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魔王討伐軍、激突

 灯台のサキュバスを倒した俺は、すぐに街へと戻った。

 グルガンド王国王都、グルガンド。それこそ俺が最初にたどり着いた街の名前。その冒険者ギルドへと、俺は足を運んでいた。

 王都のギルドということもあり、建物の中は割と広い部屋になっている。入り口近くにはいくつものテーブルが用意され、戦士らしき男たちが談笑している。

 

「灯台の淫魔を倒してきた」


 ざわり、と周囲がにわかに騒がしくなった。

 灯台の淫魔討伐はすでに三度失敗しているのだ。しかも最後に討伐へと向かったのは、ギルド内でもかなり有名な凄腕の冒険者だった。だからこその、この驚きなのだろう。

 その人、ミイラになって死んでいたのは残念だが、その敵をとれただけでも良しとしよう。

 

「またアイツだぜ……」

「流れ者のくせに、ホントよくやりやがる」

「武具はいいものだが、身のこなしは素人にしか見えねぇ。それがどうしてこうも……」 

 

 などと、俺の偉業に驚いている様子。


 俺はある程度信頼を得てるから、『倒した』と言えばもうこれだけでクエストは達成されたものと見なされる。今回の報酬を受け取ることにしよう。

 俺は前に進み、受付のところまでやってきた。

 このギルド受付、女性である。もちろん、そのままでは俺の迷惑スキルに当てられてしまう。 

 そこで、この鎧と兜の登場だ。

 この亜ミスリル(純度の低いミスリル)の鎧は、俺の体内からあふれ出る〈モテない〉レベル956をかなり高いレベルで内側に抑え込む。そしてそのまま足元からフェロモンを流していく仕組みだ。

 このスキル、呼吸により人間の肺に侵入する上側の空気で効果が跳ね上がる。足元のような下側に流れ出す分には、かなりその威力が落とされるのだ。

 これによって、効果範囲はなんと1メートルまで縮まった。ここまでくれば親しい人物でなければまったく問題なく会話をすることができる。


「ヨウさーん、お疲れ様です」


 女の子が身を乗り出し、俺のスキル射程範囲に入りそうになった。


「ち、近寄らないください」

「……? どうしたんですかヨウさん」

「い、いやー、俺、女の子とあんまり話したことなくって。こうやって会話してるだけでも心臓バクバクなんですよ。これ以上近づくのは勘弁してもらえないですかね?」


 と、こうやってごく自然(?)に距離を取ることによって、例の罰ゲームスキルの影響を最小限に抑えている。


「またまたー、女の魔族が絡んでるクエストばっかり受けておいて、そんなこと言っても誰も信じませんよ」


 ま、まあ俺のスキル的にそいつらが一番倒しやすいわけだから、必然的にそっちに流れてしまうわけで。

 この街に流れ着いて半月。俺はひたすら女魔族討伐クエストを受けまくり、その報酬を受け取ってきた。かなりランクの高いものも含まれており、そのおかげで俺の懐事情はすぐに改善。今では近くに宿をとりながら、こんなスキル付きのハイレベル武具を購入できるぐらいになってしまったのだった。


「もうヨウさんや他の方々のおかげで、高難度のクエストがずいぶんと減ってしまいました。もちろん嬉しいことなんですけど、私の仕事減っちゃってますよね」

「そっちの張り紙は何だ?」


 入り口近くのコルクボードにはクエストの依頼用紙が張られている。依頼用紙は難易度によって色分けされているのだが、俺が指さしたそいつは色が付けられていない白色だった。


「王国から魔王軍討伐部隊の依頼ですね。まったく、討伐討伐って言っていっつもボロボロにやられてるんですよね。ヨウさん、悪いことは言わないですから参加しない方がいいですよ」


 ……いよいよこの時が来たか。

 魔王軍を蹴散らし、俺がこの世界で英雄となるのだ。ふははははははっ。

 なーんて、そんなにうまくいくわけないよな。その辺は冷静に自分の能力を理解しているつもりだ。

 ま、まあでも、俺は結構強い武器や防具を装備してるし、(女には)最強チートスキル〈モテない〉レベル956持ってるし。集団戦闘なら、ひたすらこのスキル効きそうな奴を探して倒しまくるって手もある。報酬もかなり出るみたいだから、なかなかねらい目なのかもしれない。

 たぶん行ける。


「その討伐部隊、俺も参加していいかな?」

「えっ、ヨウさん本気ですか? 絶対やめておいた方がいいですよ」

「たまには俺も国に貢献しないとな。いいだろ?」

「……はぁ」


 不承不承といった様子で、女の子は書類の準備を始めた。



 魔王討伐軍、参加。

 東の平原に集まった俺たち魔王討伐軍は、隊列を組みながら前に進んでいる。俺と同じように冒険者ギルドから駆り出されたものや、王国の兵士、そして農家の若者など様々な人々がいた。

 なんというか、急ごしらえ感が強い。全然バランスが取れていない。大丈夫か、この討伐軍。

 気だるさを覚えながら前進していた俺たちだったが、ちょうど平原の中央の位置で立ち止まった。俺たちよりさらに前に進んでいた奴らが、ざわざわと騒ぎ始める。

 隊列の隙間を縫うように遥か先を眺めると、そこには魔物たちがいた。

 ほう。

 

 魔王に下った紫の悪魔、パープルデーモン。

 闇魔法の使い手、ダークエルフ。

 男の精を吸い取る淫魔、サキュバス。

 暗い影の形をした騎士、シャドーナイト。


 その他にも、どう区別していいか分からないような魔物たちがうようよとしている。

 これが……魔王軍か。

 圧巻だ。俺はこの世界に来てまだ日は短く、魔物がこうも群れをなして敵意を向けている姿を見るのは初めてだ。

 だが、遠くから見る限りサキュバスに代表されるような女系魔族も何匹かいるようだ。つけ入る隙は十分にある。


「聞けっ! 王国の勇敢なる戦士たちよっ!」


 背後から力強い声が聞こえた。どうやら、この討伐軍を率いている将軍の声らしい。


「前方に現れたのが我らの敵、紫の謀略王クレーメンス傘下の魔王軍である。奴らに住処を奪われた者、愛する家族を殺された者、皆、様々な思いを胸にここに集まったはずだ。今日をもって、魔族に辛酸を嘗めさせられた人類の歴史は終わりを告げる。我らのムーア領を取り戻せっ! 進めっ!」


 大号令が放たれ、人々は掛け声を上げながら一斉に前へと進んだ。


 こうして、俺たちと魔王軍は激突した。




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