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旧都、カラン砂漠

 魔王たちがいなくなって数日後。

 取り立てて何もない平穏な日常を俺は過ごしていた。領地運営は何ら問題なく、イルマとの関係も小康状態。

 今日もベッドで目を覚ます。一日の始まりだ。

 眠い……。

 ん、あれ? ベッドに……違和感が?

 

「ん、んんー、ふわああ」


 しょぼしょぼとした目をこすりながら、あくびをする美少女オリビアさん。なぜか一糸まとわぬ姿で俺のベッドに寝ていたようだ。


「お、おはようございます?」

「おはよう! おにいちゃん!」


 確か昨日の夜、一緒に絵本を読むとかいう話になったんだ。それで絵本を読んでてそのまま寝ちゃった……のか? いやでも裸じゃなかったぞ?


 水色の髪の美少女、オリビアはにっこりと笑って俺に抱きついた。

 ち、近い。

 女の子独特にいい匂いが俺の鼻孔を掠めた。こんなに近くで裸の女の子と触れ合うなんて初めて。いくら13歳ぐらいの幼い体つきといっても、無視できるほどじゃない。


「お兄ちゃんはいいにおい! とっても気持ちよく寝れて、私嬉しい」

「あ、あの、オリビアちゃん? どうして俺のベッドに? 服は?」

「かるすてんがね、言ったの!」


 彼女のまつげが、鼻が、唇が俺の胸元に触れた。その柔らかい肌はまるでマショマロのように柔らかかった。

 うう、駄目だ、なんだか頭に血が上ってる気がする。この状況、ふ、深く考えないようにしなきゃ。


「お兄ちゃんはこういうことが好きだって。ゆーわくするの!」


 抱きついていたオリビアは、俺の体にぎゅっとすり寄ってきた。

 は……はわわ。

 …………。

 …………。

 ちょっと落ち着いてきた。

 あの魔王、何考えてるんだっ!

 いや、……本当に何を考えてるんだ? 俺とこの子をラブコメさせたいのか? 何のために? 何の意図があって?

 ホント、曲がりなりにも主義主張趣味がなんとなくわかる他の魔王たちと違って、あのカルステンとかいうやつはまったくの謎だ。

 

 椅子に脱ぎ捨てたままのワンピースを掴み、彼女に差し出した。


「と、とりあえず服を着て。目に毒だから」

「ゆーわく! ゆーわく!」

「あんまり意味分かってないでしょ?」 


 おっと、そういえばアレックス将軍から呼び出しがかかっているんだった。

 またイルマに言い訳して、王国に行かなきゃいけないな。

 魔王に媚、王国に忠誠を誓い。俺の二重生活、何とかならないのだろうか。



 アレックス将軍……もとい国王に呼び出された俺は、王城へとやってきた。

 心なしか、城下町は活気にあふれているような気がする。モーガンやクレーメンスを追い払ったことがプラスになっているのかもしれない。

 

