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オリビアとの出会い

 ムーア領はにわかに騒がしくなってきた。

 大勢の客人がやって来ている。表向きは商談、領地の視察、親睦会などなど様々だが、その実はイルマの声によって集められた魔族。

 続々と集まってくる魔王たち。イルマの威光なのだろうか、いずれも大人しくしてくれている。


 すでに到着済みの水の不死王バルトメウス、青の破壊王エグムントはそれぞれこの周辺に泊まっている。近くにいると思うと気が滅入るから勘弁してほしい。

 領主の館近くの薬草畑にいる俺。定期的に歩いておいて、めしべを枯らせる作業をしているのだ。

 おっと、誰か来たぞ。


「緑の森林王クラーラ様です」


 と、近くにいたマティアスが付け加える。最近やたら俺の近くにいるのは、たぶん魔王に失礼しないようにフォローに回っているんだろうな。

 なんだ、あのマスク?

 緑の魔王はガスマスクのようなものを身に着けているため、どのような容姿であるのか推し量ることは難しい。背は俺よりもずっと低く、植物を模した刺繍のあるローブを身に着けていた。

 あれがクラーラさんか。名前から察するに、女の人なのかな。

 

 突然、クラーラは俺に近づいてきた。

 またですかっ!

 よくよく考えてみれば、俺はあのクレーメンスが死ぬ原因を作ってしまった男なんだ。魔王たちに警戒されていてもおかしくはない。


「…………」


 ぺたぺたぺた、と俺の体を触る森林王。


「……あの、何か?」

「……っ!」


 俺の声にびくん、と反応した彼女は、そのまま足早に立ち去っていった。

 何だったんだ、あれ?

 ただ、悪意や敵意は感じなかったから、一応は大丈夫だと思う。変な呪いみたいなことにはなっていないはずだ。


「なんかいい雰囲気の人でしたね」

「それは我が主であるお嬢様よりもあの方がいいと、優れているという陰口ですか?」

「え、いや、そんなこと言ってな……」

「あまり調子に乗らないことですね人間。私がほんの少し力を加えるだけで、あなたなど肉片も残らず消し去ることができるのですから……」

「ひぃ……」


 この人はあまり俺のことを心よく思っていないようだ。イルマ以上に気を使わないと本当に殺されてしまいそう。


「ではわたくしはクラーラ様の案内をしてきます。あなたはくれぐれも変な行動を起こさないように……」

 

 そう言って、マティアスはどこかに行ってしまった。

 変なって、おい、俺は問題児か何かなのか?


 魔族魔王がうろうろしているこのあたりを歩き回るつもりなんてない、さっさと部屋に戻るのがベスト。

 と思って屋敷に戻ろうとした俺だったが、思いがけなくその足を止めることになった。

 一人の、女の子を見かけたからだ。

 なんだあの子? 

 この辺では見ない子だな。


「うぅー、ひぐっ、えぐっ」


 泣いている。ものすごく泣いている。

 その白い衣は女神のように、その麗しい水色の髪は大自然を流れる川のように、見る者の心を奪う。俺は彼女を見て、一瞬であるが息を呑んでしまった。人ではない、まるで物語に出てくる聖女か何かのようにある種の畏敬の念を感じてしまった。

 と、容姿だけ見ればそう言えるのだが、あいにくとかわいそうなぐらいに泣いているため同情の気持ちしかこみあげてこない。


「迷子かな?」


 うーん、見た目13歳ぐらいの子なんだけど、ずいぶんと子供っぽいな。親とはぐれて泣いちゃうっなんて。

 俺は彼女に駆け寄った。もちろん、本当に近くに寄ってしまうと例のスキルが発動して迷惑をかけてしまうため、一定の距離を取っての話だが。


「どうしたんだ?」


 少女は涙ににじんだ目元をこすりながら、俺の方を向いた。


「あのね、かるすてんがね、いないの」 

「かるすてん? それが君のお父さんか?」

「かるすてんのね、絵本が、絵本が、うえーん!」


 うう、要領を得ない。絵本? 絵本が欲しいのかな?

 俺はムーア領公爵の書斎へ行き、絵本を持ってきた。

 どうやら、ムーア公爵に公爵令嬢がいたのは実話らしく、あの書斎にはところどころに薄汚れた絵本のようなものがおいてあった。もう本人いないんだから、あげちゃってもいいだろきっと。


「これをあげるよ。だから元気を出してくれないかな?」


 そう言って、俺は彼女に本を差し出した。なにか妖精と子供の描かれた、俺の知らない物語の絵本だ。


「えほん! えほん!」


 先ほどまで泣いていたのが嘘のように、少女は飛び跳ねながら喜んでいる。


「おにいちゃん、ありがとー。大好きー」


 そう言って、俺に抱きつく少女。

 ちょっ! 急に近づいたら俺のスキルがっ! 

