらいたい」


 ゴーストの二人はきょとんとした顔になった。


ここからば不死王編になります。


新キャラ増えて魔王視点。

また主人公の影が薄くなってしまうなぁ。

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