 イルマには、オリビアが王都に行きたがっていたという話をして納得してもらった。

 オリビアを口実にイルマから外出許可を取る。これは今後の鉄板になりそうな言い訳だ。魔王を殺す天敵、と称さえる彼女に対して、イルマも一定の気を使っているらしい。

 そしてそのオリビアは冒険者ギルドに預けた。金さえ払えばこの手の仕事は何でも引き受けてくれるからな、あそこ。


「ムーア領領主、ヨウ・トウドウ。ただいま参りました」


 玉座の間にて、数人の兵士たちが立っているその場所で、俺はアレックス国王陛下と対面した。

 王冠、王笏を身に着け、金で刺繍された荘厳なマントを身に着けたその姿は、まさしく国王。以前は鎧姿ばっかりだったので、違和感ありまくりだ。


「ふふふ、私がまさか国王になってしまうとはね。この堅苦しい衣装には肩が凝るよ」

「ずっと鎧を着こんでた人が、その衣装を着た程度で肩が凝るなんておかしいですよ。似合ってますよ国王陛下」

「私も社交的というほどではないから、代わる代わる挨拶に来る貴族たちが億劫でね。ヨウ殿、国王代わってくれないか?」

「いえ、その件は蒸し返さないでください。またコーニーリアス宰相に悪口言われちゃいます」


 『ははは』、と笑い合う俺たち。玉座の間に似つかわしくない会話だ。

 さて、無駄話は切り上げて本題に入るか。


「それで、お話というのは?」

「クレーメンスが死んだ……という噂がある」


 アレックス国王が顔を引き締めた。

 魔王たちと接触した俺は知っている。クレーメンスがオリビアによって殺されてしまったという……その事実を。本当にあの子がやったのか、それは大いに疑問なのだが……。

 アレックス国王には魔族側の直接的な情報源はないはずだ。にもかかわらず、この異常事態に気がついてしまったか。


「あるいは、ヨウ殿の一撃が致命傷になったのかもしれないな」

「考えすぎですよ、将軍。あいつ、元気に逃げて行ってましたから、絶対に違います」

「謙遜しなくてもいいぞヨウ殿。その活躍はやがて、皆に知れ渡ることとなるだろう」

「…………」


 なんだか、アレックス将軍は俺がクレーメンスを倒したと勘違いしているようだ。ま、まあ、死んでしまうきっかけを作ったのは確かだから、あながち不正解というわけでもないが。


「ただ、どちらにしてもクレーメンス側の魔族たちが沈静化しているのは事実だ。もはやあの魔王が治める地は領地と言えないほどに、だ」

「領地の件で俺を呼んだ、ということですか?」

「さて、この地図を見てもらおうか」


 アレックス国王が指を鳴らすと、背後に控えていた兵士たちがカーテンを引いた。すると、玉座の背後に世界地図らしきものが現れた。


「現在、王国の南はこのムーア領南側とサラーン平原北部が境界になっている」


 アレックス国王が王笏で地図を指した。

 グルガンド王国南方に位置するサラーン平原は、かつてモーガン公爵の領地に組み込まれたもののクレーメンスによって逆侵攻されてしまった。まあ、今にして思えば自作自演の攻防だったわけだが。


「サラーン平原より南、カラン大砂漠を挟んで向こう側は、水の不死王バルトメウスが支配する領域。ここをあまり刺激すれば、こちらに侵略の手を伸ばしてくる危険性がある……」


 うーん、あのおじさんオリビアのせいでそれどころじゃないって感じだったけどな。むしろ今攻め込むのが戦略的にもベストな気がする。

 ただ、俺もアレックス将軍も戦争強硬派を退けて今ここに立っているのだ。あまり『戦争』と大声で言えない事情もある。

 

「カラン大砂漠はかつてアースバイン帝国が栄えた地。かの地を制圧できれば、栄華を誇る帝国の後継者として王国の名声を高めることもできるのだが……」


 アースバイン帝国?

 そういえば、昔アレックス将軍に話を聞いたことがあったな。たしか100年前に栄えていた帝国で、魔王たちとも互角に戦い合うことができるほどの強さをもっていたんだったか?

 古の帝国の首都、か。


「この国は膿を取り除いたとはいえ、まだまだ軍も再建途中。統率された魔王領と事を構えるのは得策ではない。しかしクレーメンス軍の弱体化はチャンスだ」

「難しいですね」


 ため息をついたアレックス将軍は、王笏でサラーン平原南側を指した。


「そこで我々は消極策に出ることにする。手持ちの兵士たちを動員し、サラーン平原南部を制圧しよう。バルトメウス軍と遭遇したら、撤退する。ヨウ殿もムーア領騎士団を南方に出してくれないか?」

「分かりました将軍。こちらでも軍を動かします。あまり積極的なことはできませんが……」

「クレーメンス領は元より、モーガン公爵の領地であったサラーン平原周辺の領地には統治者がいない。ムーア領に近いいくつかの地域は、ヨウ殿の領地として管理してもらいたい」

「俺の領地が増えるってことですか?」

 

 あまり急激に成り上がるのも、不評を買ってしまうような気がする。大丈夫なのかな?


「未来の国王であるヨウ殿がいくら領地を増やそうとも問題ない。もし文句を言う輩がいたとすれば、それは王である私への反論とみなし……」

「あ、アレックス将軍、穏便にお願いします」


 アレックス国王を宥めながら、俺たちは細かい領土や軍事の取り決めを行っていった。


 こうして、今後の王国運営に関する重要な話し合いは終わった。

 サイモン率いる騎士団を南に差し向ける必要があるようだ。

 鍛冶スキル頑張っちゃおうかな?


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