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オリビアの失踪

 アレックス国王との話し合いを終えた俺。

 なんというか、クレーメンスが国王だったときは緊張したりモーガンのせいでイライラしたりで、あまり玉座の間に来ることにいいイメージがなかった。それに比べて今は気が楽だ。

 さてと、冒険者ギルドに預けていたオリビアちゃんを迎えに行こう。


「ヨウさん……」


 冒険者ギルド、入り口にて。出迎えた受付嬢が、何やら困ったような顔をしている。

 

「オリビアちゃんは?」

「そ……それが……」


 言いよどむ受付嬢に代わって前に出たのは、顔見知りの冒険者だった。俺がオリビアを預けた奴だ。

 困惑気味、といった様子で額に汗をかいている。顔はやや青い。


「すまねぇ、ヨウさん。あの子、信じられないような速度で走っていって、見失っちまった」

「見失った? 人込みではぐれたじゃなくて?」


 行方不明ってことか? いや待て、それよりも……。


「信じられない速度? お前でも追いつけなかったのか?」


 この男、仮にも冒険者ギルドに所属しているのだ。それなりに腕は立つし、ある程度の場数も踏んでいる。子供一人に追いつけない、なんて話はにわかに信じられなかった。


「あれは……人間の速さじゃなかった」

「…………」


 冒険者に嘘を言っている様子はない。適当な言い訳を吐いているなら、何か態度に出てもおかしくないはずだ。

 おそらく、この男の言うことは真実。

 少し、オリビアを甘く見ていたのか? ちょっと頭の弱い女の子程度のつもりだったんだけど……。魔王を殺す、というその噂通りの身体能力を有していた?

 『お兄ちゃん』、と言って抱きついてきたオリビアを思い出した。

 あの子が?

 にわかに信じられないな。でも、いなくなってしまったのは事実だ。 


「どっちに向かった?」

「ここから北西の道をまっすぐ向かっていったぜ」


 ここから北西というと、魔王エグムント領か。

 あのホモ魔王なら、俺と出合い頭に争うなんてことはないだろう。こちらから出向いてみるのも手だと思う。

 楽観過ぎか? でも、放置しておくわけにもいかないからな……。

 

「すまない、俺は魔王領の近くまで探しに行こうと思う。みんなはこのあたりを探してくれないか? 報酬は弾む」


 さすがに魔王領に入る、と言ったら大事なので、適当に話をしておく。


「いえ……オリビアちゃんを見失ったのは冒険者ギルドのミスです。報酬はいりません」

「ああ、俺も可能な限り手を回してみるよヨウさん」


 受付嬢、冒険者ともに好意的に探してくれるようだ。このあたりで見つかれば……それで話は終わりなのだが。


「じゃあ俺は行ってくる! あとは頼んだ!」


 俺は駆け出した。

 嫌な予感がしてならない。


 

 グルガンド王国北西、魔王エグムント領タターク山脈。

 とても人が住むのには適していない高地。まばらに生い茂る低木と、多くの岩盤によって構成されたこの大地が魔王エグムントの領地である。

 そのひときわ高い山の頂上に城がある。

 魔王エグムントの居城である。

 城、と言っても岩を抉って作っただけの洞窟ような建物だ。そこには何の威厳もなければ、美術的価値もない。はっきり言って原始人が作ったようなその住処は、とても偉大な魔王の住処には見えない。

 ただ、傍から見ても堅牢であることだけは確かだ。巨大な岩そのものであるこの城は、レンガ積みの城に遥かに勝る強度を持っているだろう。

 そんな、いわば防御面では極めて優れた城。


 だが今、魔王の名のもとに平穏を謳歌していたこの居城に、災厄が訪れていた。


 ごうん、とまるで地震でも起きたかのようなけたたましい音が響いた。


「…………」


 ヨウのことを妄想していた魔王エグムントは、唐突に現実へと引き戻された。岩をくりぬいて作られた玉座に座り、数人の側近からの報告に生返事をしていた最中だ。


「なんだ? 何があった?」

「エグムント様っ!」


 側近の一人が血だらけで駆け寄ってきた。


「奴が……奴が来ました! オリビアです!」

「あ?」


 エグムントはあっけにとられてしまった。

 オリビア、と称される少女と彼は、先日の会議で顔を合わせている。

 エグムントは考えた。この少女はあまり力がなさそうだと。

 弱い、とすらに思えてしまうようなひ弱な美少女だ。特に女性に対して恋愛感情を抱かないエグムントにとってすれば、話していてイライラする相手でしかない。

 そんな彼女が、この騒動を引き起こしている? エグムントにはそれが信じられなかったのだ。 

 

 二度、三度と衝撃が走る。その音は徐々にこちらへと迫ってきている。強固な岩の壁が……破壊されているのだろう。

 やがて、目の前の壁が粉砕された。

 

「お前ら、下がってろや」

「し、しかしエグムント様!」


 仮面の男が腰の刀に手を当てた。

 仮面の男は側近の中でも筆頭だ。あまり目立とうとしない男だが、彼のエグムントに対する忠誠と、その秘められた実力はそれとなく理解してる。

 おそらく、彼の力を借りればオリビアなど簡単に倒せるだろう。

 だが――


「つまんねぇだろ? すぐに終わっちまったら。せっかく向こうからお出ましなんだ。ゆっくりと二人っきりで楽しませてくれや」

「し、しかし……」


 土煙の中から、ゆらりと黒い人影が現れる。

 それは、少女だった。

 この男やオス魔族ばかりのむさ苦しい洞窟において、まるで花が咲いたかのようにひときわ輝く少女。ワンピースと青い髪は土埃によって茶色く汚れているものの、その可憐さは衰えることがない。

 だが、今の彼女は息が荒く、まるで獣のような唸り声が上げている。おそらくは、会話は通用しないだろう。もっとも、エグムントは話し合いをしたいとは思わっていないが。


 少女オリビアが、魔王エグムントの前に現れた。


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