 ……って、あれ?

 俺の〈モテない〉スキルが効かない?

 なんだこの子。まさか今度こそ本当の女装男子? いや、まさか……うーん、でもなんで? 変なスキルでも持ってるのか?


「んん~♪ 妖精さん♪」

 

 邪気のない笑みで絵本を読んでいる女の子。どうやら気に入ってもらえたようだ。


 それにしてもこの子の親、かるすてん? 魔王にこんな名前のやついたよな? まさか……。

 などと懸念していた俺のもとへ、一人の男が現れた。


「かるすてん! もらった! 絵本もらった!」

「それはよかったね。この人にもらったのかな?」

 

 黒い帽子とガウンを身に着けたその姿は、俺の知るヨーロッパの学生によく似ている。


「やあ、僕の名前はカルステン。知らないかなー、これでもイルマの次に古い魔王なんだよ?」

「は、はあ、魔王カルステン様。俺はムーア領領主ヨウです。はじめまして」


 魔王と慣れ合ってしまってる俺。なんというチキン。ここでうおーって剣を振るうのが勇者なんじゃないのか?

 ……いやでも、俺この魔王に何かされたわけじゃないし。そ、そういう『うおー』はいろいろひどいことされて話が盛り上がってきたら、ということで……。


「あっはっはっ、僕の戦闘力見た?」

「な、何の話ですか?」

「ほらぁ、イルマからもらってるでしょ? 〈賢者の魔眼〉って魔具を。あれを使って僕を見ればいんだよ。あの魔具はもともと僕のものだったんだけどね、イルマに脅し取られちゃったんだよねー。いやーイルマって強いからねー。僕も言われたら逆らえないんだよ」

「あ、あの魔具はカルステン様のものだったんですね」

「君も異世界転移でただでさえ大変なのに、〈モテない〉なんて変なスキルもらっちゃって、もうホント災難だよね。同情するよ」

「……は、はは、それはどうも」


 こいつ……俺が異世界転移してきたことを知ってる?

 なんだろう。

 この人には、何もかも見透かされている気がする。急に寒気がしてきた。何度かの修羅場を切り抜けてきたからこそ、感じることができるようになったのかもしれない。

 この男の……危険さを。

 俺はカルステンに言われた通り、〈賢者の魔眼〉を使うことにした。


 カルステン。

 種族、人間。

 戦闘レベル、1。


 確かに戦闘力は1だ。

 いや、それよりも待て。こいつの種族『人間』になってるぞ? 魔王なんじゃないのか?


「ね? ね?」


 そう言って陽気に笑うカルステン。何が面白いのか理解に苦しむ。


 こいつの戦闘レベルは1。魔族ならどんな弱い奴でも100以上はあるのに、この魔王は低すぎる。

 じゃあ今からこいつを俺が倒せるか? と問われればおそらくNOだろう。

 この戦闘レベルというやつは、あまりあてにならないのだ。高い奴が強いのは間違いないが、低いからといって必ずしも弱いわけではない。

 たとえば、何かの魔具を持っていたり、特殊なスキルを持っていたりなどなど、直接的な戦闘能力に加算されない場合はこの数値に反映されないらしい。

 そういう意味で、カルステンという魔王は人間と似ているのかもしれない。自身の力ではなく特殊能力で対応する魔王、ということか。


「この子、オリビアって名前なんだけど、これからも仲良くしてあげてね」

「かるすてん! えほん! えほん」

「あーはいはい、ヨウ君、このあたりに本屋があれば教えて欲しいんだけど……」

「それなら、大通りを進んで5分ぐらいのところに」


 こうして、二人は背を向け絵本を買いに行った。

 オリビア? それって、あの『勇者イルデブランドの冒険』って絵本に出てくる聖女の名前じゃあ……。

 俺は〈賢者の魔眼〉を取り出し、彼女……オリビアを見た。

 あれ、ノイズが。

 これって、イルマを見た時と同じだよな? あの子が……? 

 いや、まさか……ねぇ?

 


 後日、黄の閃光王パウルが来訪。

 こうして、今は亡きクレーメンスを除く6体の魔王がムーア領に集結した。

 魔王たちの会議が始まる。


クラーラ「木を植えますですじゃ……オマエノカラダニ!!!」

カルステン「美少女メイドに姿を変えていたが実は俺が魔王だ! はははっ騙されたな!」

パウル「ハゲじゃねえよ! 太陽のようだと言え!」


などという話があったのですが、全然先に進まなくなるのでカットしました。


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